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2007年5月 3日 (木)

ロボットの事故とメーカー・設計者の責任(1)

次世代ロボットが事故を起こして人を傷つけたり,財産を壊すなどの損害を発生させた場合,製造者などは,どのような法的責任を負うか。「製造物責任法」との声がすぐ上がりそうだが,製造物責任法は,不法行為法の特別類型と理解されている。そこでまず,おさらいの意味を込めて,不法行為法上の過失について,整理してみよう。

民法709条は,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定している。「過失」について,学説上一般的な説明は次のとおりである。

「過失」とは,一言で言うと,「損害発生という結果回避義務の違反」であるとされる。「結果回避義務の違反」には2種類あり,一つは,「損害発生という結果を予見していたのに,適切な回避を行わなかった」場合であり,もう一つは,「損害発生という結果を予見しなかったため,回避を行わなかった」場合である。自動車の運転手が,前方に人がいることが分かっていたのに,ブレーキの踏み方が甘くてはねてしまった場合が前者であり,居眠り運転をしてブレーキを踏み忘れた場合が後者にあたる。

もちろん,「予見義務」は,予見することが不可能だった場合には,発生しない。法律は,不可能なことを強制することはできないから,予見可能性が無かった場合には,結果回避義務も発生しないので,過失にはならないと考えられている。

同じことは,回避可能性についてもいえる。回避可能性がない場合には,回避義務がなく,従って過失にならないと一般に言われている。しかし,製造者の立場から見れば,回避可能性がないという場面は想定できない。なぜなら,「その製品を製造しない」という選択肢が常に存在する以上,回避可能性がない場面はないからだ。それでは,事故の発生を予見しつつ製品を作った製造者が責任を免れないかというと,当然,そんなことはない。たとえば,自動車の製造業者は,自動車によって,我が国だけでも毎年数十万件の人身交通事故が発生し,1万人近くの人が交通事故で死亡していることを知っている。自動車を製造すれば,人の生命身体が失われる危険性があることを予見しているわけである。だからといって,自動車メーカーが,自動車を製造した(=製造するのをやめなかった)ことのみをもって,法的責任を問われることはない。

これはどのような論理に基づくかというと,裁判例や学説は,「回避可能性がある場合でも,回避義務を尽くした場合には,過失はない」と言っている。そこで問題となるのは,「どのような場合に回避義務を尽くしたと言えるのか」という点だ。回避義務を尽くしたか否かを決める要素には,様々なものがあると考えられているが,その一つに,「製品の有用性」というものがある。つまり,「その製品に一定の危険性が存在する場合であっても,これを上回る社会的有用性が存在する場合には,製造したことのみをもって,過失があるとは言えない」という考え方である。

もちろん,有用性があるか無いかは微妙な問題であるし,時代によっても判断基準が異なる。自動車については,その社会的有用性から,製造したことのみをもって法的責任を問われないことは常識だが,煙草については,近い将来,日本でも,製造したことのみをもってメーカーが法的責任を問われることがありえよう。これは,有用性の規準が,科学技術の進歩と社会通念の変遷によって,変化していることを示している。(小林)

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