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2007年1月31日 (水)

次世代ロボットと武器輸出規制について(3)

 それでは,次世代ロボットの製品又はその技術を外国に輸出しようとする企業や個人は,いかなる法規制に服するのであろうか。

 我が国における安全保障貿易管理の仕組みは極めて複雑であるが,根拠法はいわゆる外為法(外国為替及び外国貿易法)であり,その内容をわかりやすく説明すると,次の通りである(以下特に指摘しない場合は外為法の条文である)。  まず,規制の対象となるのは,「貨物の輸出」(48条)及び「技術の提供(役務)」(25条)である。次に,規制の種類としては,「リスト規制」及び「キャッチオール規制」の2種類が存在する。そのため,当該貨物又は技術がリスト規制に該当しなくても,キャッチオール規制に該当するならば,所定の手続が必要になる。これに違反した場合,刑事罰と行政罰が科されることになる。刑事罰は5年以下の懲役と罰金(対象貨物・役務価格の5倍以下,200万円以上)の一方又は両方(69条の6)であり,行政罰は3年以内の輸出又は特定技術提供の禁止(25条の2,53条)である。また,刑事罰については担当者本人のほか,事業主である法人又は人に対しても罰金が科せられる(両罰規定。72条)。いずれの処分も公開されるから,報道されれば企業イメージの低下や社会的制裁は免れない。「リスト規制」と「キャッチオール規制」の併存することが,この制度をわかりにくくしている要因である。これは,東西冷戦から紛争地域・大量破壊兵器の拡散へと時代が変容したことが背景となっている。「リスト規制」と「キャッチオール規制」の関係については,次のように考えると覚えやすい。

①       当該貨物・技術が「リスト規制」のリストに載っているか?

②       リストに無くても,大量破壊兵器製造に使われる危険はないか?

 (小林)(続)



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2007年1月30日 (火)

番組改編訴訟について

 1月30日付の日本経済新聞朝刊によると,「従軍慰安婦問題をめぐる民間法廷を取り上げたNHKの特集番組に取材協力した市民団体が,無断で番組内容を改変されたとして損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決において,東京高等裁判所は製作会社1社だけに賠償を命じた一審判決を変更し,NHKと2社に計200万円の損害賠償を命じたとのことである。NHKは即日上告した。

 この裁判は,番組の内容が内容であるだけに,様々な立場から様々な意見が表明されているが,裁判所は番組の内容の是非には一切無関心であるし,無関心でなければならない。裁判所が問題としたのは,放送番組編集の自由(放送法3条)が,取材対象者との関係でも完全に保障されるのか否か,という点であろう。

 放送法3条は,「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と規定している。放送は時間という枠に制限されるから,編集権は放送の自由の中でも,とりわけ重要な権利である。取材テープの編集も,当然自由である。

 しかし他方,取材の結果を放送する以上は,最低限,被取材者が言わんとするところのポイントを放送しなければ,少なくとも,放送倫理上は問題である。昨今話題になっている「発掘!あるある大事典」でも,学者のインタビューのうち,番組に都合の良いところだけ放送して,番組に不都合な学者の結論をカットした例があったようだが,放送倫理上はやはり問題である。

 もっとも,放送倫理上問題であるとしても,違法であるか否かは別問題である。実際のところ,特にテレビ放送には編集により,視聴者受けする部分だけを切り取って放送する傾向があり,その結果として,発言者の真意が伝わらなかったり,誤解を受けたりする場合もありうる。そのような場合,特に政治家からいちいち訴訟を起こされるようなことになれば,そのこと自体,報道の自由に対する重大な脅威となろう。そこで,放送法は,憲法の定める表現の自由の保障を受け,いかなる編集を行うかは100%報道機関の自律的意思決定に委ねたとして,完全な編集権を保障したと解釈することも可能である。

 この点,新聞報道によれば,東京高裁は,本件について「NHKは国会議員の意図を忖度(そんたく)して番組を改編した」と認定し,その他の事情も総合した上で,被取材者に対する法的責任を負うと判断したようである。憲法が保障する報道の自由は,いかなる政治的圧力にも屈しないという報道機関の強固な意志が前提であるところ,具体的な圧力もかけられていないうちから,政治家の意思を早合点してそれにおもねるのであれば,報道機関が自ら報道の自由を放棄したということになる。この認定が正当であるならば,NHKは放送法3条及び憲法によって保障された番組編集の自由を自ら放棄したと非難されてもやむを得ないであろう。(小林)

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2007年1月28日 (日)

次世代ロボットと武器輸出規制について(2)

武器輸出を規制する法制度として一世代前の人が思い出すのは,ココム(対共産圏輸出統制委員会Coordinating Committee for Export Control)であろうが,冷戦の終結に伴い1994年に解散し,その内容の一部は,199611月に成立したワッセナー協約(Wassenaar Agreement)に引き継がれている。

