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2007年11月24日 (土)

安全規格を守れば次世代ロボットメーカーは法的責任を免れるか

現在,次世代ロボット研究開発にかかわる研究者は,政府機関と協同して,日本が次世代ロボットの国際安全規格策定の主導権を握るべく,日々奮闘されている。筆者も関連する政府系の会議の末席を汚しているが,素人目から見て「ここまで安全を確保しなくても大丈夫じゃないの?」という,やや不謹慎な感想を持つほど,安全性確保への希求度は高い。

このような研究者が筆者のような法律家に最初にお尋ねになる質問は,異口同音に,「ISOやJIS等の安全規格を遵守したロボットを製作すれば,万が一事故が起きても,メーカーは法的に免責されませんか?」というものだ。

残念ながら,回答はNOである。ISOやJIS等で高度の安全規格を策定し,これを遵守した次世代ロボットを製作したとしても,万一事故が起きた場合,「規格を遵守した」という一点のみをもって,メーカーが免責されることはありえない。

その理由の説明の仕方はいろいろあるが,一言で言えば,「(国際)安全規格は私的なルールに過ぎず,法律ではないから」という説明の仕方が一番妥当ではないかと,今は思っている。

次世代ロボットの使用中に万一事故が起こり,ユーザーが傷害などの損害を負った場合,メーカーの法的責任の有無を最終的に判断するのは,民事責任にせよ刑事責任にせよ,裁判所である。そして,裁判所の判断は,法律のみによって拘束され,安全規格という私的なルールには拘束されない。従って,安全規格を遵守したという事実が,裁判所を拘束することはない。単純な三段論法であるが,次世代ロボットの研究者は,一応,この説明で納得して頂けるようである。

ちなみに,裁判所が法律のみによって拘束されることの根拠は,日本国憲法76条3項に,「すべて裁判官は,…この憲法及び法律にのみ拘束される」の規定にある。この規定は,民主主義と三権分立(立憲主義)という,憲法の基本思想にかかわるものであり,今話題になっている9条よりもある意味重要な規定であって,仮に9条が改正されることがあっても,76条3項が改正されることはない,といえるほど重要な規定である。

ではなぜ裁判所は法律のみによって拘束され,私的な安全規格には(例えそれが国際会議で策定されたものであっても)拘束されないのか,というと,法律は国民全体の代表者である国会議員によって構成される国会が作ったものであり,その過程にはメーカーやユーザー,言い換えれば潜在的な加害者や被害者,さまざまな利害関係者の意見が手続上反映されているからだ。逆に,安全規格は,いかに策定者がユーザーの利益を考慮して策定したと主張したとしても,ユーザーの意見が手続上反映したとはみなされない。これは社会契約なり,民主主義の基本原理とかかわることなので,興味のある方は法哲学など,その方面の書物を読んでみてください。

それでは,安全規格の遵守が裁判に全く影響を及ぼさないかというと,そうでもない。第一に,メーカーが安全規格を遵守していなければ,法的責任が認められない可能性は飛躍的に高まる。その意味で,安全規格を遵守することは,メーカーにとって,法的責任を免れるための必要条件である。第2に,安全規格を遵守していれば,法的責任は認められても,その程度が軽くなる可能性が高くなる。この意味で,安全規格を遵守することは,メーカーにとって,法的責任を免れるための「十分」条件ではないが,「7分か8分」くらいの条件になりうる。だから,メーカーは,安全規格を遵守する必要があるし,また,遵守するメリットもある,ということになる。(小林)

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