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2008年4月28日 (月)

電子監視について

韓国の憲法制定60周年を記念する「法律の日」では,性犯罪者の足首に装着し、全地球測位システム(GPS)によってその行動を監視する「電子足輪」の装着実験が行われたとのことである。参加者たちは「軽い」(電子足輪の重さは150グラム)、「不思議だ」(電子足輪を外して1メートル以上離れれば警報音が鳴る)といった感想を連発した。法務部の関係者は電子足輪の効果について、「米ニュージャージー州で性犯罪者225人に着用させたところ、再犯者は一人だけとなった」と説明した(以上,朝鮮日報より)。

このシステムを,日本では「電子監視」という。電子監視は,欧米では導入が進んでいる。仮釈放中のパリス・ヒルトン嬢はGPS付き足輪をつけさせられたそうだし,「ディスタービア」という映画では,自宅謹慎処分を受け,電子監視によって自宅から一歩も出られなくなった高校生が主人公である。

日本では,法務省が,仮釈放中の受刑者に対する電子監視の実施を検討中だ。また,性犯罪者等の再犯を予防するために,一定の前科者については,電子監視を実施するべし,という意見もある。たとえば,平成1937日の参議院予算委員会で,自由民主党の坂本由紀子議員が電子監視導入賛成の立場から質問を行ったのに対して,長瀬法務大臣は,「プライバシー等を制約する度合いが高いし,かえって社会復帰を阻害するのではないか,などの慎重意見が多い」としながらも,「諸外国の例も参考にしながら引き続き慎重に検討してまいりたい」と答弁した。

法律的には,仮釈放中の電子監視と,受刑後の電子監視は全く意味が異なる。仮釈放中の受刑者は,本来「塀の中」に入れられても文句が言えないわけだから,自宅に帰される代わりに電子監視を受けても,人権侵害とはいえない。生活や更生をサポートする身寄りがいるなら,社会復帰の手助けになるかもしれない。これに対して,受刑後の再犯防止を目的とする電子監視は,一般市民と平等に保障されている自由を,特定犯罪の前科がある,という理由で制限するのだから,憲法が保障する基本的人権の侵害や平等原則の違反にならないか,という問題が発生する。これに対して,性犯罪者の再犯を防止し,子どもや女性の安全を重視する立場からは,受刑後の再犯防止を目的とする電子監視の導入が要求されているわけだ。

電子監視は,犯罪者の監視だけが目的となるわけではない。例えば,痴呆老人の徘徊防止策としても,検討に値する。もっとも,痴呆老人の中には,足輪や腕輪を掻きむしって取り外そうとする人もいるから,そういう人に対しては,発信器の体内埋め込みも検討されるだろう。「電子首輪」であると,単純に反対する意見もあろう。しかし,「電子首輪」でも,現実に首輪をされたり足かせをされている介護老人を救えるかもしれないのだ。また,電子監視は,子どもの安心安全システムや,従業員の行動監視のためにも用いられるかもしれない。

いうまでもなく,これらのシステムを導入するためには,プライバシー権をはじめとする権利との調整が不可欠である。そして,プライバシー権をどのレベルで保証するかという判断規準は,各国それぞれ相当違う。だから,法務大臣には,諸外国の制度を検討することも必要だが,我が国の人権感覚も検討していただく必要がある。

余談になるが,冒頭に紹介した韓国の「法律の日」の記念式典では,「歌手のユン・ヒョンジュが『守れば守るほど気分爽快』という、法令遵守のテーマソングを発表した」そうだ。プライバシー権の感覚もそうだが,このようなテーマソングを堂々と発表するあたり,お隣の国なのに,感覚が相当違うと実感させられる。(小林)

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