防犯カメラと個人情報保護法について
「『防犯カメラ設置中』という張り紙がありますが,あの貼り紙を貼らずに防犯カメラを設置したら違法ですか?個人情報保護法上は,張り紙を貼らなければならない,という話を聞いたのですが。」という相談を受けることがあるが,これに対する回答は,やや複雑だ。
個人情報保護法18条1項には,「個人情報取扱事業者は,個人情報を取得した場合は,あらかじめその利用目的を公表している場合を除き,速やかに,その利用目的を,本人に通知し,又は公表しなければならない。」とある。
そこでまず,防犯カメラによる撮影が「個人情報を取得した場合」に当たるか否かが問題となる。
個人情報の定義は個人情報保護法2条1項に規定されているが,要するに,それによって個人の特定が可能な情報か否かで決せられるから,防犯カメラで撮影した画像は,個人が特定できるほど鮮明なものである限り,個人情報に当たる。もっとも,録画せず,モニタリングするだけなら,個人情報を「取得」する場合にあたらないので,個人情報保護法の適用はない。人間の脳みそに記録する場合は,情報の取得にあたらないのだ。
次に,防犯カメラで撮影した画像が個人情報にあたるとして,撮影者が「個人情報取扱事業者」にあたるか否かが問題となる。
「個人情報取扱事業者」の定義も分かりづらいが,要するに,「検索可能な個人情報を5000人分以上保有したことのある事業者」である。電話帳は除外されるが,顧客名簿や従業員名簿,職業団体名簿や同窓会名簿などを事業目的で5000人分以上保有したことがあれば,個人情報取扱事業者に該当する可能性は高い。ただし問題となるのは,防犯カメラで撮影された人数はこの5000人にカウントするのか,という点である。
防犯カメラの画像が個人情報に該当することは既に述べたが,これが検索可能でなければ,5000人にカウントされない。そうすると,現在市販されている技術水準では,防犯カメラの画像から特定の個人を検索することはできないから,防犯カメラに撮影された人数は5000人にカウントされないという結論になる。もっとも,顔認証技術の発展により,録画された防犯カメラの画像から特定の個人の画像を機械的に検索する技術は既に開発されているから,この技術を導入した場合には,防犯カメラの画像も検索可能な個人情報となり,5000人にカウントされることになる。
以上をまとめると,「個人情報取扱事業者」にあたる事業者は,防犯カメラで録画を行う場合には,その利用目的を通知・公表しなければならない,ということになる。
但し,「通知・公表」とはいっても,個人情報保護法上は,「防犯カメラ設置中」という「張り紙」をしなさい,とは書いていない。個人情報保護法上の解釈としては,利用目的をホームページ上で公表してもよい。結局,個人情報保護法上は,「防犯カメラ設置中」という張り紙をしてもしなくてもよいということになる。(小林)
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コメント
寮の管理人が寮内の防犯カメラの録画を閲覧し、規則違反している居住者の写真(個人を特定できる写真)を寮内に当人に知らせずに張り出すことは、プライバシーの侵害にはならないのでしょうか。
投稿: 匿名 | 2017年10月23日 (月) 02時38分