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2007年10月 9日 (火)

次世代ロボットの誤使用による法的責任について(2)

次世代ロボットの事故に関する裁判例は,現時点では存在しない。しかし,次世代ロボットのメーカーや研究者にとって大いに参考になる裁判例はいくつか存在する。その中で,昭和40年代と古いものの,一つの裁判例をご紹介したい。

この事故の被害者は,某大手電機メーカーに就職して1年となる,23歳の研究職員であったが,昭和41年4月15日深夜,会社正門の自動扉に挟まれて即死した。この扉は,70メートル離れた守衛所から操作する建前になっていたが,いちいち守衛所に行く面倒を避けるため,扉の門柱に設置されたスイッチを操作する従業員がいた。被害者は,このスイッチの操作を間違えたようだ。

門柱には,「開」「閉」「止」の3つのスイッチがあった。扉を開けるときに「開」,閉めるときに「閉」のスイッチを押すのは当然として,問題は開きかけている扉を閉めるとき,また閉まりかけている扉を開けるときの操作である。この場合,「開」→「止」→「閉」,または,「閉」→「止」→「開」というように,間に「止」のスイッチを挟まなければ操作できない仕組みであった。被害者は,まず「開」を押して扉を開き,外に出た後,上半身を門の中に伸ばして扉を閉めようとしたところ,扉に挟まれて圧死したものと思われる。もっとも,被害者が死亡しているため,彼がスイッチをどのように操作したかは分からない。なお,動いている扉を人力で停止させるためには,大人4,5人の力が必要であった。

京都地方裁判所は,昭和48年9月7日の判決で,自動扉を設置した勤務先会社の責任を認めた。判決は,「社員が門柱のスイッチを操作しないようにカバーを掛けて施錠する等の措置をしなかった点,自動扉に物が挟まれた際,自動停止する機構がない点,スイッチの操作が複雑であり,とっさの操作ができなかった点において,本件自動扉には設置保存の瑕疵(=欠陥)があった」と判断した。

この事件は,典型的な「ユーザーによる誤操作」による事故であるが,被告とされた会社側に法的責任が認められた点について,法律家の間で異論はないと思われる(ちなみに,訴えられたのは自動扉の所有者である勤務先会社のみであり,扉の製造者は被告になっていない)。但し,その理由については再検討の余地がある。

まず,本質安全を重視するリスクアセスメントの考え方からすれば,何より重視するべきは,扉の圧力が「大人4,5人の力」でないと止められないほど強かった点であろう。失敗学で有名な畑村洋太郎東京大学名誉教授の著書によれば,自動扉には10ジュール則という暗黙智があるとされているが,少なくともこの事故が起きた昭和41年の時点では,このような暗黙智が無かった可能性がある。

もっとも,この扉には何らかの理由で,強力な圧力で開閉させる理由があったとも考えられる。この場合には制御安全の考え方により,何かが挟まれた場合には自動停止するとともに,直ちにバックする機構を設ける必要があった。判決は「自動停止」とのみ記載しているが,それでは足りないと思う。なぜなら,自動停止装置のみでは,実際に扉が止まるまで多少移動する可能性があり,これを押し戻せなければ,人命を救助できないからである。

一方,判決は「社員が門柱のスイッチを操作しないようにカバーを掛けて施錠する等の措置をしなかった点」を被告会社側の落ち度としているが,疑問である。制御安全は冗長系にするべしという安全工学のセオリーからすれば,自動停止装置以外に手動停止装置も備えるべきであるから,門柱のスイッチを操作できないようにすることなど論外であろう。しかし,スイッチを設ければこれを勝手に操作する人間も現れるし,防犯上の問題も生じる。

そうすると結局,本件事件の要点は,「思い鉄の扉を設置する必要がそもそもあったのか?」という点にフィードバックされることになる。判決文を見る限り,この点については突き詰めた検討がなされていないように思う。(小林)

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