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2007年7月10日 (火)

ユーザーの誤使用と製造物責任

ユーザーが機械を誤って使用しても,メーカーなどは法的責任を負うのか,という問題がある。この答えは,「原則として負う」である。

明文で規定されているわけではないが,製造物責任は,「人間はミスをする」ことを前提にしている。したがって,メーカーは,ユーザーの誤使用を前提として機械を設計しなければならない。言い換えれば,機械は,ユーザーが誤使用をしても怪我をしないほどの安全性を備えなければ,「欠陥」ありと認定されてしまうのである。

もちろん,多くの機械では,設計段階で全ての危険を取り除くことはできない。そこで,取扱説明書などで,危険な使用方法を禁止することになる。しかし,この禁止規定が適切でない場合には,やはり「欠陥」ありとみなされ,メーカーは法的責任を問われる。

ただし,どのような誤使用があっても,メーカーは100パーセントの責任を負う,というわけではない。常識的に考えても,とんでもなく間違った使い方をして損害を被ったユーザーに対してまで,メーカーが賠償責任を負うはずがない。よく引き合いに出されるのは,「電子レンジで飼猫を乾かそうと思ってチンしたら死んでしまった」飼主が電子レンジメーカーを訴えた,という話であるが,このような誤使用についてまで,メーカーが責任を負うことはない。もっともこの話は良くできた都市伝説のようであるが。

そこで問題は,「メーカーが責任を負う誤使用」と「責任を負わない誤使用」の境目はどこにあるか,ということになる。この点について法律家は,「予見可能な誤使用」という言葉を使って線引きしているが,何をもって予見可能とするかがやはり問題である。一般的には,客観的に,社会通念・製造物の特性・想定されるユーザーや使用形態などを総合判断することになる。

大事なのは,予見可能性の範囲は「客観的」に区切られる,ということである。設計者が「主観的」に予見しなかった,あるいは予見しようにもできなかった,というだけでは駄目である。もう一点,誤解が蔓延しているので注意しなければならないことは,取扱説明書に禁止事項を記載すればよい,とはならない点である。メーカーは第1に,基本設計によって危険を回避する義務があり,回避しきれなかった危険のみ,取扱説明書に記載することによって責任を回避することができる。

ところで誤使用には,ミスによる誤使用と,確信犯的な誤使用がある。ミスによる誤使用は,ボタンを押し間違うという類のものであり,確信犯的な誤使用とは,わざと安全装置を解除して使用する場合などである。メーカーは,ミスによる誤使用を無くす設計をしなければならないし,確信犯的な誤使用ができない設計をしなければならない。工業用機械の中には,取扱説明書に安全装置を解除して使用する方法が記載されているものもあると聞くが,このようなことは論外である。

ユーザーの誤使用によってメーカーが責任を負う場合,メーカーは100パーセント責任を負うかと言えば,そうではない。製造物責任法上の責任にも過失相殺の考え方が適用されるので,ユーザーにも誤使用という過失がある場合には,損害はユーザーとメーカーの双方に分配されることになり,その割合で,メーカーの支払うべき賠償金額は減額されることになる。(小林)

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コメント

検索よりたどり着きました。

はじめまして。
現在、弁護士ドットコムにて、質問しているところです。

http://www.bengo4.com/bbs/read/116557.html

弁護士さんから回答が付きましたがどうにも納得できず・・、
誤使用について検索してこちらのブログ記事がヒットし、読ませていただいた次第です。

缶詰をリサイクルに出すため、空き缶を洗うことは『誤使用』なのでしょうか?
まさか手指を切るなんて思っていませんから・・包丁を洗うほどの注意はしていません。

メーカーに責任を負わせたくて真実を探しているわけではありません。消費者に対して、安全でうそのない経営を行ってもらいたいのです。
コメント頂けたら幸いです。
よろしくお願いします。

投稿: ほりーほりー | 2012年4月15日 (日) 11時43分

空き缶を洗うことが「誤使用」であるか否かという話ではないと思います。回答を付けた弁護士も「誤使用」とは言っていませんよね。プルトップ形の缶詰は、その性質上、切り口が鋭利であるため、その鋭利さが通常の範囲に留まる限り、「欠陥」ではないということだと考えます。
本件の法律上の争点は、当該缶詰のプルトップ部分の切り口が、通常より増して鋭利であり怪我をしやすいものであったか否か、という問題と思われます。ただ、仮にそうであるとしても、訴訟を起こせば赤字になってしまうことは、他の弁護士が指摘したとおりです。わが国の訴訟制度は、いかに正義があっても、少額の裁判を起こせない仕組みになっているのです。

投稿: 小林正啓 | 2012年4月15日 (日) 19時38分

お返事いただけてうれしいです。
昔からお世話になっている司法書士の先生に空き缶を見せたところ、こわごわ触れながら・・これはかなり危ない空き缶ですねぇ・・と言っておられました。
おそらくほとんどの人は、実際に手にするとウーンとなると思います。

使用方法については弁護士さんらと同意見で、どちらかというと・・在住の市の『空き缶の捨て方』の説明のほうが問題かも・・と(笑)。
他の市は「軽く中を水ですすいで・・」でした。
在住の市の注意は「中を洗って・・」です。

病院代はお見舞いとして支払うと言ってきましたが、自分なりに、他メーカーと危険の度合いを比較してみようと思っています。

小額の裁判を起こせない仕組み?というのがわかりませんが、、小額訴訟とは違うのでしょうか。
またお暇な時にでもよろしければお返事下さい。

このたびはありがとうございました〈(_ _*)〉

投稿: ほりーほりー | 2012年4月17日 (火) 19時22分

「少額の裁判を起こせない」というのは、もちろん法律的制度的には起こせますが、仮に勝訴しても赤字になってしまって、起こす意味が(経済的には)無くなってしまう、という意味です。舌足らずで申し訳ありませんでした。

投稿: 小林正啓 | 2012年4月17日 (火) 23時35分

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プルトップ - Wikipedia プルトップ (pull-top) とは、缶切り等を用いず、缶容器の上面に付けられた引き金(タブ)を手で引っ張って開ける方式、またはその部分を指す日本における一般的呼称である。 缶の製造業界における名称はイージーオープンエンド(Easy Open End、略してEOE)という。「イージーオープン蓋」のように、「エンド」を「蓋」と呼び変えることもある。 *:…:*:…:*:…:*:…:*:…:*:…:*:…:*:…:*:…:*:…:*:…:* ... [続きを読む]

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