 ワッセナー協約の全容は(http://www.wassenaar.org/)に掲載されているが,日本語での概要は,経済産業省のホームページで見ることができる。これによると,「ワッセナー協約とは,通常兵器及び関連汎用品・技術の責任ある輸出管理を実施することにより,地域の安定を損なうおそれのある通常兵器の過度の移転と蓄積を防止することを目的として,96年7月に成立した新しい国際的申し合わせに基づく国際的輸出管理体制」であり,冷戦の終結と地域紛争の頻発にともない,旧共産圏諸国も加えた新たな武器輸出管理体制として発足し,我が国は19967月から同協約に基づく輸出規制を開始している。なお,上記の通り,ワッセナー協約は核兵器などの大量破壊兵器関連製品を対象とするものではない。警察庁のホームページによれば,国際的な安全保障貿易管理の枠組みは,次のとおりである。

 このほか,武器輸出に関する我が国の立場を示すものとして,「武器輸出三原則等」と呼ばれるものがある。これは,1967年(昭和41年)に当時の佐藤首相が表明した3原則(①共産圏諸国向けの武器輸出,②国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの武器輸出,③国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの武器輸出を認めない),及び,1976年(昭和51年)に当時の三木首相が表明した政府統一見解を指すとされる。

 以上が武器輸出に関する我が国の基本的立場であるが,これらは条約当事者としての国家に国際法上の義務または責務(ワッセナー協約は条約でないから法的拘束力を有しない)を負わせたり,政府の基本姿勢を示したりするのみであり,これらの条約や協約,政府の基本方針が,直接,個々の国民や企業を拘束するものではない。日本において,個々の国民や企業を拘束するのは,いわゆる外為法(外国為替及び外国貿易法)及び関税定率法である。(小林)

(続)

兵器等

汎用品

通常兵器関連

ワッセナー協約

大量破壊兵器関連

核兵器関連

NPT(核拡散防止条約)

NSG(原子力供給国会合)

生物・化学兵器関連

BWC(生物兵器禁止条約)
CWC
(化学兵器禁止条約) 

AG(オーストラリアグループ)

ミサイル関連

MTCR(ミサイル関連機材・技術輸出規制)

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2007年1月25日 (木)

次世代ロボットと武器輸出規制について(1)

 某国の軍事関係の企業が,階段を自律的に昇降するロボット技術の提供が受けられないかと訪ねてきたという。その企業は明言していないが,市街戦における偵察ロボットに使用する意図ではないか,というのである。建物やがれきの中から被災者を見つけ出すレスキューロボットの技術は,市街戦における偵察ロボットの技術とよく似ているから,軍事転用しようと思えば容易であろう。

 海外の軍事部門が日本の次世代ロボット技術に関心を示したことは,ロボット産業や技術の発展という見地からは喜ぶべきことだが,これに応じることについて,法的に問題はないのだろうか。

 ロボットではないが,軍事転用可能な工業技術を違法に輸出しようとして摘発された近年の例としては,2001年から2005年にかけて大手精密機器メーカーである株式会社ミツトヨが経済産業省の許可を受けずに,核兵器製造に転用可能な三次元測定機器5台をシンガポール及びマレーシアに不正輸出したとして,当時の役員数名が起訴された事件,ヤマハ発動機株式会社の代表取締役が200512月に,経済産業大臣の許可を受けずに無人ヘリコプターを中国に輸出し又は輸出しようとしたものとして経済産業省の告発を受けた事件(平成18年1月1日付けの読売新聞の報道によれば,福岡・静岡両県警の合同捜査本部は,同社スカイ事業部幹部ら数人を逮捕する方針を固めたとのことである),有限会社アイ・ディー・サポートが北朝鮮に対し核兵器等の開発等のために用いられるおそれのあるインバーター(周波数変換器)の輸出に関し,経済産業大臣の許可を受けずに輸出したとして20045月に同社代表取締役が懲役1年執行猶予3年の判決を受け,経済産業省から輸出禁止4ヶ月の行政制裁を科された事件,など枚挙にいとまがない。警察庁のホームページによると,これまで検挙された安全保障関連物資の不正輸出事件は18件とのことである。(小林)

 (続)

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2007年1月24日 (水)

ロボット政策研究委員会

 1月23日,経済産業省で開催されたロボット政策研究員会の次世代ロボット安全性確保検討委員会に出席してきた。
 前回の会議に出席できなかったため,今回は話の流れについて行くのに精一杯であった。
 座長は明治大学の向殿政男教授。安全工学の大家である。弁護士の私はやや門外漢だが,座長をはじめその分野の第一人者のお話を伺えるので,大いに勉強になる。
 清掃ロボットで本年度の「今年のロボット」大賞をとった富士重工業の開発担当者によるプレゼンが行われたが,現場を預かる責任者としての熱気あふれるプレゼンであった。
 この会議で触れられたいくつかのキーワードは,次世代ロボットの安全確保の観点から非常に重要なものになると思われるので,追ってご紹介していきたい。(小林)

