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2007年6月12日 (火)

ドアプロジェクトに学ぶ

次世代ロボットは,「センサ」「知能・制御系」「駆動系」の3つの技術要素を有する「知能化した機械システム」であると定義されることがある。この定義によれば,自動回転ドアも,次世代ロボットに該当しうる。そうだとすれば,平成16年3月26日に六本木ヒルズ森タワーで6歳の男児が回転ドアに挟まれ死亡した事故は,次世代ロボットによる死亡事故にあたる。

「危険学のすすめ-ドアプロジェクトに学ぶ」を著した畑村洋太郎元東京大学教授は,機械工学の権威であり,上記事故を契機にドア全般の安全性を検証する任意団体「ドアプロジェクト」を立ち上げてさまざまな実験を行った。畑村氏は六本木ヒルズでの事故再現実験を行い,この回転ドアを「恐怖の殺人機械」と評価した。

畑村氏の分析を歴史的に整理すると,このような殺人機械が製造され本件事故が発生した経緯は次のとおりである。

そもそも,回転ドア発祥の地であるヨーロッパでは,回転ドアの目的は冬の寒気と建物内部の暖気を遮断することにあった。ところがこれを輸入した日本では,回転ドアの目的はむしろ高層ビルに発生する建物内外の気圧差を遮断することに変わり,これに豪華性の要求が加わって,ドア自体が非常に重くなってしまった。加えて不幸なことに,日本でもともと回転ドアを製造していた田島順三製作所が経営破綻した際,これと合弁していたヨーロッパのメーカーが資料やノウハウを全部引き揚げてしまったため,本件ドアの製造部門を引き継いだ三和タジマ株式会社に安全思想の伝承が行われなかった。もちろん,三和タジマの設計担当者も本件回転ドアの安全性は考慮したが,この考慮はドアの軽量化という「本質安全」に向かわず,センサの取付という「制御安全」に向かったため,身長117センチの子どもが前傾姿勢でドアに侵入したことを感知できなかった。その結果,痛ましい事故が発生したというのである。

このような分析は,次世代ロボットと安全の問題を考える上でも,大いに参考にするべきであろう。

もっとも,畑中氏は,上記のような分析を踏まえ,いくつかの提言を行っているが,その中には,やや不満が残る点もある。

まず,畑中氏は,本件自動回転ドアの設計者が,「本質安全」設計を行うためにはどうすれば良かったか,という問題に関して,次のように指摘している。たしかに,「重すぎるドアは危険である」という「暗黙知」は,回転ドアがヨーロッパから日本に輸入された後,伝承されなかった。しかし,本件回転ドアの設計者は,エレベーターのドア等の本質安全設計に目を向ければ,この暗黙知を知ることができた。「本質安全」設計を行うためには,自分の担当製品にこだわらず,共通点のある別の世界に目を向けることが必要である,と。

しかし,この提言は,その宛先が設計者・技術者のみとなっており,その設計者や技術者が所属する企業に対する提言としては,不十分ではないかと思う。そもそも,本件ドアに各種センサが取り付けられていた事実が示すように,本件ドアの設計者は,このドアの持つ潜在的危険性をある程度承知していたと思われる。それにもかかわらずドアの軽量化がなされなかったのは,ドアを軽量化するという選択肢が設計者に無かったとも考えられる。なぜなら,自動回転ドアには高級オフィスビルの象徴としての社会的意味がある以上,「安全だが安っぽい」ドアを製造して同業他社との競争に敗れたり,森ビルにドア納入を断られたりするリスクを冒すことは,営利を目的とする私企業には,悲惨な事故が発生する以前においては,非常に困難なことだからだ。

次に,畑中氏は,事故が発生すると責任を追求するという日本の法制度は,事故関係者の保身をまねき,事故原因究明の障害になると指摘する。この指摘は畑中氏のオリジナルではなく,私の知る限り,柳田邦男も20年以上前に同様の指摘をしている。

確かに,この指摘は「事故原因を究明し,将来の事故を回避する」という目的からは正論である。しかし他方,事故が発生して第三者に損害が発生した以上,この第三者に救済される権利が発生することは当然である。被害者の救済には保険制度を充実させることにより対応すればよいとの意見もあるが,保険制度が充実したところで,常に被害者が満足する保険金が給付されるわけではない。被害者が満足しなければ民事訴訟になるし,民事訴訟になれば,メーカーも巻き込まれる。メーカーが巻き込まれれば,設計担当者などの関係者は証人として法廷に呼び出されることになるし,さまざまな思惑から保身に走ったり,真相が隠蔽されることもあり得る。つまりは同じことである。また,刑事責任に関しても,「過失犯は処罰しない」という法思想に立たない限り,事故が発生して人身被害が発生した以上は,刑事責任が追求されることは当然である。本件自動回転ドアメーカーや森ビルの事故後の対応はそれなりに立派なものであったと評価されて良いと思うが,もし一切の法的責任を問われないという法制度であったとすれば,このような対応が取られていたか否か疑問である。

いくつかの疑問点はあるにせよ,「危険学のすすめ-ドアプロジェクトに学ぶ」は,実例を踏まえた安全工学のアプローチを門外漢にもわかりやすく配慮して記述されており,大変意義のある著書であると思う。(小林)

「危険学のすすめ-ドアプロジェクトに学ぶ」はこちら http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d.html/ref=aw_mp_1/?a=4062135299&uid=NULLGWDOCOMO

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コメント

新型の回転扉
 東京の六本木で回転扉の事故があった。人の噂も七十五日、今では事故も忘れ去られ誰も語る者は居ない。期待したドアプロジェクトも何の成果も示さず何処かに消え去った。ダミーの人形の頭を回転扉で潰さなければ危険だと解らないのであろうか。危険学はもてはやされたが回転扉は日本から撤去された。
 回転扉は慣性力がありすぐには止まらず、飛び込みを受ける恐れの有る監視エリアに人が居ない事を条件に回転する。センサーにより安全は確保されセンサーの感知エリアを狭めた事は致命的であった。センサーを誤動作させるゲートが前に置かれる事は設計に於いて想定外であっただろう。想定外の事に備えが無かったのも欠陥であろう。
 東京の工業大学の大学祭で安全化を図った私の新型の回転扉の動画を展示させてもらった。動画を見た人にはなるほどこうすれば回転扉は安全に出来ると理解をしてもらった。
Revolvinng doors of new type for safety
http://ameblo.jp/kimumasa1106/entry-11377281748.html

投稿: 木邑 | 2012年10月12日 (金) 12時09分

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