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2007年8月27日 (月)

防犯カメラと肖像権について

監視カメラ(防犯カメラを含む)は,肖像権との関係で問題になる,と言われている。このように理解する点では,監視カメラ反対派も,賛成派もおなじだ。しかし,すでにあちこちに書いているが,監視カメラとの関係で問題になるのは,肖像権ではない。正確に言うと,肖像権も問題になるが,本質的ではない。

確かに,監視カメラが撮影した画像であろうと,カメラマンがスタジオで撮影した見合い写真であろうと,フィルム(またはデジタルメディアに)記録された画像は「肖像」である。しかし,その本質的な意味は,全く違う。その証拠に,典型的な監視カメラの画像と,典型的な肖像写真とを比べてみよう。

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1993年,イギリスで2歳の男の子(James Patrick Bulger)が2人の少年に誘拐され殺害された。この写真は,誘拐の瞬間を撮影した防犯カメラの画像とされている。この画像を見た捜査機関は,被害者の背格好や誘拐当時の服装から,画面中央の幼児が被害者と推定することができる。また,この幼児の手を引く人物が誘拐犯であり,この人物は小柄な男性,おそらく少年であると見当をつけるとともに,ダウンジャケットと思われる服装やその色を知ることができる。また,誘拐犯と対向して歩く中年と思われる女性が,誘拐犯の人相を見ているかもしれない,という情報を得ることができる。これらの情報は,撮影された人物(被害者や犯人や目撃者)を特定する資料として使用されることになる。

ところで,この写真にとって最も重要な情報は何か。それは,この写真が撮影された日時場所である。この情報がなければ,画面中央の幼児が被害者であることさえ,特定が困難となり,この画像は無価値となる。言い換えれば,防犯カメラの画像の本質は,撮影された人を特定する情報(人相や服装,撮影日時場所など)であり,その人がどのような行動をしていたかを記録している点にある。

J0407473_2

この画像は,典型的な肖像写真として,著作権フリーの画像を拝借したものである。この画像から読み取れるもの,言い換えれば,この画像の本質的要素は何であろうか。われわれは,撮影された男性の表情,服装,所持品,皺の一本一本から,この人物の人間性や人生,社会的地位,あるいは人間的・性的魅力の有無や程度を読み取ることができる。すなわちこの画像の本質的要素を一言で言うと,撮影された人物の人格である。肖像権が法律上,人格権といわれるゆえんがここにある。一方,この写真が何時どこで撮影されたか,この人物がどこの誰であるかは,この画像にとって本質的要素ではない。もしかしたらこの男性は歴史上の有名人かもしれないし,それが分かればこの写真の持つ意味は多少奥深いものになるであろうが,それが分からなかったからといって,この写真の価値(記録された被撮影者の人格)が無くなるわけではない。

このように,防犯カメラの画像と,肖像とは,本質的に異なるのである。本質的に異なる以上,両者に反映された法律上の権利は異なる,と考えないといけない。したがって,監視カメラは本質的には肖像権の問題ではない。

では,肖像写真と同じく人物の画像を記録しているにもかかわらず,監視カメラの本質が肖像権にないとするならば,監視カメラの本質はどのように考えるべきであるのか。私は,監視カメラの本質は,個人の行動を記録する点にあると考えている。

このような考えを表明しているのは,私の知る限り,私一人である。しかし,この点は非常に重要であり,また,法律家の怠慢というべきか,ほとんど議論がなされていない部分である。(小林)

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コメント

防犯カメラを業務にしてで8年になりますが、「肖像権」と言われる問題で街頭カメラの設置で苦労したことがありました。小林様のお話は納得できるもので、このように考えれば説明できるように思います。そこで質問ですが、次に気になるのは「行動の記録」としてプライバシーの侵害とかに抵触して訴えを起こされないかという懸念があるのですが、どう考えればよろしいでしょうか。

投稿: 古内康永 | 2008年6月27日 (金) 08時58分

コメントありがとうございます。ご注意頂きたいのは,筆者の見解は防犯カメラの本質は「行動の記録」であって,肖像権の問題は本質的ではない,という点です。いいかえると,肖像権の問題は,本質的ではないけれど,ゼロでもありません。だから,肖像権侵害で防犯カメラ設置違法の裁判が起きることもあり得ます。また,防犯カメラの本質が行動の記録であるとする筆者の見解に立った場合でも,やはり,自由に行動する権利を侵害したとして,訴訟が起きる場合はあり得ます。その場合の適法・違法を分ける規準を考えているところですので,今後もコメントをよろしくお願いします。

投稿: 小林正啓 | 2008年6月27日 (金) 17時12分

興味深く拝見しました。
理解不足で恐縮ですが、たとえばTVの野球中継で、親子連れの顔が鮮明に映ったりすることがたびたびあります。顔が識別できれば、「誰がいつ誰と野球場にいたか」ということがわかりえることになりますが、このようなケースでも、行動の記録を無断で世間に公開されたということに関する訴えが成立する可能性があるということでしょうか?
要は、撮影した映像が、本人が認識していないような「用途」に用いられたケースと言えるかも知れませんが。。。

投稿: | 2008年7月 8日 (火) 20時26分

笹子トンネル事故で亡くなったシェアハウスの方々の写真がTVで流されている。どこからか入手した写真だと思う。遺族はどのような気持ちでそれを見ているのか。なぜ被害者の写真は勝手に使われてしまうのか。被害者は晒し者になる。これが日本のマスコミのやり方だ。視聴率が上がれば何でもいいらしい。
肖像権だろうが、プライバシー権だろうが、どっちでもいいんじゃないの。そんなこと。知らないうちに撮影されて、知らないうちに放映されるなんてことがおかしい。警察が捜査に使ったのならまだしも、先日の地震の時の防犯カメラ映像は人々の逃げる姿を写していたが、それがフジテレビの番組で流されていた。ぼかしを入れていたが、ぼかしさえ入れれば提供してしまうのかな。防犯カメラがTV局提供の売り物になっているようだし。この場合はどんな罪があるのかな。罪なんてないのかな。
無料で提供すれば問題ないのでしょうか。

投稿: 笹子トンネル事故 | 2012年12月10日 (月) 17時25分

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