次世代ロボット安全性確保検討委員会第1回議事録等はこちら
http://www.meti.go.jp/policy/robotto/gl_summary1.pdf

「今年のロボット」大賞のホームページはこちら
http://www.robotaward.jp/

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2007年1月23日 (火)

鉄道テロ対策とネットワーク監視カメラシステムについて(5)

表題からさらに脱線するが,思考実験として,次の事例を考えてみたい。

われわれ弁護士の経験上,痴漢は極めて再犯性の高い犯罪である。仮に,ある鉄道会社の路線で痴漢行為を働き現行犯逮捕された男性がいたとして,この男性の顔画像データをデータベースに登録し,この男性が同じ鉄道会社の駅改札口を通過した場合に警報が鳴り,職員がさりげなくこの男性をマークする,というシステム(便宜上,「顔認証による電車内痴漢防止システム」と呼ぶことにする)を実施することは,技術上は可能であろう。

このようなシステムは適法であろうか。

多くの女性は,諸手をあげて「顔認証による電車内痴漢防止システム」の導入に賛成するのではないだろうか。しかし,このシステムが適法であるならば,同様の様々なシステムが考えられる。例えば,ある百貨店において万引で現行犯逮捕された女性がいるとして,この女性の顔データをデータベースに登録し,同じ系列の百貨店に入店すると警報が鳴り,従業員のマークを受けるという「顔認証による万引防止システム」である。このようなシステムは適法であろうか。「なぜ女性なのか」とお叱りを受けるかもしれないが他意はないのでご容赦頂きたい。

上記のようなシステムについて,適法だという人もいれば,違法だという人もいよう。それはそれで構わない。問題は,このような思考実験によって色々なシステムを想定してみたとき,「さすがにこれはやっていけないことではないのか?」と判断される限界点がどこかにあるだろう,という点である。その限界点がどこかについて,われわれ法律家を含む多くの人たちが真剣に検討しなければならない時代が既に来ていると思う。(小林)(了)

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2007年1月22日 (月)

情報処理学会誌に拙稿が掲載されました

 社団法人情報処理学会の学会誌「情報処理」の1月号の特集「安全と安心のための画像処理技術」に,拙稿「人物を認識することの法的問題点~監視カメラシステムの設置運用基準~」が掲載されました。現時点では私の考えるところが一番コンパクトにまとめられているものですので,興味のある方はご一読下さい。(小林)

情報処理学会のホームページはこちら http://www.ipsj.or.jp/

情報処理学会誌の購入・立ち読みのページはこちら

http://fw8.bookpark.ne.jp/cm/ipsj/mokuji.asp?category1=Magazine&vol=48&no=1

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2007年1月19日 (金)

鉄道テロ対策とネットワーク監視カメラシステムについて(4)

 このように見てくると,鉄道テロ対策目的で,「駅顔認証システムを用いた地下鉄セキュリティ」システムを実際に運用することについては,適法性に大きな疑問符が付く,ということになる。

これに対しては,「機械的な不審人物の判定を行うのみとして,録画しなければいいのではないか」という指摘が考えられる。確かに,プライバシー権を保護する方向に向けた,一つの考え方ではあろう。しかし,現実問題として,本件システムが録画を伴わずに運用される,とは考えられない。2005年7月7日にロンドンで起きた同時爆破テロは,監視カメラ画像が録画されていたからこそ,犯人の早期特定が可能だったといわれている。

以下は表題からは脱線するが,顔認証システムを有効利用したいという立場から考えたとき,どのような目的であるならば,違法性の問題を回避できるか考えてみたい。

例えば,「指名手配犯を発見する」という目的であればどうか。この目的であれば,目的自体は正当であるし,目的と手段との合理的関連性のテストからしても,問題はないと言えそうである。それでも,他に問題がないわけではない。ごく僅かな指名手配犯を発見するために,改札口を通過する無辜の市民全員を撮影し録画することが適法なのか,という疑問は提起されよう。原則として録画は行わず,顔認証システム上指名手配犯と合致する人を検知したときのみ,その前後数十秒を録画する,という運用ができるのであれば,理想的であろうが,現在の技術水準に照らして,そこまで可能であろうか。また,技術水準がどれほど進歩したとしても,判定ミスによる誤認や,しきい値の設定による見逃しが発生することは避けられない。このような誤認や見逃しが,一般利用者から見て許容しうる範囲にとどまらない限り,指名手配犯発見を目的とする顔認証システムが社会から拒絶される可能性は存在する。(小林)(続)

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2007年1月15日 (月)

