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2007年2月14日 (水)

設計上の欠陥を判断する基準

 製造物責任法上,製品の欠陥は,「製造上の欠陥」「設計上の欠陥」「指示警告上の欠陥」に概念上三分されるが,このうち,「設計上の欠陥」の有無を判断する基準として,アメリカでは,「消費者期待規準」と「危険効用規準」の二つの規準が唱えられ,対立しているとされる。

消費者期待規準とは,消費者が期待する安全性を備えているかどうかを規準とするものであり,危険効用規準とは,危険の大きさと効用の大きさを比較して,危険の方がより大きいと判断されるとき,欠陥があると判断するものである。

消費者期待規準の方は,その意味を直感的に理解しやすいが,危険効用規準の方は,ややわかりにくい。いやしくも市場に出回っている製品である以上,効用より危険の方が大きい場合は想定しにくいからだ。また,製品には効用とトレードオフの関係にある危険というものが存在するのであり(ナイフは,刃が鋭いほど優秀である),このような危険が存在するからといって,直ちに欠陥があるといえないことは常識である。

実際のところ,製品本来の効用とトレードオフの関係にある危険が裁判になることはほとんどない。「製品本来の効用は維持しつつ,設計変更により,この危険は回避できたのではないか」が問題となる。

アメリカのクェイド教授が危険効用説の具体的内容として1973年に提唱した7つの規準の中に,「その効用を害することなしに,また,その効用を維持するのに過度の経費をかけることなしに製品の危険性を除去する製造者の能力」が挙げられている。つまり,「同じ効用を,別の設計で実現できるのであれば,過度のコストがかかるのでない限り,製造者は別の設計を行うべきであった」という考え方である。

ところで,「危険効用規準」に対しては,「企業寄り」との批判が寄せられている。

危険効用説を採った場合,問題となるのは,合理的代替設計の可能性が争点になることであろう。しかも,提唱者は,立証責任を原告側(被害者である消費者)に分配するように思われる。そうだとすると,消費者は,「合理的代替設計」を立証しない限り,敗訴することになる。

構造が単純な製品であればこの立証は容易であろうが,構造が複雑又は高度な製品の場合,この立証は困難を極めると予想される。多くの場合,設計変更は製品本来の効用を犠牲にしないとしても,製造コスト,デザイン,重量,環境問題,その他様々な要素とトレードオフの関係にあるからである。逆に言えば,製造者側としては,代替設計の合理性を攻撃することは楽である。「その変更はコストがかかります。安い製品を入手することも消費者の利益になるはずです。」「その変更は,必然的にデザインの変更を伴います。この製品はデザインの良さが人気であり,原告もデザインが気に入って購入したはずです」「その変更に伴う部品は,製品を廃棄する際,環境問題を引き起こします」…云々,大いに反論することが可能となろう。合理的代替設計の有無という争点は,製造者のワークフィールドにあるので,製造者にとっては戦いやすい戦場になるのである。その意味で,危険効用規準は企業寄りとの批判はあながち的はずれではないと思う。

一方,消費者期待規準に対しては,「消費者寄り」「規準が曖昧」という批判が寄せられている。

もっとも,以上はアメリカでの議論であり,日本では,製造物責任法施行後10年になるが,現在のところ,裁判所がこの議論に立ち入った形跡は見られない。これは,日本の裁判が陪審員制ではなく職業裁判官制であること,懲罰的損害賠償が認められていないことなどの制度的相違が背景になっていると想像される。

「平成16年度機械安全分野の製造物責任に係る我が国の現状動向調査報告書」(日本機械工業会)はこちらhttp://www.jmf.or.jp/japanese/houkokusho/kensaku/2005/16anzen_11.html

「製造物責任法の運用状況等に関する実態調査」(内閣府)はこちらhttp://www.consumer.go.jp/kankeihourei/seizoubutsu/file/hokoku.pdf

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