鉄道テロ対策とネットワーク監視カメラシステムについて(4)
このように見てくると,鉄道テロ対策目的で,「駅顔認証システムを用いた地下鉄セキュリティ」システムを実際に運用することについては,適法性に大きな疑問符が付く,ということになる。
これに対しては,「機械的な不審人物の判定を行うのみとして,録画しなければいいのではないか」という指摘が考えられる。確かに,プライバシー権を保護する方向に向けた,一つの考え方ではあろう。しかし,現実問題として,本件システムが録画を伴わずに運用される,とは考えられない。2005年7月7日にロンドンで起きた同時爆破テロは,監視カメラ画像が録画されていたからこそ,犯人の早期特定が可能だったといわれている。
以下は表題からは脱線するが,顔認証システムを有効利用したいという立場から考えたとき,どのような目的であるならば,違法性の問題を回避できるか考えてみたい。
例えば,「指名手配犯を発見する」という目的であればどうか。この目的であれば,目的自体は正当であるし,目的と手段との合理的関連性のテストからしても,問題はないと言えそうである。それでも,他に問題がないわけではない。ごく僅かな指名手配犯を発見するために,改札口を通過する無辜の市民全員を撮影し録画することが適法なのか,という疑問は提起されよう。原則として録画は行わず,顔認証システム上指名手配犯と合致する人を検知したときのみ,その前後数十秒を録画する,という運用ができるのであれば,理想的であろうが,現在の技術水準に照らして,そこまで可能であろうか。また,技術水準がどれほど進歩したとしても,判定ミスによる誤認や,しきい値の設定による見逃しが発生することは避けられない。このような誤認や見逃しが,一般利用者から見て許容しうる範囲にとどまらない限り,指名手配犯発見を目的とする顔認証システムが社会から拒絶される可能性は存在する。(小林)(続)
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