鉄道テロ対策とネットワーク監視カメラシステムについて(3)

ネットワーク監視カメラの設置運用手段が正当か否かを判定するテストはいくつか考えられるが,その中に,「目的と手段の合理的関連性のテスト」がある。本件に即して平たく言えば,「地下鉄テロ事件の首謀者として国際手配されている人物の顔データをデータベースに登録することによって,地下鉄テロは防止できるか?」というテストである。

筆者はテロ対策やセキュリティ対策の専門家ではないが,素人なりに考えてみると,地下鉄テロ首謀者の顔データをデータベースに登録したからと言って,地下鉄テロは防止できないと思う。経験則上,現代のテロ実行形態は自爆テロであり,実行犯は名もなき一般人であって,国際指名手配を受けるような「大物」がテロを実行するとは思われないからである。なるほど,国際指名手配テロリストが地下鉄構内をうろついていれば,それは恐ろしいことである。彼は地下鉄テロ実行場所の下見に来たのかもしれない。しかし,単に仲間に会うため移動しているのかもしれないし,遊びに来ているのかもしれない。「国際指名手配テロリストが地下鉄の改札を通過した」という事実と,「その地下鉄でテロが発生する」という事実との間には,余りに多くの仮定が存在する。

もちろん,テロと戦う国内外の専門機関や組織が把握する危険人物は,首領だけではあるまい。指名手配こそしていないが,マークされている「危険人物」も多いであろう。では,そのような「危険人物」を本件システムのデータベースに登録してはどうだろうか。

これならば,「目的と手段の合理的関連性」のテストはクリアーできそうである。しかし,「手段の正当性」の条件を満たすためには,「その手段が他の法令に違反しないこと」も必要である。逮捕状が出ていない人間の顔データをデータベースに登録することは,未だ犯罪を実行していない者に対する公開指名手配捜査を行うに等しいから,法律の裏付けがない現状では,原則として許されないといわざるを得ない。同様に,特定国の国民であることや,特定の人種であることのみを理由としてデータベースに登録することも違法となろう。

もちろん,緊急事態であれば例外である。歴史にIFは無いが,もし,地下鉄サリン事件が起こった時点で,本件システムが技術的に可能であったとするならば,かの宗教団体の構成員であるというだけの理由で,データベースに登録することは,緊急事態を理由に許されたかもしれない。(小林)(続)

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2007年1月13日 (土)

七夕のドタバタ(4)

 聖マタイ病院の救急救命センターで死に瀕していたムハマンドは,私たちが駆けつけた時にはすっかり回復していた。妻はムハマンドに抱きつき,泣きながら言葉を交わした。担当の女医はてきぱきと複数の救急患者に対する指示を出しながら,ムハマンドはおそらくストレス性の一時的な呼吸障害であり,1時間ほど様子を見て問題がなければ,入院の必要はないと言う。警察官が近づいてきて,刑事訴訟法上は,被疑者ムハマンドは警察官の立ち会い無く弁護人と接見できるが,今回は特別に病室にいることを許してほしいと聞いた。私は構いませんと答えた。どうせ通訳がいない以上,話もできないのだ。ただ,ムハマンドの妻に事情を聞いたりするのは止めてほしいと伝えた。警察官は笑って,もちろんですと答えた。彼は捜査担当ではないし,イラン人と話ができないことは私と同じだった。

 2時間ほどして,救急車が到着し,ムハマンドは警察署に護送されることになった。豪雨は止み,晴天の空には星が光っていた。腰縄をつけられ連行されるムハマンドに,妻が駆け寄って抱きついた。担当警察官も素知らぬふりをして,別れの時間を与えた。

 「そういえば,今日は七夕ね」

 私の隣で見送っていた担当の女医が,突然そう言った。見ると,眼鏡の奥で,救急車の赤色灯がきらきらと光っていた。 (小林)(完)

(この記事は実話ですが,登場した個人名,団体名はすべて匿名にしてあります。)

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2007年1月12日 (金)

「パトカーに防犯カメラ」の記事への疑問

「犯罪の多発地域を中心に最新式カメラを搭載したパトカーを走行させ、街角の映像を自動録画する全国初の措置を、警視庁が導入する方向で検討していることが明らかになった。」との報道が本日あった。

パトカーのフロント部分に固定したデジタルビデオカメラで最長12時間録画できるようにしたシステムをパトカー700台に導入し,犯罪がおきた場合,不審者を発見した場合のほか,警察署長が必要と認めた地域で,走行中にカメラを作動させ,街頭の映像を記録しようというものだそうである。「パトカーが街頭を撮影している」という意識を広げ,犯罪抑止につなげる狙いとのことである。

