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2007年8月17日 (金)

リチウムイオン電池事故の報告義務について

ソフトバンクモバイル株式会社のノキア・ジャパン製携帯電話を充電中に,松下電池工業株式会社製リチウムイオン電池が発熱し床を焦がす事故と発煙する事故が発生し,た件に関連して,平成19年8月17日付日本経済新聞朝刊に,「電池不具合報告の手順は」という囲み記事が掲載された。

これによると,本件に関する消費生活用製品安全法上の主務大臣への報告義務は,ノキア・ジャパンにある。また,それ以前から松下電池が海外での事故事例を知っていたとしても,法的責任はない。とされている。

この記事の内容は間違いではないが,やや不正確,ないし誤解を招く部分があるように感じる。

消費生活用製品安全法35条によると,主務大臣に対する事故情報報告義務が発生するのは,次の条件を充たす場合である。なお,報告の期限は10日である(消費生活用製品安全法施行規則3条)。

① 消費生活用製品の

 ② 製造又は輸入の事業を行う者が

 ③ 重大製品事故が生じたことを知ったとき

第一の問題は,①の「消費生活用製品」にあたるのは何か,という点である。リチウムイオン電池は当然該当するとして,携帯電話そのものも該当することは案外盲点ではないだろうか。本件事故が発生した時点においては,事故の原因となる欠陥が電池のみにあるのか,充電用機器も含む携帯電話本体にあるのか,それとも両方にあるのか,不明だった筈だからである。

第2の問題は,②の「製造又は輸入の事業を行う者」にあたるのは誰か,であるが,第1の問題を踏まえて考えれば,電池を製造した松下電池と,携帯電話を製造したノキア・ジャパンが該当することは明白である。一方,携帯電話を販売したソフトバンクモバイルは,小売業者であり,「製造」したわけではないので,主務大臣への報告義務は発生しない。小売業者は,消費生活用製品安全法34条により,製品事故情報を一般消費者に提供する責務(同法上,義務ではない)と,重大製品事故情報を製造事業者に通知する責務がある。報道によると,ソフトバンクモバイルは7月28日の事故を受け,同月30日に,事故情報をノキア・ジャパンに報告し,8月14日にホームページを通じ事故を公表しているから,この責務を果たしていることになる。

第3の問題は,③の「重大製品事故が生じたことを知ったとき」にあたるかである。「重大製品事故」とは,「製品事故」の中でも重大なものをいうから,ただの「製品事故」は除外される。

では,「製品事故」と「重大製品事故」の違いはどうなっているのか。

まず,「製品事故」とは,消費生活用製品の使用に伴い生じた事故のうち,その欠陥によって生じたものではないことが明らかな事故以外のものであって,①一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生した事故,または,②消費生活用製品が滅失し,またはき損した事故であって,一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生するおそれのあるもの,である(消費生活用製品安全法2条4項)。

次に,「重大製品事故」とは,一般消費者の生命身体に対し,①死亡,②加療30日以上の傷害,③一酸化炭素中毒,のいずれかが発生するか,または,④火災が発生したこと,がこれにあたる(消費生活用製品安全法施行令4条)。

これだけを見比べてもどこが違うのか,理解しづらいが,本件においてのポイントは,④の「火災が発生したこと」にあたるか否かである。報道による限り,本件事故は「床を焦がす」「携帯電話が発煙する」の2件であり,これらが「火災が発生したこと」に該当するか否かは,法律家としてみる限り,やや疑問が残るところである。というのは,例えば放火罪は,火が独立して燃焼したときに既遂になるとされているからだ。しかし,結論としては,この法律の趣旨などに照らし,この程度の事故でも「火災が発生した」と見る余地はあろう。そうであるとすれば,これらの事故を知ったノキア・ジャパンには,主務大臣に対する報告義務が発生することになる。

そして,松下電池も製造者であり,重大製品事故を知った以上,当然,主務大臣に対する報告義務が発生する。この点は記事に記載されておらず,松下電池には報告義務がないと誤解されかねない点であり,問題である。「すでにノキア・ジャパンが報告したから」報告義務が免除されるとは,法律上どこにも書いていない。逆に,消費生活用製品安全法施行規則の定める報告書の様式上,事故原因や事故への対応を報告するものとされていることからして,電池の直接の製造者である松下電池にしか分からない情報もありうる以上,ノキア・ジャパンが報告したからといって,松下電池の報告義務が免除されるということにはならない筈である。松下電池は本件携帯電話の部品の製造業者であるが,部品の製造業者といえども,報告義務を負う。ちなみに,独立行政法人製品評価技術基盤機構が発行した「生活安全ジャーナル」第4号には,「部品でも単体で販売され,一般消費者が購入できるものは消費生活用製品と捉えられます」との解説がある。

ところで,前述したとおり,松下電池は昨年12月に,ノキアから同社製携帯電話の電池不具合の報告を受けていた。この電池が今回問題となったものと同一であるか否かは記事上不明であるが,ノキア・ジャパンのホームページによれば,世界規模では約100件の過熱に関する報告があるとのことである。これは報告義務の対象にならないのか,が問題となるが,記事は海外での事故については報告義務はないとしている。この点は私も経済産業省製品安全課に問い合わせたが,同様の回答だった。その理由は,特に明文で定めてあるわけではないが,「日本の法律だから,報告義務の根拠となる事故は,国内での事故が対象になる」とのことである。

しかしこの解釈は不当だろう。これによると,日本人が,日本製品を海外で使用中に重大製品事故が発生しても報告義務対象外になるが,これが不当であることは明白であり,本法律の趣旨にも反する。どこで事故が起きようが,メーカーが重大製品事故発生を「知った」以上,その製品が国内で販売されている限り,報告義務があると解釈する方が当然だろう。仮に,消費生活用製品安全法上の報告義務がないとしても,例えば製造物責任法(PL法)や不法行為法上の法的責任が問題となるときに,海外での事故事例を知っていたことは,当該メーカーにとって極めて不利な事実になることは間違いないと思う。(小林)

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