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2007年6月 4日 (月)

店舗に防犯カメラを設置運用する場合の法的問題点

今日,銀行や百貨店,スーパーやコンビニエンスストアに至るまで,あらゆる店舗に,防犯カメラが設置されている。店舗に防犯カメラが設置されていることは,今や常識と言ってよい。店舗は通常,経営者の管理下にあるから,経営者が店舗に防犯カメラを設置するのは自由であるという見解もある。しかし,店舗は通常,不特定多数の客が来場することが経営の前提になっているし,これらの客には,当然,プライバシー権がある。平成14年の九州弁護士会連合会のシンポジウム「監視カメラとプライバシー」では,万引き防止目的での防犯カメラは,撮影はよいが,録画してはならないという意見が述べられている。これは弁護士の中でもいささか極端な意見ではあるが,店舗の経営者といえども,どんな場所にでも自由に防犯カメラを設置してよいわけではない。

平成16年に,名古屋で,防犯カメラの録画画像を警察に提供したコンビニエンスストアの経営者に対し,撮影された人が220万円の損害賠償を請求した裁判の判決があった。この判決は,コンビニエンスストアにおいて発生する強盗や窃盗の統計資料や,本件コンビニエンスストアでもかつて万引きの被害にあったことや,店員が酔客に殴られた経験があること,本件コンビニエンスストアの設置状況や,「特別警戒中ビデオ画像伝送システム稼働中」との掲示を行っていたことなどの事実を認定した上,本件コンビニエンスストアにおいて防犯カメラによって店内を撮影し,その画像を一定期間録画することは,強盗や窃盗などの犯罪防止目的に基づくものであって,その目的は正当であり,必要性を有するとして,結論として,本件コンビニエンスストアにおける防犯カメラによる撮影と録画は適法であると判断した。

「なんだ当たり前のことじゃないか」と思われるかもしれない。確かに当然のことではある。しかし,この判決も,店舗の経営者であれば自由に防犯カメラを設置し録画して良いと認めたわけではない。強盗や万引きの防止という犯罪防止や証拠保全のため必要であることや,設置撮影方法が適切であること等の検証を行った上で,適法と判断している。したがって,犯罪防止の必要性が認められない場合や,設置撮影方法が不適切な場合には,店舗の経営者といえども,防犯カメラの設置運用は違法となる。例えば,小売店舗ならば一般に万引き防止の必要性があるといえるが,料亭の個室に防犯カメラを設置することは,その必要性の点から,大いに疑問があろう。また,犯罪防止目的であっても,プライバシー権侵害の程度が極めて大きい場合には,撮影方法が不適切であるとして,違法になってしまう。たとえば,万引き防止目的で,婦人服売場の試着室内に防犯カメラを設置することは違法になると考えられる。

ところで,名古屋のコンビニエンスストア事件判決には続きがある。この事件は,コンビニエンスストアの経営者が,警察の要求に応じて,防犯カメラで撮影したビデオテープを提出したものであった。このテープが,被撮影者の犯罪行為(万引きなど)を撮影したものであったのならば,ビデオテープの警察への提供は全く問題ない。ところが,本件は違っていた。警察は,ホテルの宿泊申込みカードに架空人名義を記載した有印私文書偽造罪等の捜査中であり,その容疑者がコンビニエンスストアに立ち寄ったか否かを調査するため,経営者にビデオテープの提供と,売上データのチェックを要請したのである。

「ホテルの宿泊申込みカードに架空人名義を記載した有印私文書偽造罪等の捜査中」というくだりに「ピン!」と来た人は,かなりの通である。確かに,ホテルの宿泊申込みカードに偽名を記入することは私文書偽造になりうるが,普通,このような微罪で警察が捜査をすることはない。すなわち,ご拝察のとおり,この事件は労働組合の運動家を警察が追跡していた公安事件であり,極めて政治色の強い事件であった。いずれにせよ重要なことは,本件のビデオテープ提供は,コンビニエンスストア内の犯罪とは全く無関係だったということである。

この点について判決は,ビデオテープの提供は結論として違法ではないとしつつも,店内で起きた事件とは別の事件の捜査のためにビデオテープが提供された場合には,肖像権やプライバシー権の侵害になりうることを示唆している。このように,撮影や録画が適法でも,そのビデオテープを第三者に提供することについては,別途違法性が問題になることについては,十分な注意が必要である。

防犯カメラから録画したビデオテープの第三者提供が問題となった事件としては,「ダウンタウン」の松本氏が,レンタルビデオ店でビデオソフトをレンタルしている画像が写真週刊誌に掲載されたとして,写真週刊誌の出版社と編集者に損害賠償を請求した事件がある。東京地方裁判所は,このような画像の提供は,防犯カメラの設置目的を超えた違法なものであると認定して,損害賠償金90万円の支払を命じた。この例は,防犯カメラの設置目的を超えた画像の第三者提供は違法になることを認めた裁判例として,重要である。(小林)

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コメント

では本件は違法捜査というか、警察(公安?)が違法行為を行ったということでしょうか? もしそうであれば、告訴する相手を警察(公安?)にすれば良いということですか?

投稿: | 2013年7月23日 (火) 09時53分

コメントありがとうございます。本件では裁判所は、違法捜査と判断したわけではありません。また、仮に違法捜査であったとしても、それが犯罪に該当するものではない限り、警察を告訴することはできません。犯罪に該当しないが、違法捜査であるという場合には、警察に対して、ビデオの破棄を求めたり、損害賠償を請求したり、そのビデオを証拠に謙虚があった場合には証拠排除の請求を行うことも考えられます。

投稿: 小林正啓 | 2013年7月23日 (火) 17時28分

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