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2007年10月13日 (土)

「誤使用」と「本来の用法」と「通常の用法」

公園,学校など公共の場所で事故が起こった場合,被害者やその遺族から,国や地方公共団体に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求訴訟が提起されることがある。国家賠償法2条1項は,「…公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」と定めているので,争点は,「設置又は管理の瑕疵」の有無,ということになるが,「瑕疵」があるとは,判例上,「通常有すべき安全性を欠いている状態」を指すとされている。

では,「通常有すべき安全性」があるか否かを分ける規準は何か。この点に関しては,最高裁判所平成5年3月30日判決が,先例として重視されている。

事件の内容はこうである。昭和56年8月14日,父親が5歳10ヶ月になる男の子を連れて,父親の弟や甥とともに,町立中学校校庭のテニスコートでテニスをしていた。この間男の子は球拾いをしたり,高さ約1.8メートル,重さ約24キロの審判台から見たりしていたが,父親が気づいたときには,審判台が後ろ向きに倒れており,男の子はその下敷きになって死亡した。審判台が倒れるところを直接目撃した人はいないが,状況から,男の子が審判台の後ろから降りようとしたため倒れたと思われる。

この事件に関し,第1審の仙台地裁と第2審の仙台高裁は,町の責任を認めたが,最高裁は,町の責任を否定した。裁判所の間で「通常有すべき安全性」の判断が分かれたわけだが,そのポイントとなるキーワードは,「本来の用法」である。

前面に階段のある審判台の背もたれを乗り越えて後部から降りようとすることが,審判台の「本来の用法」ではない。一方,6歳前後の男の子が,審判台をジャングルジムのように見立てて前後左右から昇ったり降りたりして遊ぶことは,「本来の用法」ではないが,ありうることである。後者を重視した第1審と第2審は,本来の用法でなくても,ありうることである以上,町はこれを予測して対策を立てるべきであったと判断した。これに対して最高裁は,「本来の用法」でない用法から生じる危険について,町は予測したり,対策を立てたりする義務はないとした。

ところで,「現場に親がいたのだから,親の方が悪いに決まっている。」と考える読者もいよう。いうまでもなく,本件で一番悪いのは親である。1審も2審も,裁判所は7割の過失相殺をしている。つまり,1審と2審は,親の責任7に対して,町の責任は3と判断しているのであり,「親の方が悪い」という価値判断においては,最高裁と変わりがない。問題点は,親の方が「全面的に」悪いか否かであった。そして,この最高裁判決は,「本来の用法」ではない使用方法から発生した危険については,ユーザーが責任を負う,という規準を示したといえる。言い換えれば,設置管理者側は,「本来の用法」を前提に安全対策を実施すれば足り,「本来の用法」ではない使用方法については,安全対策を実施する義務はない,と理解することができる。

さて,安全性の規準が「本来の用法」のみによって画されるとするならば,これは,メーカーや設置管理者側にとっては,大いに受け入れられるものであろう(「本来の用法」とは何か,という問題は残るが,この点は別途論じることとしたい)。この規準からすれば,「誤使用」の場合はメーカー側に一切責任がない,といい易いからだ。しかし,そうとも断言できないことがややこしい所である。というのは,本件最高裁判決は,従来の規準を踏襲しつつ,従来の基準で使用されてきた「通常の用法」という言葉をあえて使わず,「本来の用法」という言葉を使用したからだ。

本件最高裁判決が,「通常の用法」ではなく「本来の用法」という言葉を使用したことについて,その意味の違いはないとする見解もある。しかし,「本来の」という言葉には,設計者・製造者・設置管理者の意図や,その物の製造・設置された目的といった「意思」が反映しているのに対して,「通常の」という言葉には,そのような意思を離れて,現実・現状はどうであるか,という「客観的な状態」というニュアンスがある。両者の意味は違うと考える方が自然であろう。この点について,最高裁判所調査官の瀧澤孝臣判事は,私見と断りつつ,次のように解説する。すなわち,「瑕疵」の有無は,原則として「本来の用法」に即した安全性があるか否かによって決められるが,「本来の用法」ではない使用方法が常態化していて,これを知っていたり,知らなくても通常予測し得たりしたような場合には,例外として,設置管理者側に安全対策を施す義務が発生し,事故が発生したときには,法的責任が発生する。言い換えると,安全性は「通常の用法」を外円,「本来の用法」を内円とする2重丸によって区切られる3つの領域があり,「本来の用法」内で発生した事故については設置管理者側が責任を,「通常の用法」外で発生した事故についてはユーザー側が責任を負い,その中間にある「本来の用法」外で「通常の用法」内の部分については,場合により,設置管理者が責任を負う場合もある,ということになる。

これは一つのわかりやすい考え方であるとも言えよう。しかし,実際に妥当な規準を導く優れた規準であると言えるか否かについては,この判決後に続く事例と裁判例を分析してみなければ,何とも言えない。(小林)

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