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2008年3月12日 (水)

住基ネット合憲判決について

200036日,最高裁判所第一小法廷は,住基ネットを意見とした大阪高等裁判所の判決を破棄し,住基ネットが合憲であるとの判断を下した。

最高裁は,何人も憲法13条に基づき,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するという昭和44年の最高裁判所大法廷判決を引用した上,住基ネットがこれに違反するかを検討している。

そして,住基ネットによって管理・利用等される本人確認情報は,氏名,生年月日,性別及び住所からなる情報に,住民票コード及び変更情報を加えたものであって,それ自体個人の内面性に関わる秘匿性の高い情報とは言えないこと,住基ネットのシステムに対する不正アクセス等によって容易に漏洩する具体的危険性はないこと,本人確認情報の目的外利用や秘密漏洩,不正なデータマッチング等は懲戒処分又は刑罰によって禁止されていること,本人確認情報保護に関する審議会等によって,情報保護の制度的措置を講じていること,などを理由として,住基ネットが憲法13条によって保障された上記自由を侵害するものではないと結論づけている。

住基ネットを意見とした大阪高裁判決との違いはおそらく2点ある。1点は,大阪高裁判決がプライバシー権ないし自己情報コントロール権という憲法上の権利を認め,その侵害があるか否かという判断を行ったのに対して,最高裁は,このような名前の権利を認めるか否かという判断は行わず,昭和44年の最高裁大法廷が認めた自由が侵害されるか否か,という判断をしている点だ。この点はかなり理論的な問題なので,本稿ではこれ以上立ち入らない。

もう一点は,住基ネットそのものの危険性に対する評価の違いだ。この点については,大阪高裁が「具体的危険がある」と判断し,最高裁が「具体的危険はない」と判断した,との分析も可能だが,これでは水掛け論だ。最高裁が高裁の判断を覆す以上,それなりの理屈を用意したはずだ,という前提で分析しなければいけないと思う。

このような視点で見てみると,大阪高裁判決との違いは,最高裁が本人確認情報の不正使用や漏洩を防止する制度や,懲戒・刑事手続制度による取締を重視している点にある,と言うべきだと思う。

最高裁の理屈は,このようなものではないか。住基ネットは人間が作り運用するシステムである以上,情報が漏れる可能性があるかないかといえば,ある,と言わざるをえない。しかし,情報が漏れる可能性があるという一点をもって,住基ネットを否定して良いのか。むしろ,システムを運用する制度や,違反者を罰する制度によって,つまりシステムを運用する人間を統率する制度によって,安全性を確保するべきではないのか。事後的規制となるが,それはやむを得ない。そして,どの程度の制度が必要かは,情報の重要性によって変わってくるが,住所氏名等といった本人確認情報程度なら,現行の制度で十分である。

最高裁の立場は,一般論として,このように言い換えることもできる。すなわち,国がそれなりの理由があって新たに始めた制度について,それにデメリットやリスクがあるというだけで,その制度を止めてしまえ,と司法は言うべきではない,という立場だ。どんな制度にも利点もあれば欠点もある。欠点より利点がまさる,という国の判断については,司法は原則として文句を付けない,とする立場ともいえる。行政寄りとか政府寄り,と批判されるゆえんだが,民主的基盤を持つ国会や行政府に比べて,民主的基盤の薄い司法は一歩引くべきだ,という発想は,一つの賢明な考え方であると思う。

ただ,住基ネット支持者に注意して頂きたいのは,これをもって住基ネットにお墨付きが出た,と誤解しないでほしい,という点だ。今回の最高裁判決も言うように,不正な情報利用や漏洩に対しては懲戒や刑事処分が下されることが,住基ネット合憲の理由になっているということは,今後,不正な情報利用や漏洩が明らかになった場合,これに対する司法の制裁は厳しくなる,とも予想されるからである。その意味で,住基ネットのセキュリティを保持する責任は,今回の最高裁判決によって重くなったと言ってよい。

ところで,高裁判決後上告を断念した箕面市との関係では,違憲判決が確定している。箕面市はどうするのか,注目される。(小林)

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