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2008年4月20日 (日)

公道のビデオ撮影「必要な範囲ならば適法」

強盗殺人事件の容疑者と,事件後ATMの防犯カメラに写った人物との同一性を確認するなどの目的で,この容疑者を公道上でビデオ撮影したり,パチンコ店の防犯カメラや警察官の携行するカメラで撮影したりした警察の行為について,平成20415日,これを適法とする最高裁判所の判決がだされた,という新聞報道があった。

一般の読者は,何を当たり前な,と思い,報道価値を疑うかもしれないが,この判決が報道されたのには,それなりの理由がある。

この容疑者の弁護人が引用した最高裁判所大法廷昭和44年12月24日判決(京都府学連デモ事件)は,大学で憲法を学んだ学生なら必ず触れる有名な判決である。この判決は,許可ルートをはずれて行進を始めたデモの隊列を写真撮影した警察官の行為について,「何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し,警察官が,正当な理由もないのに,個人の容ぼう等を撮影することは,憲法一三条の趣旨に反し許されない。」ものの,「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて,証拠保全の必要性および緊急性があり,その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときは,撮影される本人の同意がなく,また裁判官の令状がなくても,憲法一三条,三五条に違反しない。」という判断を行った。弁護人は,この判決に基づき,「現に犯罪が行われたわけでも,その直後でもないのに,犯罪の被疑者であるという理由でビデオ撮影することは,この判例の規準に反し,許されない」と主張したわけである。

この主張に対して判決は,昭和44年の最高裁大法廷判決は,「警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われまたは行われた後間がないと認められる場合のほかはゆるされないという趣旨まで判示したものではない」として,弁護人の主張をあっさりと退けた。

この部分は確かに判決の言うとおりであろう。昭和44年の最高裁大法廷判決は,「○○の場合には,適法」と判断しているだけで,「○○以外の場合は違法」とか,「○○の場合に限り適法」とか判断しているわけではない。しかし,だからと言って,この大法廷判決が,公道において許される写真撮影の範囲について,何の影響力もないかといえば,そんなことはない。では,どの範囲に,この大法廷判決の影響力は及ぶのか。この問題を,法律家はしばしば「判例の射程距離」という業界用語を使って論じる。

今回の最高裁判決も,直接的には昭和44年の最高裁大法廷判決の問題ではないとしつつ,それでは余りに素っ気ないと考えたのか,本件ビデオ撮影の適法性如何について,一定の判断を行っている。

それはすなわち,①被撮影者が犯人と疑われる合理的な理由が存在し,かつ,その被撮影者を特定する必要があり,しかも,その目的に必要な限度における撮影であること,②公道やパチンコ店は,「通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所」であること,の2点に照らし,問題となったビデオ撮影は,捜査活動のため適法なものであるとした。

この判断のうち,①については異論はない。しかし,②については,やや説明が弱いと思う。なぜなら,「見て観察する」ことと,「撮影して記録する」こととは,プライバシー権侵害の程度に重大な差異があるからだ。だから,「他人に見られても仕方ない場所です」と言っても,「他人に撮影されても仕方ない場所です」とは言えないし,まして,あらかじめ設置された防犯カメラならまだしも,警察官の携行する隠しカメラによって撮影されることが「仕方ない」とはいえない。

また,今回問題となった捜査手法は,現在普通に用いられていると思われるが,近い将来,容疑者を探し出すために,駅や幹線道路に警察がビデオカメラを設置し,通行人を洗いざらい撮影する,という捜査手法が用いられることになる。このとき,今回の判決の規準が意義を持ちうるのか。すなわち,不当な捜査の行き過ぎを抑制する効果を持ちうるのか,という問いかけに対しても,この判決は弱いと思う。本件において,問題となったビデオ撮影が結論として適法になることについて異論はないが,もう少し突き詰めた理由を示してほしかったと思う。(小林)

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