アメリカではすでにパトカーのフロントに固定カメラが設置されており,決定的場面を撮影した映像がニュースや報道番組で放映されている。これに対して東京では,都内の全パトカー1400台のうち五百数十台に家庭用ビデオカメラが搭載してあり,必要なときは警察官が手持ちで撮影するのだという。これではいざというとき,撮影に手が回らないのは当然であり,アメリカに比べお粗末との印象をぬぐえない。

情報化社会となった今日,パトカーが犯罪に遭遇したとき,証拠として録画するシステムを備えるべきことは,当然といえよう。犯罪そのものではなくても,不審者(車)や犯罪の痕跡と思われる場所を撮影することも,運用規準をどうするかという問題はあるが,認められてよいと思う。

この記事を読んで私が理解できなかったのは,「警察署長が必要と認めた地域で,走行中にカメラを作動させることにより,犯罪抑止につなげたい」という部分である。記事によれば,抑止の対象となる犯罪類型としてはひったくりや路上強盗が挙げられている。

パトカーが走行中にカメラを作動させることによって「初めて」抑止される犯罪というのは,一体何なのであろうか。私がひったくりを計画している街のチンピラなら,パトカーが巡回してくれば,それがカメラを搭載していようがいまいが,パトカーが立ち去るまでは犯罪行為に及ばない。それが健全な常識(?)を持つ犯罪者のふるまいであろう。記事によれば,カメラを搭載したパトカーは,「警察署長が必要と認めた地域」ではカメラを作動させっぱなしで巡回するという。パトカーがカメラを搭載しないでその地域を巡回したのでは実現できないことが,カメラを作動させて巡回すれば実現できるということであろう。つまり,「パトカーが来た」というだけではひったくりや路上強盗をやめない(=パトカーの前で堂々とひったくりや路上強盗を遂行する)が,そのパトカーに録画されているとなれば,ひったくりや路上強盗を諦める輩(やから)が,その「警察署長が認めた地域」にはたむろしている,ということになる。本当にそのような人間や地域が存在するのであろうか?それとも私は根本的な誤解をしているのであろうか。分かる方,教えて下さい。(小林)

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2007年1月11日 (木)

鉄道テロ対策とネットワーク監視カメラシステムについて(2)

実施された「駅顔認証システムを用いた地下鉄セキュリティ」システムは,一般人が利用できないように分離した改札で,ボランティアを通行させて実証実験が行われたようである。この場合,被撮影者の完全な同意があるので,この実証実験自体はもちろん適法である。問題は,仮に,このシステムが一般人相手に実施された場合にどうなるか,という点だ。

詳細は別の機会にゆずるが,駅という公共の場所に監視カメラを設置することが許されるためには,その目的が正当であり,かつ,その手段が正当であることが最低条件である。「駅顔認証システムを用いた地下鉄セキュリティ」システムは地下鉄テロ対策を目的とするものであり,この目的が正当であることについて異論はあるまい。とすると,問題は,手段が正当か,という点である。

国土交通省のホームページよれば,本件システムの実施手段は,第一に,特定の人物の顔データをデータベースに登録し,次に,通行人を複数のカメラで撮影して照合し,画像の人物を特定する,というものである。この順番に従って検討すると,まず,「特定の人物の顔データをデータベースに登録する」ことは法律上問題ないのであろうか。

言うまでもなく,顔データは,本人を特定する重要な情報であるから,個人情報保護法で保護されていることは勿論,本人にとって,重要なプライバシー情報である。本人の同意なくデータベースに登録することが許されるには,それなりの正当性がなければならない。本件システムが地下鉄テロ対策を目的とする以上は,地下鉄テロと無関係な人物をデータベースに登録することは,不当なプライバシー権侵害として許されない。

では,例えば,ロンドンの地下鉄テロ事件の首謀者として国際指名手配されている人物(そのような人物がいるのかどうか,筆者は知らないが)の顔データを登録することはどうか。この場合,件の首謀者に,プライバシー権侵害を主張する権利はない。しかし,地下鉄テロ首謀者の顔データをデータベースに登録することによって,地下鉄テロを防止することができるか否かは別問題である。(小林)(続)

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2007年1月 9日 (火)

七夕のドタバタ(3)

 東京の山手線を時計の文字盤にたとえると,東京駅は3時,聖マタイ病院は4時の右下あたりになる。当時私の自宅があった川崎市は8時の左,ムハマンドの妻が住んでいた大久保は10時といったところか。私とムハマンドの妻は7月7日午後11時に新宿駅で待ち合わせ,地下鉄で聖マタイ病院に向かった。

 ムハマンドの妻は,レストラン用のおしぼりを袋に詰める工場でパート勤めをしていた。夫の給料と合わせても月数万円にしかならない給料は,それでも母国での収入を上回る。彼らは僅かな収入の半分を帰国後に作る予定の子どもらのため貯蓄している。突然夫を失うかもしれないという知らせに,彼女の表情は硬く,向かいの窓に映る自分の顔を見つめて身じろぎもしなかった。彼女の運命のように,地下鉄は漆黒の闇の中を疾走した。 (小林)(続)

