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2007年11月20日 (火)

「ザ・インタープリター」を見て(DVD鑑賞)

国連総会の通訳をしているシルヴィアは,偶然,アフリカのマトバ共和国大統領暗殺計画を聞く。しかし,捜査を開始したシークレットサービスのケラーは,シルヴィアには家族を大統領に爆殺された過去があることを知る。シルヴィアには大統領を殺害する動機さえあるのだ。問いつめられたシルヴィアは,「溺れる男の裁き(Drowning Man Trial)」とよばれるマトバの風習を説く。それは,殺人犯の手足を縛って川に放り込み,溺れさせるか救助するかを遺族の選択に委ねるというものだ。「溺れさせれば,遺族は正義を手にするが,悲しみは一生癒されない。しかし,正義ばかりではないという人生の現実を受け入れて犯人を救助すれば,悲しみが癒される(if the family lets the killer drown, they’ll have justice but spend the rest of their lives in mourning. But if they save him, if they admit that life isn’t always just, that very act can take away their sorrow.)」。シルヴィアは,「復讐心は悲しみの最も愚かな産物だ」と言い,大統領への殺意を否認する。これに対して,その2週間前に妻が間男とともに交通事故死したため,憤りの矛先を無くしていたシークレットサービスのケラーは,「俺なら犯人の頭を押さえつけて溺れさせるよ。」と気弱く言い返す。

私が愛読する「映画瓦版」氏は,「この映画はアメリカという現代の覇権国家がその中心に抱え込んだ,国連という厄介な異物こそが大きなテーマになっている」というが,これは的はずれだろう。映画の主旨は,国連と並んでニューヨークを代表していたWTCビルディングが9.11テロによって崩壊した後のアメリカに,「敵に復讐するのでも,敵を赦すのでもない,敵を救済するという選択肢もある」という提案をしたことにある。「敵を赦す」ことを説く思想は珍しくないだろうが,積極的に「敵を救済する」ことまで説く思想や宗教はあるのだろうか。この映画がアフリカの架空の国を持ってきた理由は,このあたりにあるかもしれない。

もちろん,敵を救済すれば魂の安楽が得られる,という甘々の結論を,映画は慎重に排除している。映画の後半でシルヴィアは復讐心を再燃させ,逆にケラーは救済を説く。二人の感情は螺旋を描くようにもつれ合い,最後にはお互いを理解するが,結局救済は訪れない。しかし,河畔に佇むケラーの背後に広がるマンハッタン島は夕日を浴びて暖かく輝いている。これは,同じくラストシーンの背景にマンハッタン島を据えながら,悲劇的な未来を暗示した「ミュンヘン」(スティーブン・スピルバーグ監督)に対する,同じユダヤ人監督であるシドニー・ポラック監督なりの対案なのだろう。

テレビの2時間ドラマばりの安直な解決や,脚本の弱さ,なにより,ニコールキッドマンが美しすぎてテーマから浮いてしまうことなど,欠点の多い映画であるが,それでも,9.11後のアメリカに対して,「敵に復讐するのでも,敵を赦すのでもなく,敵を救済するという選択肢もある」ことを説いたという意味において,この映画は記憶されるべきだと思う。(小林)

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受信: 2007年11月21日 (水) 20時08分

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