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2007年7月12日 (木)

携帯電話の低温やけど訴訟

携帯電話電池の異常発熱で低温やけどをしたとして,製造物責任法に基づきメーカーに対して約545万円の損害賠償を請求した訴訟の判決が平成19年7月10日,仙台地方裁判所でなされた。このような訴訟が提起されたことを聞いて,マクドナルドのコーヒーをこぼしてやけどをしたとしてPL訴訟が提起されたアメリカの事例を想起した人も多いと思う。もっとも,このアメリカの事例については,「訴訟社会アメリカ」を裏付ける都市伝説として一人歩きしている部分もあるので,詳細は平野晋中央大学教授によるこちらのホームページを参照されたい。

製造物責任法は,製造物の「欠陥」によって生じた損害について,メーカーの賠償責任を規定している。実務上,被害者は,製造物のどの部分にどのような欠陥があったか,ということを具体的に証明する必要はなく,通常の使用方法で損害が発生したことを証明すれば,「欠陥」が推定されるとされている(もっとも,この点は地裁レベルの裁判例があるだけだし,例外もある)。これに対してメーカーとしては,「欠陥がなかった」ことを証明したり,あるいは,「仮に欠陥があったとしても,損害との間に因果関係がない」と主張したり,「被害者にも落ち度があった」と主張して賠償額の減額を主張したりして対抗することになる。

問題となった携帯電話は,おそらくリチウムイオン電池が使用されていたものと思われる。リチウムイオン電池は,電圧の高さや繰り返し充電に適している点から広く用いられているが,製造上の不良や加熱,変形などによって異常発熱,爆発,発火の危険があることが知られている。報道によると携帯電話に関するPL訴訟は本件が全国初とのことであるが,リチウムイオン電池の安全性は,携帯電話に限らず,モバイル機器やウェアラブルコンピューター,家庭用小型ロボットなど関連する問題であり,判決が注目されていた。

報道によれば,裁判所は「携帯電話自体が発熱したとは認められない」として,請求を棄却したとのことである。たしかに,被害者の男性はズボンのポケットに携帯電話を入れたまま,こたつで2~3時間寝ている間にやけどした,ということなので,これだけの事実では,携帯電話が異常発熱をしたか否かは分からない。しかし,この争点については,被害者側に,再現実験など,もう少し立証のやりかたがあったのではないか,と思う(再現実験を実際にしたのか否かは報道からは分からないが)。

別に被害者の肩を持つわけではないが,この事件は,仮に携帯電話自体の発熱が認められていれば,使用方法が異常か否か,異常とは言えなくても過失相殺の対象になるか,使用方法の指示警告は適切であったか,損害額は幾らが適当か,などの興味深い論点についての判断を聞けたのに,肩すかしに終わったという意味で,やや残念な判決であった。(小林)

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