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2007年1月 7日 (日)

平成19年の新年に当たり天皇陛下のご感想

年初に報道される天皇陛下の新年のご感想を気にとめたこともない私であったが,今年の「ご感想」には考えさせられた。それは,この部分である。

 「皆が,互いに信頼し合って暮らせる社会を目指し,力を合わせていくよう,心から願っています。」

 この部分が例年と比べ異例であることは,ここ10年の「ご感想」を見比べてみれば明白である。詳しくは宮内庁のホームページをご参照されたい。

「ご感想」は例年200字~300字程度の短い文章であり,その大半は世界情勢や我が国の自然災害等を気遣う内容に割かれる。指摘した部分は最後の1行であり,「本年が,日本と世界の人々にとって明るい年となるよう祈っています。」といった,比較的意味の薄い,定型的な締めの文句が用いられるのが通例だ。

本年,異例にも「相互に信頼できる社会を目指し」との文句が用いられたことは,現在の我が国が相互不信社会になっている,またはなりつつあるとの認識があることを示している。この認識を天皇が示すに至ったことには,それなりの意味があると見るべきだろう。

私は,ネットワーク監視カメラ・防犯カメラの普及について,基本的にこれを支持する立場をとっている。それは,結果として我が国の社会に利益をもたらすと考えるからではあるが,その背景に相互不信社会の登場があることは紛れもない事実である。

相互不信社会に空いた穴を監視カメラで埋めるべきなのか,監視カメラなど不必要になるように,相互不信社会を解消するべきであるのか。もちろんこれは極端な二元論ではあるが,監視カメラの普及を推進する立場にある者こそ,この疑問を頭の片隅に常に置いておくべきであると思う。(小林)

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鉄道テロ対策とネットワーク監視カメラシステムについて(1)

国土交通省鉄道局のホームページによると,財団法人運輸政策研究機構の主催により,カメラの映像から特定の人物を顔の特徴により照合・認証するシステムの技術的検証を行うことを目的として「顔認証システムを用いた新規カメラ研究会」を開催し、平成18年5月1日~19日に東京メトロ霞ヶ関駅において実証実験を実施したとのことである。このホームページに添付された「同実証実験の概要」というPDFファイルによると,この実証実験は,「鉄道利用者にとって抵抗感の少ない不審物,爆発物,不審者の検査等に関する新技術の導入可能性の検討を行う」ことを目的とするものであり,具体的には,「改札等を通行する人物を複数のカメラで撮影し,立体画像データ処理により,事前に登録されているデータベースの画像データ一覧と照合し,画像の人物を特定する」という手段をとるようである。そして,この実証実験は,平成18年5月1日から19日にかけて,東京メトロ霞ヶ関駅において実施された。http://www.mlit.go.jp/tetudo/kiki/02_naiyou.html

ところで,この実証実験に対しては,「監視社会を拒否する会」という団体が,国土交通省に対し,実証実験を中止する申し入れを行った。同団体のホームページによると,この会は急増するネットワーク監視カメラシステムは,人間Nシステムであって,「市民一人一人の一挙手一投足が,政府・警察によって監視される社会になる」との警鐘を鳴らし,監視社会の進行にストップをかけることを趣旨とする会である。

http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/

実際のところ,地下鉄に限らず,駅構内に設置される監視カメラの数は,近年急増していると感じられる。この現象に対しては,利用客の安全を守るためには当然とする意見も多いだろうし,不愉快だがやむを得ないという消極的支持も多いだろう。特に,9.11以降は,テロ対策といわれれば,表だって反対しにくい雰囲気もある。その中で表立って反対の声を上げた「監視社会を拒否する会」の主張だが,この主張は法律的に見た場合,正当だろうか。以下数回に分けて,この「駅顔認証システムを用いた地下鉄セキュリティ実証実験」の法律上の問題について考えてみたい。(小林)(続)

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2007年1月 6日 (土)

ヒューマノイド規制法について

 大阪毎日放送ラジオの大谷邦郎ディレクターの依頼を受けて,平成18年1月6日のラジオ番組に出演した。この番組は,ロボットの未来像を探るというコンセプトのもと,数人のロボット関係者へインタビューを行い,その結果を編集して放送するというものであり,私もやや門外漢ながら,インタビューに応じた次第である。

 このとき大谷ディレクターが私に出した質問は,「将来,ロボットにどのような法規制が科されると思いますか?また,ロボットが社会に受け入れるためにはどのような法律が必要ですか?」というものであった。番組内で,この質問に旨く応えられたか否かははなはだ疑問であるが,このとき,私が考えたことは次のようなことである。

