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2007年5月 6日 (日)

「異常行動」を自動通報する街頭防犯カメラシステムの違法性

200751日付東京新聞WEBサイト「TOKYO Web」によると,「街頭防犯カメラの映像から,人の異常行動を検出するシステムが開発され,JR柏駅東口に今春,初めて導入された。このシステムは,人が普通に歩いたり,会話をしたりする「正常な行動」を学習して数値化,これらの正常行動の分布からはずれた行為を「異常行動」として検出するというものであり,将来的には,異常行動を警察などに通報することにしているとのことである。

このシステムに対して,「海難記」の管理人仲俣暁生氏が,「これはかなり危険な発想じゃないか」という意見を述べている。氏の言わんとするところは,「正常でないものを異常とみなす考え方は,被撮影者を自ら正常の側に置こうとする動機付けを行うとともに,異常と見なされた者を排除する考え方につながる」ということと思われる。

これに対しては,「Discommunicative」の管理人todesking氏が,「『これだからサヨクは』『これだから文系は』的差別的言説をぐいと押さえ込み」つつ,上記システムは,正常動作を数値化=データベース化することによって,その分布範囲に該当しない者を全て異常とみなすというアルゴリズムの問題であって,「異常」に分類されたからといって「違法」でも「悪事」でもなんでもないとして,「危険な発想」とする仲俣氏の主張を批判している。

法律的に考えた場合,いずれの見解が正しいであろうか。

防犯カメラシステムを運用する場合には,撮影そのものが正当になされる必要があるだけでなく,取得した情報を第三者に提供する際にも,正当性が要求されることに注意が必要である。個人情報保護法の23条にも,個人情報の正当な理由無き第三者提供を禁止する条項がある(ただし,防犯カメラの運用者が直ちに個人情報保護法の適用を受けるわけではない)。このように,被撮影者の承諾無く,第三者に情報を提供した者は,正当な理由がない限り,法的責任を問われる。警察への通報も,第三者への情報提供に変わりないから,通報する者には,相応の責任と覚悟が必要である。

ところでtodesking氏の主張の要点は,「正常」「異常」という分類は統計的分別にすぎず,善悪の意味づけは全くなされていないという点にある。「異常」と分類された行為が警察に通報されても,それが違法な行為でないならば,何の問題もない,という。

通報を受けた警察は,職務上,「異常行動」をした被撮影者に職務質問をするであろうが,この職務質問は,「何の問題もない」と言えるほど生やさしいものではない。最近の具体例としては,「ちょっとむさい格好で渋谷に」いただけで警察官4人に取り囲まれ,渋谷署に事実上強制連行された元国会議員白川勝彦氏のブログに生々しく記載されている。そもそも職務質問は,「何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者」(警察官職務執行法2条1項)に対してしか行うことができない。市民が不審者を警察に通報するについても,不審者であると疑うに足りる相当な理由が必要である。明らかに正当な行為をしていた者を警察に通報することは違法であるし,システム運用上便利だからといって,明らかに正当な行為も違法と疑われる行為もまぜこぜにしたまま自動的に警察に通報することも違法である。

このように見てくると,todesking氏の主張が誤りであることは明白であろう。同氏は,「防犯カメラの前で『ハレ晴れユカイ』を踊っても,車いすで通行しても,ストリートミュージシャンも,たぶん警察に通報されます!一体そのどこが問題なのか???」と述べているが,明白に適法な行為をしている者を,システム上「異常」に分類されたという理由だけで,警察に通報することは違法であり,大いに問題なのである。そして,仲俣氏が「危険」だと危惧するのは,「統計上普通でない」とういうだけの理由で,警察に通報することに何の疑問も躊躇も感じない発想そのものだと思う。

まあしかし,現実問題として,このシステムが「異常」と分類して警察に通報する行為のほとんどが「適法」な行為と予想されることからすると,通報を受けた警察も早晩,このシステムからの通報を相手にしなくなるであろう。警察から無視されたのでは,街頭防犯カメラシステムとしての存在意義が無くなってしまう。そこで,このシステムの実際の運用としては,「異常」を感知すると警報が発令し,その後「異常」が感知される10秒ほど前からの映像が自動的に再生され,これを係員が確認して,必要と認めた場合にのみ,警察に通報することになろう。このような運用がなされてはじめて,このシステムは「まともな」システムとして機能しうることになるし,仲俣氏が指摘するような「危険」も,ある程度回避されることになるだろう。(小林)

海難記 http://d.hatena.ne.jp/solar/

Discommunicative  http://d.hatena.ne.jp/todesking/20070502

白川勝彦氏のブログ http://www.liberal-shirakawa.net/idea/policestate.html

Mellow Moon http://mellowmoon.blog93.fc2.com/blog-entry-48.html

個人情報保護法第23条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

一 法令に基づく場合

二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

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コメント

私の働いている会社の事務所には、防犯の為と言う名目でカメラが設置されています。民家を事務所として使用しているので、10畳ぐらいの部屋に6つのデスクとパソコンが置かれています。その左右の天井から1台ずつカメラが見張っています。事務員は私ともう一人。後は営業の人と社長の義理の兄の4人のデスクになっています。後の2つは社長と社長の母親のデスクです。この2人はたまにしか来ません。こんな狭い部屋にカメラが2台。面接の時には何も聞かされていませんでした。採用されて何カ月か後に「前に盗難事件があったから」と聞かされましたが、それも結局は社長の母親の物忘れと思い込みによる勘違いだったようです。それと、この部屋と続き部屋になっている部屋にもここより小さなカメラが1台設置されています。3台とも侵入者を見張る感じでは無く、明らかにデスク上に向いています。毎日決まった人間が仕事をするだけで、特に人の出入りの多い事務所でもありません。何も後ろめたい事はありませんが何か気分が悪いです。このような場合、違法性は無いのでしょうか?

投稿: | 2011年6月10日 (金) 11時29分

ご相談の事例は問題がある可能性はありますね。お近くの弁護士会か、労働基準監督局にご相談されたらいかがでしょうか。ちなみに厚生労働省からは、「労働者の個人情報保護に関する行動指針」が公開されています。
http://www2.mhlw.go.jp/kisya/daijin/20001220_01_d/20001220_01_d_shishin.html

投稿: 小林正啓 | 2011年6月12日 (日) 21時36分

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