「清川村が暴走車抑止対策として宮ヶ瀬湖周辺に防犯カメラ設置へ」のニュースについて
神奈川新聞社が運営するカナロコに平成19年8月4日掲載された記事によると,「宮ケ瀬湖周辺での暴走車両による事故や騒音に悩まされてきた清川村は,今秋までに村内の道路に向けて防犯カメラを設置することを決めた。」とのことである。記事の内容は下記の通りであるが,不思議なニュースだと思う。
地域住民の安全のため,暴走行為を抑止したいという気持ちはよく分かる。しかし,暴走行為の取締は警察の仕事であり,村の仕事ではない。村は何を根拠に県道を通行する車両一般を撮影することができるのか。また,警察との関係はどうなっているのか。
行政法には,法律による行政の原則というものがある。これによれば,最低限,国民に義務を課したり権利を制限したりする場合には法律の根拠が必要,という考え方である。例えば,公道において警察が写真撮影することについては,警察法2条1項「警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。」を根拠として,一定の要件のもとに認められることは,判例上確定している。逆に言えば,警察といえども,法律の根拠がなければ,公道において一般市民を撮影することは許されない。おそらく現時点で清川村には,公道において一般市民を作成することを許す法律上の根拠はないと思う。もし条例を作る予定であるとしても,このような条例を作成することが許されるかという問題がある。
また,記事には,「村は,プライバシー保護のため,撮影画像内容の県警への提供についてはガイドラインを策定。専門家らでつくる委員会で,提供の妥当性や提供基準を定期的に審議する。」と記載してあり,いかにもプライバシー問題に配慮し,警察との関係でも一定の緊張関係を保つという書きぶりである。しかしそれは無理であろう。違法な暴走行為とは,主として道路交通法の各種条項違反を指すが,「問題はあるものの違法とはいえない暴走行為」と「違法な暴走行為」の判定は,実際にはかなり微妙であり,警察官でなければ判断できないうえ,警察官なら全員同じ判断をするというわけでもあるまい。となれば,村としては,最低限,「問題のありそうな暴走行為」の録画画像をあらいざらい警察官に閲覧してもらうことになるだろうし,警察官としては,立場上,違法か否かの限界画像の提出をあらいざらい要求することになるだろう。
繰り返すが,私は,報道された暴走行為の取締に反対するものではない。私が言いたいのは,警察の仕事は警察がやるべきだ,ということである。警察は,その使命から,強大な権力と実力を与えられている。その一部といえども,地方公共団体が警察の仕事を代行するというのは,長い目で見た場合,極めて危険な発想である。(小林)
ニュース本文は次のとおり。
「暴走車抑止対策として宮ヶ瀬湖周辺に防犯カメラ設置へ/清川村」
車のスピードを計測し取り締まることはできないが,車のナンバーと運転者の撮影が可能。重大な犯罪発生時に県警に画像を提供するとともにカメラの存在を看板などで周知,暴走行為自体を抑止する。
設置は厚木市内と宮ケ瀬湖畔を結ぶ県道など五カ所の予定。通行する車両を二十四時間撮影し,画像は光ファイバーを通じて村役場で確認できるようにする。
同村は観光地の宮ケ瀬湖を抱え,周辺にはスピードの出しやすい直線道路や幅の広いカーブが多い。そのため,専門雑誌や漫画本などで周辺が”名所”として紹介され,暴走車両が増加。週末の夜には制限時速三十キロの道路を百キロ以上で走る車もあるという。
住宅近くで暴走車両が激突する事故も発生し,地域住民から苦情が寄せられてきた。
そのため,村は注意を呼び掛ける看板を設置し,路面に凹凸を施したり道路中央部に反射板のついた金属板を設置したりと対策を取ったが,暴走車両は増加の一途だった。
村は,プライバシー保護のため,撮影画像内容の県警への提供についてはガイドラインを策定。専門家らでつくる委員会で,提供の妥当性や提供基準を定期的に審議する。
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