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2007年11月16日 (金)

「弁護士大幅増員反対」は「弁護士のエゴ」か?

日本経済新聞平成19年11月15日朝刊「試される司法」は,同紙としては久しぶりに,弁護士増員反対に対してやや批判的な記事を掲載した。すでに指摘したとおり,司法修習生の就職難が社会問題になったのち,日本経済新聞の論調はやや日和見的になっていたが,11月4日の社説で鳩山法務大臣の発言を批判したことに続き,弁護士増員賛成の方向に再び舵を切ったのかもしれない。

確かに,筆者の小さなアンテナにも,「国会議員の中で弁護士増員に表だって反対しているのは鳩山法務大臣だけで,従来司法改革に携わっている議員の大多数は3000人反対などとんでもない立場だ」というような情報が入ってきている。鳩山法務大臣も,「友人の友人がアルカイダ」とか,「死刑の自動執行」とか,その内容の是非はともかく,言い方に品のない発言が続いたため,回りの賛同を得られなくなっている可能性がある。

ところで,上記「試される司法」の記事で増員に反対する弁護士(会)に対する批判は,島根大法科大学院の三宅孝之教授の「法曹人口の拡大や地方進出を阻む『弁護士のエゴ』に厳しい視線を向ける。」という発言を借りて行われている。筆者として,弁護士増員の是非について本稿で論じるつもりはないが,この発言に対しては,次の2点で不愉快に思う。

第一点は,発言者である島根大学法科大学院三宅孝之教授の立場である。平成18年度の新司法試験合格者を見ると,島根大学は合格者が一人しかいない。受験したのも一人なので,合格率は100パーセントで全国堂々1位だが,これは受かりそうもない学生に受験させなかったのではないか。まさか1学年で学生が一人ということもあるまい。いずれにせよ確かなことは,このままの合格者数では,島根大学法科大学院は消滅する運命にあり(だって教授の給料だけでも,絶対ペイしないからね),三宅教授の立場からすれば,合格ラインを下げて合格者を増やしてもらう必要がある。つまり,合格者増反対が「弁護士のエゴ」なら,三宅教授の発言は「法科大学院のエゴ」であり,公平な目で見て,「お互い様」でしかない。そもそも,受験資格のある学生がほかにいたとするなら,法科大学院のメンツを保つために受験させないことは法科大学院のエゴ以外の何者でもない。

第二点は,三宅教授の発言が「法科大学院のエゴ」である点はさておいても,合格者増に反対する弁護士の動機が「エゴ」にあるのかどうか,という点だ。「エゴ」という言葉の辞書的な意味はともかく,この発言には「弁護士が弁護士増に反対するのは既得権益を守りたいからだろう」というニュアンスがある。筆者はこの認識は間違いであると思う。正確に言い直せば,弁護士になって20年目程度の若手・中堅と呼ばれる弁護士の立場からすれば,この認識は間違いだと思う。これらの弁護士の多くにとって増員問題は既得権益の問題ではなく,生活の問題なのだ。既得権益の問題であるならば,司法改革という「理念」によって克服することも可能であろうが,生活の問題は,理念で克服することはできない。「武士は喰わねど高楊枝」という諺もあるが,「衣食足りて礼節を知る」という諺もある。生活の危機を感じている弁護士に理念を説いても,受け入れられることはない。

大阪では,弁護士になって2,3年目(年齢にして30歳前後)の弁護士の給料は,月額手取りで30万円前後である。これ以外に国選弁護事件がまるまる自分の収入になれば(そうならない事務所も多い),1件当たり7万円前後だ(時間給に引き直せば数千円だが)。10年目以上の弁護士の生活だって,そんなに豊かではない。もちろん,死ぬか生きるかというレベルではないが,事務所を維持するのがやっと,という弁護士が大多数だと思う。これが既得権益だろうか。少なくとも可処分所得と将来の安定度を比較すれば,日本経済新聞の担当記者諸氏の方が,よほど既得権益に漬かっているはずだ。

弁護士の業界にも自由競争原理をとは,今どき,耳になじみやすい言葉だ。しかし,事務所の生き残りに汲々として,事務員のボーナスが支払えるかどうか心配しなければいけないような弁護士が,困っている人やお金のない人のために働くだろうか。今年の大阪弁護士会の新入会員は200名くらいいたはずだが,先日聞いた話では,弁護士会の人権委員会に加入した新入会員はゼロだった。人権委員会は,社会の最底辺の人たちのために,ほとんどボランティアで,地味で厳しい仕事に日々取り組んでいる。このような委員会に全く人気がないということは,新人弁護士に,「人権活動などやっている余裕はない」という考えが浸透してきたことを意味する。新聞記者が空虚な「理念」を説いているうちに,もっと大きな「理念」が失われつつある。

弁護士増を主張することは結構だ。しかし,これに反対する弁護士に「エゴ」というレッテルを貼ることはやめて欲しい。少なくともそれは,議論をすれ違いにしてしまう。(小林)

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