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2007年2月10日 (土)

「日本の治安悪化」という常識

私は,近年増加している街頭の監視カメラや防犯カメラは,一定の条件を満たす限り,違法ではない,という立場をとっている。しかし,「近年日本の治安が悪化しているから」ということをその理由とすることには疑問を感じている。

 治安悪化を防犯カメラ設置の理由として掲げる立場の最右翼としては,前田雅英首都大学東京教授があげられる。同教授は「日本の治安は再生できるか」(ちくま新書2003年)において,グラフや図表を多用しつつ,「日本の犯罪率は,21世紀に入って,戦後の混乱期の犯罪率をついに超えて,戦後最悪の数値となっている」と指摘する。その原因のひとつは外国人犯罪の増加,もう一つは少年犯罪の増加であるという。そして,繁華街や商店街などに監視カメラや防犯カメラを設置することは,「もっとも合理性のある対応」であるとしている。

 前田雅英教授は刑法学の大家であり,警察庁「少年非行防止法制の在り方に関する研究会」座長ほか,多くの政府委員を務めておられるから,そのような地位にある人の発言ならではの重みがある。
 
 しかし,上記の著書に対しては,前田教授の主張の当否以前の問題として,その統計処理手法に基礎的な誤りがあると指摘されている。私は統計学には素人だが,確かに厳密さに疑問を持つ点もある。「この本は学術書ではないから」との弁解も聞こえてきそうだが,同教授による同趣旨の学術書である「少年犯罪ー統計からみたその実像」(東京大学出版会)に対しては,立教大学の荒木伸怡(あらきのぶよし)教授から,次の通り痛烈な批判がなされている。

 「概して本書は、統計処理面では、できればダレル・ハフ著高木秀玄訳『統計でウソをつく法』(講談社ブルーバックス)、谷岡一郎著『「社会調査」のウソ』(文春新書)等を参照しつつ、慎重に読むべき本であり、統計学の名著をも多数刊行している東京大学出版会が、その刊行書籍の品質を問われかねない本であると考える。」

 ほとんど罵倒といえる批判である。ここまで言われた以上,統計手法の正当性について反論しなければ前田教授の名誉に関わると思われるが,現時点で,私はそれに接していない。

もっとも,前田教授の統計処理手法を批判することは,同教授の主張の正当性や各種政府委員としての適格性を問う意味はあるが,「日本の治安は悪化しているのか?」という問いに対する答えにはならないことには注意が必要である。つまり,「前田教授は間違っている,だから日本の治安は悪化していないのだ」という議論には論理の飛躍がある。(小林)

 荒木伸怡教授の上記批判はこちら
http://www.rikkyo.ne.jp/univ/araki/naraki/gyouseki/mini/maeda.htm
 

 少年凶悪犯罪に関するリンク集
http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/ShonenHanzai/

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