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2008年3月 9日 (日)

日弁連はなぜ負けたのか? ~法曹一元とは何だったのか(6)~

司法試験合格者数年3000人を日弁連が受け入れた2000年臨時総会の決議文及び提案理由において,日弁連執行部は,「法曹一元」という単語を42回も用いた。しかし,「法曹一元」という言葉の意味は,日弁連総会決議という公式声明の中でも,歴史的に変容していることは,本稿(4)でご紹介したとおりである。それでは,歴史を縦軸と位置づけた場合,横軸はどうか。実は,1997年から2000年に限ってみても,「法曹一元」の理解にはかなりの幅がある。

日弁連が2000218日に行った「法曹一元の実現に向けての提言」によると,法曹一元の制度構造は,「裁判官以外の法曹資格者(主として弁護士)から市民を含む裁判官推薦委員会の推薦を受けた者のみが裁判官となる制度であって,従前の昇給・転勤等の人事制度を廃止する」ものであり,2010年をもって新規判事補の採用を廃止するとする。このようにして選任された裁判官の数は3000名(ちなみに2000 年当時の判事数は1360名)を想定し,これを支える弁護士数を確保する,というものである。これが,20005月における日弁連の公式見解としての「法曹一元」の内容である。この公式見解には,ロースクールへの言及はなく,陪審制・参審制への言及もない。弁護士人口についても増員を言うだけで,数についての言及はない。20001117日に開催された第18回日弁連司法シンポジウムは法曹一元をテーマにしたが,基調報告の内容は,基本的に上記提言に沿ったものとなっている。なお,こうした日弁連の立場を中心になって推進したと思われる小川達雄弁護士(京都弁護士会)は,自由と正義511号「『20世紀の宿題』法曹一元制度の実現へ」(2000)は,日弁連提言と同様の私案を提起しつつ,法曹一元の裁判官3000名を支えるための司法試験合格者数を年1500人とし,2003年からは年40人,2010年からは年140人,2019年からは年100人の弁護士を裁判所に供給することにより,2020年ころまでに全キャリア裁判官は消滅すると推計している。

井垣康弘神戸家庭裁判所判事(当時)は,自由と正義511号「私の構想する『法曹一元制度』」(2000)で,「日本型ロースクールを設け,判事補制度を廃止し,法曹有資格者で裁判官以外の経験を10年以上有する者(主として弁護士)から,任期10年,任地・ポスト固定,報酬同額の条件で,民意の反映するような方法で判事を任用するべきである(あわせて陪審制度・参審制度を導入するべきである)とする立場に「全面的に賛成」であると述べる。ここで,法曹一元とロースクール,あるいは陪審制度との関連が述べられているが,井垣判事の理解するところの「日本型ロースクール」が何を意味するのか,あるいは,法曹一元と陪審制度等との論理的関連は明らかにされていない。

戒能通厚名古屋大学教授は,自由と正義489号「法曹一元と裁判官【司法改革を展望して】」(1997)で,「法曹人口増加や研修期間を短縮する等の司法改革が,『法曹一元』の概念をご都合主義的に歪曲して語られ,独り歩きして,それぞれの主張を裏付け権威づける都合のいい概念として多用されている」として,法曹一元の名の下に修習期間短縮を受け入れようとする立場を批判する。同教授によれば,日弁連が範とするイギリスの法曹一元制度は,バリスタという特権者のギルド集団の中で,「尊敬を勝ち取る」ことによってのみ裁判官への道が開かれる制度が,国民の自由の擁護者として支持されてきたものであり,官僚司法と対峙するものの,民主主義とは相容れない制度であるという。もっとも,イギリスの法曹一元制度自体,急激に変容しつつあることは,教授自身指摘している。

松井康浩もと日弁連事務総長は,自由と正義498号「司法制度の改革と法曹一元制度」(1998)で,我が国は「支配者」と「国民」に二分されており,法曹一元は司法を支配者から国民が奪取する行為であって,法曹一元が実現されれば,「誰が見ても違憲の」自衛隊は違憲となり,日米安保条約も当然破棄されると予想する。法曹一元のための弁護士増は不要であり,法曹養成の費用は専ら国費で賄うべきであると主張する。乱暴に要約すれば,この主張は国費を元手に司法権を通じて日本に革命を起こそうというものである。革命の善し悪しはさておいても,日弁連事務総長の要職にあった人物が,「弁護士が裁判官になれば革命が起こってすべてがうまくいく」という脳天気な議論を本気で行っていることに驚きを禁じ得ない。(小林)

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