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2007年2月 7日 (水)

次世代ロボットと武器輸出規制について(5)

 ところで,階段を自律的に昇降する機能を有する次世代ロボット又はその技術は,外為法による輸出規制の対象になるであろうか。

 まず「リスト規制」についてみてみると,階段を自律的に昇降する機能を有する次世代ロボットは,輸出貿易管理令別表第1の1の(7)に規定された「軍用車両」に該当する可能性がある。「軍用車両」の定義について,経済産業省の解釈によれば,「装輪又は装軌式の軍用ロボットを含む。但し対人地雷除去機を除く。」とされているようである(安全保障貿易管理ホームページの関係法令集)。したがって,この解釈に従うならば,タイヤ又はキャタピラを駆動系とするロボットはリスト規制の対象になる。

 しかし,この経済産業省の省令には疑義がある。そもそも,法律解釈の最終権限は経済産業省にではなく裁判所にあるので,経済産業省の条規解釈は,一つの参考でしかない。また,外為法48条の規定は刑罰法規であるから,罪刑法定主義に従い,厳格な解釈が要求される。

 そこで第一に問題となるのは,本件ロボットは「車両」か,という点である。外為法上「車両」の定義規定はない。参考になるものとしては道路交通法2条が「車両」の定義規定を設けているが,人が乗ることが前提となっている。とすれば,小さすぎて人が乗ることができないロボットは,たとえ車輪又はキャタピラを移動手段としていても,「車両」に該当しないと解釈される可能性がある。また,車輪やキャタピラを移動手段としないロボット,具体的には数本の足で「歩行」するものや,蛇や毛虫のようなうねり運動・蠕動を移動手段とするロボットは,「軍用」に用いられても「車両」とは言えない。

 第二に,「ロボットを含む」とする解釈の正当性である。まず,経済産業省の解釈によれば,輸出貿易管理令別表1の2(15)の「ロボット」に関し,ロボットの定義を次のように定めている。「マニピュレーション機構であって,CP制御又はPTP制御のいずれかによるもののうち(センサーを有するものを含む。),次の全てに該当するものをいう。 イ 多機能である。ロ 三次元空間を自由に動くことにより,材料,部品,工具又は特別装置の位置決め又は方位決めが可能である。ハ 閉ループ又は開ループのサーボ装置(ステッピングモーターを組み込んだものを含む。)を3以上有する。ニ 教示若しくはプレイバック方法により,又はプログラム可能なロジックコントローラとして用いる電子計算機により,メカニカルな介在なしで,利用者によるプログラム書換えを可能とする機能を有する」。この定義によれば,「階段を自律的に昇降できるロボット」は二次元空間を平面的に移動するだけ,偵察するだけの単機能だから,経済産業省の解釈上の「ロボット」に該当しない可能性がある。

 次に,「解釈によってロボットを『軍用車両』に含めることの正当性」も検討されなければならない。法文の厳格解釈を要求する罪刑法定主義の立場からすれば,他の条項では法律上「ロボット」を規制対象としていることからすれば,単に「軍用車両」と規定している以上,それはロボットを含まないと解釈する方が正当であると考える余地は十分にある。ロボットの定義が曖昧であるならなおさらである。ロボットを輸出規制の対象にするのであれば,本来,立法的に解決を行うとともに,明確な定義規定を設けるのが筋であろう。

 このような「罪刑法定主義」に基づく厳格な法文解釈については,違和感を持つ一般の方も多いと思われる。「日本の国是である平和主義や,武器輸出禁止三原則の立場からすれば,軍用に使用される可能性がある以上厳しく取り締まるべきだ」とする意見が聞こえてきそうである。しかし日本は平和主義と同時に自由経済体制をとる国家であり,輸出の自由も経済活動の自由の一環として,憲法上保障されている。規制だらけなので誤解してしまうが,貿易は本来自由であり,規制は例外なのである。また,刑事罰を科す法文については,文言から離れた解釈運用を許すと,自由に対する重大な萎縮効果を及ぼす。つまり,自分のやることが罰されるのか罰されないのかが事前に分からないと,人は正当な行為でさえ行わなくなり,極めて息苦しい社会になり,社会全体の活力と発展を削ぐ結果となる。そのため,特に刑罰法規については,厳しい文理解釈が要求されるのである。たとえば,われわれ法律家が大学で学ぶ最高裁判所の判例に,「火炎瓶事件」がある。これは,火炎瓶が爆発物取締罰則に規定する爆発物に該当するか否かが争われた事件であるが,最高裁判所は先に述べた罪刑法定主義の立場から,「爆発物」という文言を厳格に解釈して,火炎瓶は爆発物ではない,との結論を導いた(最高裁判所昭和281113日判決)。当時としては,爆発物取締罰則の適用がないと,火炎瓶の使用者に極めて軽微な刑しか科されなかったのではないかと想像されるが,国民の自由と社会の活気を守る罪刑法定主義の立場からすれば,それもやむを得ないとされるのである。

 

(小林)(続)

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