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2007年12月 6日 (木)

千葉大学のロボット憲章について

20071121日,千葉大学はロボット憲章(知能ロボット技術の教育と研究開発に関する千葉大学憲章)を制定した。制定趣旨は,「遠くない未来社会に生物の一部機能をはるかにしのぐロボットが出現する」時代にあって,「光と影の両面を有する先端的ロボットの研究開発に携わる者の責任は極めて重大である」として,「地球生態系の維持・保全を規定に据えて,人間の尊厳,人類の福祉,恒久平和と反映,そして,安全安心な社会に資するロボット研究開発と教育をこそ率先して推進する立場から」この憲章を制定したとのことである。これは全5条からなるが,適用範囲を定める第1条と第5条以外の3ヶ条が憲章の内容を定めるものであり,要約すると,

第2条が平和目的の民生用ロボット教育・開発のみを行うこと

第3条が非倫理的・非合法的利用防止技術をロボットに組み込むこと

第4条がアシモフのロボット3原則を遵守すること

となっている。

この憲章を紹介するニュースやブログをいくつか拝見したが,おおむね好意的な内容であった。

しかし筆者は大いに批判的である。

第1に,筆者は,技術者や研究者が「倫理」で自らを縛ることは正しくない,と思う。確かに,筆者の知る範囲のロボット研究者・技術者の中には,明らかに「マッド系」に属する人がいる。マッド系の考えることは常人の想像の域を超えており,法律家の目から見ると「おいおい,そりゃマズイよ」ということを平気でやろうとする。しかし,研究者や技術者たらんとする者は,それくらいでいいのである。言い換えれば,そのくらい過激なことを考えたりやったりしないと,世の中を変えていくことはできないのである。「倫理」や「法律」などといったルールの適用は,哲学者や法律家などに任せておけばよい。倫理や正義に反することをおそれて,自らに歯止めをかける科学者は,結局たいした仕事はできないと思う。

なるほど,生命科学や核化学など,一部の科学分野ではこうした倫理規範が必要な分野が出てきていることは事実である。しかしこれらは,技術の先端性もさることながら,「間違いを犯したら後戻りが出来ない」点に,倫理規範制定の必要性が存在している。違法な治療である患者の生命が救われたとして,その治療を取り消すことはできない。

第2に,「憲章」なるものの中身があまりに稚拙である。例えば2条に「平和目的の民生用ロボットに関する…研究開発のみを行う」とあるが,ここに「平和目的」とは何を指すのか。「平和目的」とは軍用ロボットの開発を排除する趣旨か。しかし,「軍用=非平和」という発想は,その是非はともかく,国際的な常識と異なるのではないか。スイスやスエーデンのロボット研究者に嗤われないのか。また,「軍用」とは何を指すのか。武器に限定されるのか,武器以外の軍用(例えば兵員の運送や武器の保管)も含むのか。武器そのものでないとしても,武器に転用されうる技術を含むのか。例えば千葉工業大学が開発した「床下点検ロボット」は直ちに偵察ロボットに転用されうるが,そのようなロボットの開発は許されるのか。また,軍隊または軍需産業がスポンサーになることは認めるのか。防衛省がスポンサーになることは許さないとして,三菱重工ならどうなのか。米国政府はどうか。DARPAはどうか。米軍を最大のスポンサーとするNASAはどうなのか。

このように,この憲章の文言は法的解釈が不可能であるほど中身が曖昧であるし,厳格に(つまり研究者の研究可能範囲を狭める方向に)解釈すればするほど,ロボット技術の競争力を狭める結果になることは目に見えている。そこまでしなければならないほど,日本のロボット技術は他国を引き離して世界のトップレベルにあり,かつ,このような憲章で自らを縛らなければ行けないほど,危険な領域に達しているのであろうか。筆者にはそうは思われない。

第3に,「アシモフの3原則を遵守する」という下りである。筆者も一部しか読んでいないが,ロボット3原則を巡るアイザック・アシモフの一連の著作は,全体としてみる限り,ロボット3原則だけではうまくいかない,という結論になっているはずだ(k-takahashi’s 雑記)。ロボット3原則を理想として掲げるのは結構であるが,この3原則の妥当性について様々なシミュレーションを行ったアシモフの苦悩を,この憲章の制定者は理解した上で採用しているのだろうか。(小林)

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