まず基本的な前提として,我が国の法律にはロボットに関する定義規定は存在しないし,ロボットの製造販売を一般的に許可する法規も存在しないということだ。こう聞くと真面目な日本人は「法律がないならロボットは作ってはいけないのか?」誤解しがちであるが,日本は自由主義国であるから,法律が存在しないということは,原則として何をやっても適法であることを意味する。

もちろん,ロボットの製造販売を一般的に禁止する法律がないからといって,個別の法律に違反することはできない。例えば鉄腕アトムを製造販売するのであれば,動力源となる原子炉については原子力に関する各種法規が適用されるし,お尻に組み込んだマシンガンには銃刀法が適用される。アトムが暴走して市民を殺傷すれば,生みの親である天馬博士は業務上過失致死傷罪のほか民法上の損害賠償責任に問われる。もっとも,「育ての親」であるお茶の水博士がどのような法的責任を負うかは難しい問題であるが,それは別の機会に論じるとしよう。

おそらく当面は,ロボットそのものを規制の対象とする法体系は作られないであろう。現時点でロボットを法的に定義して一貫した法体系に組み込むことは極めて困難であるし,現行の法体系でそれなりに対応が可能だからである。

しかし将来は,ロボットそのものを規制の対象とする法体系が必要となると予想される。もちろん,はるか未来(といっても50年~100年先)には,ロボットが一種の「人格」を持つ可能性があり,そうなれば,「ロボット3原則」のような,ロボットそのものを名宛人とする法律が制定されるかもしれない。「アイ・ロボット」や「A.I.」は,ロボットが人格を持った世界を描いた映画である。

しかし,私が予想する「ヒューマノイド規制法」は,ロボット自体が人格を持つ遠い未来の話ではない。ロボット自体が人格を持つ以前であっても,ロボットそのものを規制の対象とする法体系が作られる未来は,さほど遠くないと思う。10年ないし20年先には,「ヒューマノイド規制法」と称する法体系が登場するのではないか。

「ヒューマノイド規制法」が制定される背景には,次世代ロボット技術の進歩により,人間が普通にロボットに感情移入するという未来世界における社会的心理学的現実が存在する。そのロボットは,人間そっくりかもしれないが,人間とそっくりであることは,感情移入の必要条件ではないと思う。現代でさえ,AIBOのオーナーは,数十台の同型のAIBOの中から自分のAIBOを見分けるというではないか。ごく近い将来,老人ホームなどで,愛玩ロボットを巡る三角関係が発生したり,メイドロボットと心中するオタク青年が出てきたりしても,一向に不思議でない。

ロボットから目を転じれば,現代でも,人間が人間以外の物に感情移入する例は多く見られる。ペットがそうであるし,生物以外の物としては人形がその代表格である。法的には自分が所有する人形の首をもごうが,ゴミ箱に捨てようが,何ら問題がない(ペットも最近まで法的には無生物と同様の扱いであったが,動物愛護法の制定によって,自分が所有するペットであっても虐待は刑事罰の対象となった)が,道徳的には許されない。捨てるにしても,一定の敬意を払うか,あるいは宗教的手続に則って廃棄される。逆に言えば,人形はこのような道徳的規範や宗教的規範の枠内で対応が可能であったといえる。しかし,次世代ロボットの登場する近未来においては,おそらく,道徳的・社会的・宗教的規範だけでは対処が不可能となり,法規範の制定が求められるようになろう。

このように考えてくると,「ヒューマノイド規制法」の内容は,次の3点になると思われる。

第1点は,製作における制限である。人間そっくりのロボット製作が禁止されるか,または,実在する(実在した)人間そっくりのロボット製作が禁止されるであろう。交通事故で死亡した息子にそっくりなロボットを製作する天馬博士の行為は違法となるのである。また,性的愛玩用ロボット製造の是非についても議論が必要となろう。道義的には全面違法とすべきであろうが,無理に法的規制を行っても,闇ルートで製作・流通するだけである。

第2点は,使用方法における制限である。これは,ロボットを利用して違法行為や道徳・社会倫理違反の行為をさせない,という規制である。典型的には軍用ロボットや犯罪用ロボット,愛玩用ロボットに対する規制が問題になろう。

第3点は,廃棄の制限である。ある種の次世代ロボットについては,指定業者に引き取らせる方法のみでしか廃棄が許されなくなるであろう。この点は家電リサイクル法の適用ないし改正で対応できるとの見解があるかもしれないが,次世代ロボットの不当廃棄の禁止と,家電製品の不当廃棄の禁止とでは,禁止の目的が異なる。家電リサイクル法の目的は環境保護ないし資源の有効利用にあるが,ヒューマノイド規制法の目的は,ロボットの不当廃棄が社会ないし人心に与える悪影響を排除することにある。

