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2007年7月20日 (金)

監視社会は,すでに,我々とともにある

平成18年(2006年)11月,ロンドンで第28回国際データ保護・プライバシーコミッショナー会議(International Data Protection and Privacy Commissioners' Conference)が開催された。

「データ保護・プライバシーコミッショナー」という役職は,これに該当するものが日本に存在しないが,プライバシー情報の流通を監督しプライバシーを保護する第三者機関のようなものである。イギリスの情報コミッショナーは政府からも独立した機関であるとされている。

この会議に出席した世界58のデータ保護・プライバシーコミッショナーが開催した非公開会議において,「監視社会」をテーマにした議論がなされ,共同コミュニケが採択された。また,この会議で新たに8つの国と地域のデータ保護・プライバシーコミッショナーが参加を許されたので,計66カ国(地域)になる。くどいようだが,日本には同様の役職がないので,非公開会議に参加できない。

共同コミュニケは要するに,「監視社会は,すでに,我々とともにある」との現状認識を前提に,監視社会にはメリットもあるがデメリットもあるとして,民主主義社会を維持するためにあるべき監視社会の姿と,コミッショナーの責務が宣言されている。

これを読むと,日本の制度と認識の遅れを痛感する。日本の議論は,一方で「このままでは監視社会になる!監視社会になったら戦争になる!」という左翼系原理主義者による単純短絡な主張がなされており,他方で,「イギリス国民は何百万台もの監視カメラを受け入れている」として,これを監督する制度を一顧だにせず,おいしいところだけ導入しようとする勢力がいる。どちらの立場も,イギリスをはじめとする世界66の組織に比べれば,恥ずかしいほど幼稚なレベルにあるというべきであろう。

共同コミュニケの拙訳文を下に記す。英語に全く自信がないので,引用も転載も遠慮されたい。内容に疑問のある方は,必ず原文にあたってほしい。(小林)

第28回データ・プライバシー保護委員国際会議

2006年11月2日,3日

イギリス・ロンドン

閉会声明

 第28回データ・プライバシー保護委員国際会議は2006年11月2日と3日,ロンドンにおいて開催された。この会議には,世界58のデータ・プライバシー保護専門機関を代表する委員が出席した。

行政,司法,市民社会及び民間団体を代表した出席者によって,主として検討された議題は,監視社会に関するものであった。

委員によって強調されたテーマは,次のとおりである。

l        監視社会は,すでに,我々とともにある。監視とは,ある目的に基づき,テクノロジーを利用して,公共空間であると私的空間であるとを問わず,日常的組織的に行われている。現代テクノロジーが個人情報を日常的に記録し,分析する監視社会とは,具体的には次のようなものである。

監視カメラやRFIDなど,日々進歩する新しい技術を利用した,個人の行動や移動に対する組織的追跡・モニタリングと記録,そして,消費・金融やその他の取引の分析,電話や電子メール,インターネット通信の傍受や職場での行動監視

l        監視行為は,善意によるものでありうるし,また,社会的利益をもたらしうる。民主社会において,監視社会化が進んできたのは,政府や企業が,個人生活に対する不当な侵入を意図したからではない。例えば,テロや残虐な犯罪と闘うため,あるいは公的サービスを享受するため,または健康増進のために,監視行為が必要であり,または有益だったからである。

l        しかし,隠密になされる監視行為,規制のない監視行為,または過度の監視行為は,その有益な面を遙かに超えるリスクをプライバシーに対して及ぼす。これらの監視行為は,不信感を醸成し,信用を傷つける。公的または私的な機関による大量の個人情報の収集と利用は,個人の人生に直接の影響を与える。自動的,または恣意的な個人情報の分類と分析は,個人とその活動に対して悪影響を及ぼす。とりわけ,公的活動に対するリスクが増大している。

l        プライバシーとデータ保護規制は,重要な自衛手段であるが,十分ではない。監視行為は市民個人のプライバシーを侵害するだけでなく,人生設計に影響を及ぼす。しかも,過度の監視行為は社会の本質的部分に対しても影響する。プライバシーとデータ保護規制は,監視行為を合法的な限度に留めたり,安全性を向上させたりするであろう。しかし,より洗練された政策が必要になってきている。

l        そのために,監視行為の影響に対する組織的査定(アセスメント)が導入されるべきである。このアセスメントは,個人や社会にとって受け入れがたい状態を最小限度に留めるために,個人に関する影響の査定のみならず,社会に関する影響の査定も行われるべきである。

l        問題点は幅広く,データ保護とプライバシーの問題に留まるものではない。監視社会の問題に取り組むことは,情報コミッショナーに限らず,この問題に関係するもの全ての責務である。情報コミッショナーは,不当な監視社会化に対抗しようとする全ての市民組織,行政組織,私的団体,議員そして個人とともに行動するべきである。

l      公的な信頼・信任を得ることが,最も重要である。多くの監視機構が善意に基づいて組織されたものであるとしても,だからといって,継続的な公的信頼が認められる訳ではない。個々人は,彼らの生活に対する侵入が,必要であり,かつ均整の取れたものである場合に限り,これを信用するのである。公的信頼は,個人的なプライバシーと似ている。一度失われれば,二度と元には戻らない。

