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2008年1月15日 (火)

さらし粉運送業者事件

昭和48年、22トンのさらし粉を積んだ貨物船が火災・爆発を起こし、1億7000万円以上の損害が発生した。さらし粉というのは次亜塩素酸カルシウムとよばれ、漂白などに使われるが、衝撃や引火により爆発的に燃える性質がある。そこで、損害を被った海上物品運送業者は、さらし粉の製造業者に対し、さらし粉の危険性や運搬・保管上の注意義務を説明しなかったとして、損害賠償の支払いを求め、裁判を起こした。

第1審の判決は昭和49年に出たが、控訴審判決は約15年後の平成元年であった。控訴審の東京高裁は、事故が起きた昭和48年当時、さらし粉の爆発炎上しやすい性質はほとんど知られていなかったから、さらし粉製造業者には運送業者に対してさらし粉の危険性や運搬・保管上の注意を説明する必要があったとして、製造業者の責任を認めた。但し5割の過失相殺により、賠償額を8705万円と認定した。

これに対して平成5年になされた最高裁判所判決は、業者の責任を全面否定した。理由のポイントは、海上物品運送業者といういわばプロが、荷物がさらし粉であることを知っていた以上、船に備え付けられていたイムココード(危険物海上輸送に関し国際的に権威のある国際危険物海上運送規則。国際機関である政府間海事諮問機構が作成した危険物海上輸送のモデル法規)やブルーブック(危険物船舶運送の手引として国際的に権威のある英国の危険物船舶運送取扱要領青本)などを参照して調査することにより、その危険性の内容、程度及び取扱上の注意事項を容易に知り得たから、製造業者にはわざわざさらし粉の危険性や運搬・保管上の注意義務を説明する義務はないと判断した点にある。

この高裁判決と最高裁判決が、事実認定の部分で両立するとすれば、昭和48年当時、さらし粉の危険性は海上運送業者の間ではほとんど知られていなかったが、他方、危険物海上輸送のマニュアルにはさらし粉の危険性が記載されていた、ということになり、プロである以上、マニュアルを読んでいませんでした、では済まないというのが、最高裁判所の理屈ということになる。これは英米の裁判例の考え方に従っているようであり、内容的にも至極常識的なような気もするが、他方、製造業者にとっては、マニュアルに書いてあればOK、という誤解を招きかねず、注意を要する裁判例である。この事件は、被害者がプロであることが重要であり、プロでない一般消費者にマニュアルの熟読を要求する趣旨ではないことに留意するべきであろう。

それにしても、事件から20年で最終解決というのは、司法のあり方としてはいかがなものかという気もする。このような、事故から長い年月のたった事件の場合、我々弁護士が一番気にするのは、賠償金の利息である。この利息は、民法で年5%と決まっており、20年たてば元本と同額になる。つまり払う方にしてみれば支払額が倍になるということであり、金利が10%を超えていたバブルの時代ならともかく、現代では年5%という「高利」を負担させられることになる。東京高裁は、事故後15年で過失相殺5割の判決を出したが、この判決に従った場合、利息が元本の75%にも達しているから、負けた方は5割の過失相殺にもかかわらず、ほぼ請求金額満額の賠償金を支払うことになる。(小林)

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