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2008年4月30日 (水)

日弁連はなぜ負けたのか? 法科大学院構想編(5)

1997年(平成9年)1028日,日弁連は,翌年からの司法試験合格者数年1000人,その後1500人の検討を開始することを認めた。これは,法務省・最高裁の意見をほぼ丸飲みした形であり,当時の政府見解に照らしても,人数としては上限を打った形になっている。そのためか,1997年末の日弁連執行部は,当面の戦場を「1000人と1500人の間」と見定めていた節がある。岩井重一弁護士は,「自由と正義」19981月号「司法試験・法曹養成制度改革の経緯と概要」で,「2003年に三者協が再開されるまで手を拱いていることは決して許されるものではなく」と述べ,1500人を巡る攻防が2003年に開始されると予想している。現実には「20031500人」どころか,「20003000人」なのだから,この予想は大ハズレだが,当時,「三者協議に関する合同会議事務局長」という最前線にあった岩井重一弁護士にしてこの程度であるから,あとは推して知るべしであろう。しかし,その時すでに,政府与党内では,「数千人」を念頭に置いた制度設計が始まろうとしていた。

ここで,当時,日弁連がどのような戦術を用いて法曹人口増員論に抵抗してきたかを見てみよう。

1994年ころ,日弁連が法曹人口大幅増に反対する理由の第1は,「弁護士の経済的独立性の確保」であった。たとえば,日弁連法曹養成問題委員会が作成した「法曹人口問題に関する意見書」(199412月号)は,弁護士増員の可否について,「弁護士の使命を果たすための会務活動はもとより,プロボノと言われる活動など対価の伴わない弁護士の公益的な活動は,客観的には弁護士のその他の職務で生計を維持することによって初めて成り立っている」から,「競争によって淘汰される弁護士が質の悪い弁護士とは限らず,会務や再審事件等の人権擁護活動にエネルギーを注ぐ弁護士が淘汰される危険さえある」とある。要するに,法曹人口が増えて弁護士間の競争が激化すると,弁護士の経済的余裕が無くなり,人権擁護と社会正義の実現(弁護士法1条)という弁護士の使命が実現できなくなる,という主張だ。

しかし,この主張は,マスコミから猛烈な反発をうける。たとえば,若林誠一NHK解説委員がこう言っている。「(日弁連の臨時総会を傍聴して)一番びっくりしましたのは,法曹人口をふやすということになると日本人の人権が守れないといった議論が行われたこと(です)。それは,人口をふやすと競争がふえる。そうすると,弁護士さんが,人権擁護活動といった銭にならない仕事をしなくなって,金もうけばかりに走ってしまうから,したがって日本人の人権が守れなくなるのだ,こういった議論が堂々と行われたりしたわけですね。そのときに私も,あるいは私と同じような立場にいます新聞社の論説委員などが口をそろえて言ったのは,そんな人権だったら守ってほしくない,こういうことだったわけです。そういった思い上がった議論が行われているというようなことが確かに法曹三者の中であるというのが率直な印象であります。」

この発言は1998年(平成10年),衆議院法務委員会における参考人としての供述であって,いつの臨時総会を傍聴した際の出来事なのか不明だが,文脈上,法曹人口が問題となった日弁連臨時総会(19941997年)を指すと思われる。また,自由と正義199412月号の土屋公献日弁連会長(当時)の巻頭言に,「特権意識によってしか護れない人権ならば護って貰わなくとも結構と反発する論説委員も現に存在しています。」との下りがあり,若林氏の供述とも一致することから,若林氏が「びっくりした」という日弁連臨時総会は,1994年のものである可能性が高い。

経済的余裕が無くなれば人権活動ができなくなる,というのは,正直言って,筆者の本音でもあるが,それが,マスコミから「思い上がり」「そんな人権だったら護ってもらわなくて結構」という反応を呼ぶというのは,我々弁護士として,肝に銘じなければならないことだろう。

19941221日の日弁連臨時総会決議の後,日弁連に浴びせられたものすごいバッシングの中には,「弁護士は思い上がるな!」という声が多く含まれていたと思われる。

そこで,日弁連が法曹人口増大に反対する理由として,経済的基盤論に代わって登場するのが,「法曹としての質の維持」論であった。(小林)

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