監視社会の問題は,データ保護当局が管轄するデータ保護やプライバシーの問題より幅広い問題である。しかし,その中で,データ保護当局の役割は,絶対不可欠なほど重要である。なぜなら,個人情報は,一般市民がそれと気づかない方法で収集されるため,個人は個人情報を自ら守る手段を持たないからである。

 データ保護規制が開始されたのち,世界は立ち止まったことがない。国や,私的団体や市民の要求は変化し,情報処理技術は,早いペースで発展している。従来のやり方が適切で,かつ効果的であるか否かを検証することは,データ保護当局の権利である。クレーム処理や検査・審査は,今までどおり重要であるが,市民と政策立案者に対する効果的影響の分野における継続した改良は,今やとりわけ重要である。

 非公開会議の間,コミッショナーらは,フランス国立情報自由委員会のアレックス・ターク議長から,歓迎された。議長からは,めまぐるしく変化する世界情勢におけるデータ保護とプライバシーの基本的重要性を再認識すること,そして,新たな挑戦のために早急な行動が必要であることが促された。「データ保護を理解し,より効果的にするために」と題されたステートメントがこのコミュニケに添付された。

 コミッショナーらは,これらの変化が彼らに突きつけていることが彼ら独自の役割であり挑戦であると考える。コミッショナーらは,次に述べる事柄が挑戦のために必要であると認識した。

l        全ての民主主義社会において,市民のプライバシーと個人情報を保護することは,報道の自由や政治的表現の自由と同様に,極めて重要である。プライバシーとデータ保護は,実際のところ,我々が呼吸する空気のように貴重である。これらは目に見えないものではあるが,毀損されたときは,悲劇的な結末をもたらす。

l        コミッショナーは,国民や利害関係人がこれらの権利をより理解し,その重要性を認識するために,新たな広報戦略を強化するべきである。コミッショナーは,力強くかつ長期にわたる広報活動を行い,かつ,これらの効果を検証しなければならない。

l        コミッショナーは,彼ら固有の活動について,もっと積極的に発言し,データ保護をより強固にしなければならない。これらの活動が国民にとって,より意義深いものになり,受け入れやすくなり,関係があると認識させることによってはじめて,公共の意見形成に力を与え,かつ,為政者が耳を傾けるようになるであろう。

l        コミッショナーは,彼らの効率性と効果,そして,いかなる場面で実践することが必要であるかについて,査定を行うべきである。コミッショナーは,十分な権力と権限を付与されるべきであるが,これらは,重要またはありがちな損害や個人の直面する最大のリスクに集中して,選択的にかつ実践的に行使されるべきである。

l        コミッショナーは,先進的な研究や,専門家の意見や仲裁,先端技術産業や調査への考察を通じて,これらの研究等をともに行うことにより,技術分野における彼らの受容力を高める努力をするべきである。データ保護が過度に合法的であるというイメージは訂正されるべきである。

l        コミッショナーは,国際会議を再組織することにより,国際的問題に対して強い発言力を有するように,また,データ保護に関する論点に関する国際的主導権を得るために不可欠な話し相手になるようにしなければならない。

l        コミッショナーは,国際会議その他のグローバルな催しの進展に対する必要性を支持しなければならない。課題は,それが一般的なものであれ特定の分野に関するものであれ,国際的なレベルにおいてのみ効果的に取り扱われることが可能であり,適切なやり方で処理されるであろう。

l        コミッショナーは,データ保護とプライバシーに関し,国家的及び国際的レベルにおいて,市民社会やNGOを通じ,他の利害関係人との関係を進展させ,彼らの仕事がより効果的になるようにするにはどうしたらよいかという視点から,彼らとの強固なパートナーシップを構築するべきである。

 コミッショナーは,上記行動指針を踏まえ,次回の国際会議において,これらを考察し,価値を高めるであろう。

 コミッショナーは,その果たすべき役割を考慮することに加え,次の重要な結果を付け加えた。

l      データ保護専門家として,次の8名をメンバーに加えた

アンドラ公国

リヒテンシュタイン公国

エストニア共和国

ルーマニア

カナダ ニューブルンズウィック

カナダ 北西地域

カナダ ヌナバルト

ジブラルタル

l      会議の組織的整理に関する決議

l      プライバシー保護とサーチエンジンに関する決議

 最後に,社会そしてデータ保護とプライバシー委員会に対する挑戦は実質的なものである。それは,監視という文脈のみならず,情報処理技術の早い進展,グローバリゼーションの発展,公共の知識と教育に関する後戻りのできないある種の進展と欠落に原因している。データ保護の自衛と,これらの設置と強化を行う独立した権威は,今日の情報時代において,必要不可欠のものである。コミッショナーは,これらの取り組みを開始し,そして,今日,データ保護規制を確実にするための努力を倍増し,そして将来,今日のさまざまな発展が揺籃期であったと知ることになるであろう。

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