東京都、ハイテク3D防犯カメラを首都全域に設置へ
平成19年1月11日のAFP通信によると、東京都は「指名手配犯などの顔データを立体的に認識できる初の3D防犯カメラを都内全域に設置する計画を明らかにした。」とのことである。
記事は、「同システムは、防犯カメラがとらえた人の顔を瞬時に3次元画像データとして送信し、指名手配犯やテロ容疑者の顔データと照合することができるもの。画像データと容疑者データが一致した場合には、即時に各警察署に通報される。関係者の話によると、従来の2次元画像式防犯カメラでは人間の顔を多方向から同時に認識することは不可能だという。最新3D防犯システムの所要経費は約1億1000万円。東京都では、カメラの設置場所として鉄道各駅や繁華街などを想定しており、警視庁や産学機関と合同で調査を進め、2010年には防犯カメラを試験的に導入したいとしている。」と続ける。
いよいよ「マイノリティ・リポート」並みのハイテク防犯カメラ社会の到来か、と受け止める向きも多いであろう。「監視社会を拒否する会」あたりは、敏感に反応して反対声明を出しそうなものだが、正月休み中なのか、現時点では何の動きもない。
私の法律的な見解としては、このようなシステムは、少なくとも記事が言うように指名手配犯の探索に用いられる限りは、違法性は無い。もっとも、記事が「指名手配犯やテロ容疑者」という書き方をしていて、まるで「指名手配犯ではないテロ容疑者」がいることを前提としている点にはややひっかかるが、この点については別稿でふれたい。
むしろ、この記事が不正確なのか、東京都の発表が変なのか分からないが、この記事を読んでいて疑問に思う点が別にある。
すなわち、記事の見出しには、今にも3D防犯カメラなるものが都内全域に設置されるかのようだが、記事をよく読んでみると、その技術自体が実験段階にあることが分かる。ところが、実験段階の割にはすでに「必要経費」が発表されていて、それが1億1000万円。妙に中途半端だし、異常に安い。この経費は、2007年度の実験に要する経費と見るべきだろう。このシステムを都内全域に展開するのなら、少なくとも数十億円が必要になると思う。
記事には「従来の2次元画像式防犯カメラでは人間の顔を多方向から同時に認識することは不可能だという。」とある。小難しい言い回しだが、1台のカメラでは人を多方向から認識することができないことは当然だし、1方向から認識した画像が立体画像になり得ないこともまた当然だ。そこで、このシステムは多方向(少なくとも2方向)から撮影した画像を合成し、3次元画像を復元しようというものだが、口で言うのは簡単でも、技術的には恐ろしく困難だと思う。というのは、複数のカメラが同じ場所を同時に撮影するとして、Aカメラが撮影した甲という人物と、Bカメラが撮影した乙という人物が、実は同じ人物であるということをシステムに把握させることが非常に難しいからだ。人間なら、人相からある程度判断がつくことだが、コンピューターには、そもそも人相という概念がないのだ。そこで、あらかじめ撮影する場所の座標をカメラに覚えさせておくという方法を取ることになろうが、人間は升目どおりに動いてくれないし、駅の雑踏等で、一人一人を正確に識別するためには数センチ単位の座標を0.1秒単位で複数カメラに同期させる技術が必要になろう。
ところで、一方向から人を撮影して骨格など立体的情報を割り出し、認証に用いる技術はすでに存在するし、精度もかなり上がってきている。となると、今回東京都が発表した技術をわざわざ開発する必要性が分からなくなる。どうにも疑問が残る記事である。(小林)
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