なお,以上の考えは,私のオリジナルではない。押井守監督の映画「イノセント」は,「ロボットに人格が宿る」ということと,「ロボットに人格があると(人間が)考える」こととは違う,ということを明確に示した,私が知る限り最初の作品である。(小林)

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2007年1月 5日 (金)

七夕のドタバタ(2)

聖マタイ病院救急救命センターからの電話は緊迫していた。ムハマンドが私と接見した後しばらくして呼吸が停止し,直ちに病院に搬送された。直ちに近親者に会わせたいが,自宅の電話番号が分からず,連絡が取れないという。彼は,同じく不法滞在者である妻を守るために,自宅の電話番号を警察に言っていなかったのだ。私は直ちにムハマンドの妻に電話をしたが,日本語と英語のチャンポンで話しても全く要領を得ない。通訳のイラン人と電話が通じ,事情を話してムハマンドの妻に伝言してもらい,午後11時に新宿駅前の待ち合わせ場所までつれてきてもらうことになった。「ムハマンドがなぜ倒れたか分かりますか」と聞くと,通訳氏は「そういえば,彼の顔色は悪かったですよ。気づきませんでしたか」という。しかし申し訳ないが,私にはイラン人の顔色の区別はつけられないのだ。 (小林)(続)

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2007年1月 3日 (水)

通学路防犯カメラの法的問題点(奥津小学校の事例)

 少し前の話だが,中国新聞の地域ニュースに,興味深い記事を二つ見つけたのでご紹介したい。

 一つは,平成18年11月3日付の記事で,見出しは「防犯カメラで通学路を点検」とあり,岡山県鏡野町の奥津小学校で,通学路に設置した9台の防犯カメラにより,児童の登下校の安全を点検するシステムが開始されたとのことである。写真が貼付してあり,「コンクリート柱の上部に据えられた防犯カメラの下,元気に集団登校する奥津小の児童」と説明書きが添えられている。全体として,歓迎ムード一色の記事である。

 もう一つは,平成18年11月13日,つまり上記の記事の10日後の記事で,見出しは「課題抱える通学路防犯カメラ」となっている。記事中に,「先進的な犯罪抑止策として注目される一方,監視体制の整備や住民のプライバシー保護など課題も抱える。町と町教委は9月までに,住民や保護者への事前説明会を開催。撮影は登下校時の計5時間に限定し,カメラの設置場所にその旨を明示した。」との記載がある。こちらは,同じニュースソースであるにもかかわらず,監視カメラシステムの「負の側面」に配慮した内容となっている。

 僅か10日の間に,これほどニュアンスの違う記事が出た背景に何があるのか。最初の記事に対して,読者などから問い合わせや苦情があったから後の記事を出したのか,それともただの穴埋め記事なのか,その辺は分からない。

 記事によれば,奥津小学校の児童数は74人とのことである。岡山県の奥津といえば,奥津温泉郷で有名な地域であるが,かなりの田舎である。学区は広大であろう。写真には「集団登校」する児童が写っているが,片道1時間以上一人で歩いて登下校する児童も多いのではないかと想像される。このような地域において,監視カメラシステムを使って登下校を監視する必要性があるのか,あるとして,9台で足りるのか,監視カメラシステムは職員室から操作するというが,果たして登下校の時間中,担当者が張り付いて9台のモニターを監視するという作業が合理的で実現可能なのか,濫用のおそれはないのか,もし,職員が目を離している隙に事件が起きたら,学校側は責任を取るのか,など,記事に触発される疑問は尽きない。(小林)

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2007年1月 1日 (月)

七夕のドタバタ(1)

 総合病院の救命救急センターから電話をもらったら,誰でも,その患者はもうすぐ死ぬと思うだろう。まして,夜10時の電話である。7月7日夕刻から降り始めた雨は豪雨となり,カーテン越しに遠雷が不気味な光を放っていた。私は,自分の弁護活動上のミスのために一人の男が死に瀕しているという事実の前に慄然としていた。

 

 男の名を仮にムハマンドとしよう。彼は不法滞在のイラン人である。弁護士になって当時2年目の私は,当番弁護士として弁護士会から派遣され,7月7日午後,警察署の接見室でムハマンドと面会した。

 「私には妻が日本にいます。強制送還されたくありません」

 ムハマンドは必死に訴えるが,彼を強制送還から救う方法は無かった。イランに帰っても仕事がないと言われても,答えようがなかった。私は,妻への伝言はないかと聞いたが,イラン人の妻は日本語も英語も分からないというので,同行したイラン人の通訳に伝言を頼み,自宅の電話番号を聞いて,我々は警察署を引き揚げた。外国人の不法滞在事案は,弁護人として打つ手がほとんど無いという意味において,比較的気楽な事件である。当時の私には,そのような考えと多少の慢心があったかもしれない。(小林) (続)

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