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2007年10月29日 (月)

ウォークスルー虹彩認証システムについて(2)

平成19年10月17日から東京ビックサイトで,危機管理産業展(RISCON2007)と同時開催された「テロ対策特殊装備展(SEECAT)」を見学してきた。危機管理産業展は今年で3回目であるが,テロ対策特殊装備展の開催は初めてとのことである。私は招待してもらったので無料で見学できたが,一般来場者からは5万円というとんでもない入場料を取るにもかかわらず,会場は大いに盛況であった。石原都知事や警視総監も来場したとのことである。この盛況ぶりを見て,マイケル・ムーア監督なら,「安全は商売になる」と皮肉るだろう。また,「日本人は水と安全はただだと思っている」と言った故山本七平はどう見るだろうか,と思ったりした。

ところで,会場には,コンクリート壁を透視する装置や,核テロを想定した装甲車,自動追尾機能を持つ監視カメラなど,ミリタリーマニア垂涎ものの機器が展示されていたが,私の目当ては松下電器が出展した「ウォークスルー虹彩認証システム」の実演を体験することであった。

実演といっても,空港の金属探知器のようなゲートを見学客に歩いてくぐらせるだけであるが,装置は的確に目の位置を自動探知し,赤外線を使って虹彩情報を読みとり,データベースと照合する。私が通過しても何も起きないが,テロリストに扮した松下電器の社員がゲートをくぐると,警報が発令される。つまり,事前登録した「本人」を認証しているのだ。背丈が一定以下だと認識しなかったりするようだが,これはテスト機ゆえであり,実用化には支障がないとのこと。

他方,私が感じた問題点としては,他人受入率は120万分の1以下という高精度だそうだが,本人認証機能をテロ対策に利用するという用途なら,「非テロリストをテロリストと誤認識する」リスクより,「テロリストを非テロリストと誤認識する」リスクを避けるべきだから,大事なのは他人受入率ではなく本人拒否率の方ではないかと思う。もっとも,本人拒否率を公表していないのは精度が悪いからではなく,セキュリティ上の必要性からかもしれない。まさか数十分の1ということはあるまい。また,五木ひろしのように目の細い人はどうなのか,とか,虹彩を印刷したコンタクトレンズを装着した場合の認識率,などは教えてもらえなかった。テロリストの立場で考えれば,本人拒否率が多少高くても(つまり精度が足りなくても),無事虹彩認証システムをパスする確率が数万分の1というときに,それに賭けるリスクを冒すことはできないから,使用上の便宜を優先して他人受入率を高くするという選択もあるかもしれない。しかし,特定の措置(コンタクトレンズの装着や,角膜の手術など)によってかなりの確率で虹彩認証システムを騙すことが可能になるなら,逆に,このシステムを悪用する輩が出てくることになる。このようないたちごっこをやめさせるためには,むしろ本人拒否率を下げる取り組みが必要となる。他方,誤報ばかり発令すると,現場の担当者が警報を信用しないというヒューマンエラーが心配の種となる。テロ対策装備としては,このあたりが課題かもしれない。

いずれにせよ重要なことは,この種の機器は,明日にでも実用化される時代が来た,ということである。使い方さえ間違わなければ,この種の機器は社会の平和に大いに貢献することになろう。問題は,虹彩情報の管理のあり方など,適切な使い方のルールを早期に制定することと思う。(小林)

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