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2007年3月16日 (金)

私邸に防犯カメラを設置する場合の法的問題点

 「個人の居宅に防犯カメラを設置する場合,設置していけない場所や撮影してはいけない範囲はありますか?」という質問をよく受ける。法律的に言えば次のとおりであるが,要は,常識の範囲で対応すれば足りるから,あまり神経質にならなくてよい。

 私邸に防犯カメラを設置し運用することは,居住する者の施設管理権に属することであるから,原則として,自由である。「防犯カメラ設置中」などの告知文の貼付も不要であり,隠しカメラの設置も問題ない。しかしもちろん,トイレや寝室にカメラを設置して家族のプライベートな様子を隠し撮りしたり,玄関先の防犯カメラで撮影した来客の画像をインターネットに公開したりすることは違法である。これも常識ですね。

 最も問題にされるのは,防犯カメラの画角に道路や隣家が入り,通行人や隣人を撮影することになってもよいのか,という点である。この点を論じた裁判例や書籍などは一切存在しないが,道路などの公共空間であれば,周囲の合理的な範囲に限定される限り,防犯カメラによって一般の通行人が撮影されることになっても差し支えない。

 ここに合理的な範囲とは,私邸に防犯カメラを設置することにより,通常画角に入ってしまう範囲をいう。公共の空間であるにもかかわらず,何故撮影が許されるのかという疑問については,次のように考えて頂くと分かりやすいと思う。すなわち,まず人間の肉体を例にとってみると,その人間の私的領域は,その肉体の外縁部(皮膚や衣服)を超えて,肉体の周辺に存在する一定の物理的範囲に及ぶと考えられる。分かりやすく言い直せば,あなたが平日の昼間,がらがらに空いた電車に乗っているときに,乗車してきた赤の他人が,いきなりあなたにぴったりより添って座ったら,ごく稀な例外を除き,あなたは大いに不愉快であろう。電車の中で赤の他人同士がぴったりより添って座ることが許されるのは,その電車が満員である場合に限定される。人間は無意識のうちに肉体の私的領域を設定し,時と場合に応じて,その範囲を使い分けているのだ。その有名な例としては,京都鴨川河畔で命名されたと伝えられる「アベック等間隔の法則」がある。

 脱線したが,このような個人の私的領域は,私邸にも当てはまると考えられる。物理的には家の外でも,家の前の道であれば,防犯カメラで撮影する程度のことは許される。

 やや難しいのは,他人の家が写り込んでしまう場合はどうか,という問題である。この点も結局常識の問題として考えるほかないが,塀や壁,屋根など,建物そのものが撮影対象になっても問題はない。他方,門や玄関,窓や庭など,人間が撮影の対象となる場合には,隣家の承諾を要すると考えるべきであろう。

 また,防犯カメラの設置運用権者になるのは,その住居に居住している者であって,所有している者ではない。大家が店子を監視する目的でカメラを設置することは,よほどの事情がない限り許されない。これも常識の問題であろう。

 なお,私邸が一戸建てではなくマンションなど集合住宅の場合には,もう少し複雑になるので,次の機会に。(小林)  

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