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2008年2月15日 (金)

鳩山法務大臣の「冤罪」発言について

鳩山法務大臣が,前後の脈略は不明であるが,「富山の事件は冤罪だが,鹿児島県志布志の事件は冤罪ではない」と発言して,謝罪に追い込まれた。

まことに軽率な発言であり,不当な捜査によって甚大な損害を被った人びとに対して失礼極まりない態度である。

ただ,鳩山法務大臣がどういう趣旨でこのような発言をしたのかは,やや気になるところである。そこで二つの事件を比べてみると,富山の事件は,有罪判決が確定した後で無実が判明した事件であり,鹿児島の事件は,起訴されたが一審判決で無罪になった事件である。つまり,刑事手続きとしては,一度有罪判決が確定したか,していないか,という点で違いがある。しかし,だからといって法律的には,一度有罪が確定したのち無実になったら冤罪で,有罪が確定していないときは冤罪ではない,という定義は存在しない。辞書でも(鳩山法務大臣も広辞苑で調べたようだが),そのような違いはない。法律的にも国語的にも,鳩山法務大臣の発言は誤りである。

しかし,「盗人にも三分の理」という諺もある。筆者は,一点だけ,鳩山法務大臣の発言に酌むべき点があると思う。おそらく大臣は,法務大臣としての立場から,「起訴して無罪になった場合は,無実の人が最終的に有罪とされた場合に比べて,国(司法)はそんなに悪くない」と言いたかったのだと思う。この点は,刑事裁判の今後を考えるうえで,大事な部分を含むと思う。

ご承知のとおり,日本の刑事裁判は現在,99%以上の有罪率を「誇る」。これは,捜査機関が,ほとんどの場合,本当に罪を犯した人だけを起訴しているからだ,との見方も可能だが,その裏面として,99%以上の有罪率を確保するために,重罪で一度逮捕したら何が何でも有罪に持っていく,という影の部分もある。富山の事件や鹿児島の事件のような,自白を無理矢理取る違法捜査も,99%以上の有罪率が捜査官を追いつめている,という部分もある。

このような影の部分を無くすためにはどうすればよいか。それは,有罪率99%を諦めることである。言い換えれば,起訴したが無罪になった,という事件でも,捜査機関は悪くない,と国民が納得することが必要である。無罪判決が出るたびに,マスコミや国民に徹底的に叩かれるようでは,捜査機関は99%を諦めることができないのである。もちろん,有罪率が下がりすぎても問題であるが,80%前後の有罪率なら,国民として許容してあげなければならないと思う。正当な捜査をして,被疑者を逮捕し,正当な取調の結果起訴した場合には,裁判所が無罪判決を出しても捜査機関は悪くない,ご苦労様でした,と国民が思ってあげなくてはいけない,ということである。これは日本では大変難しいことだが,とても重要なことだ。

誤解の無いように付け加えておくと,無罪になったときでも捜査機関は悪くない,と言ってもらえるのは,正当な捜査を尽くした場合に限られる。捜査を尽くさなかったために無罪になった場合はもちろん,違法不当な捜査をした場合にも,捜査機関は許してもらえない。「冤罪は悪いが,無罪は悪くない」という鳩山大臣の意向をくんで,今後「冤罪」の定義をする必要が出てきたら,「違法又は不当な捜査により刑事手続上の不利益を被った場合が冤罪」と定義しても良いと思う。

そこで富山の事件と鹿児島の事件を見てみると,どちらも,不当な自白強要が問題となった事例である(富山の件については弁護人の不手際も問題になっているが,本稿では触れない)。先の定義からすると,どちらの事件も「冤罪」である。従って,鳩山法務大臣の発言は,やっぱりダメである。(小林)

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