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2008年5月23日 (金)

三浦和義氏,防犯カメラ映像流用を提訴

平成20520日の毎日新聞によると,「ロス疑惑」で現在サイパンに勾留されている三浦和義氏が,「万引きの現場」を撮影したビデオ映像をマスコミに提供などしたコンビニと,この映像を販売促進に使用した監視カメラシステム会社である株式会社ジェイエヌシーに対して,1650万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に提起した。

ロス疑惑時代も,マスコミを名誉毀損で訴えまくり,結構勝訴率の高かった三浦和義氏であるが,還暦を超えて,まだまだお元気である。それはともかく,この訴訟は法律的にどう考えるべきだろうか。

この訴訟は2社が被告になっており,それぞれ,考慮すべき点に異なるところがあるが,いずれも,個人の特定が可能な防犯カメラ画像をマスコミに提供したり,販売促進用に配ったりする行為であって,このような個人情報の第三者提供の適法性が問題となる。

まずコンビニについては,そもそも,マスコミに映像を提供したのはコンビニ自身なのか,警察なのか,という疑問がある。しかしこの点は,訴えどおり,コンビニが直接マスコミに映像を提供したものとして考える。

この事例と比較されるのは,番組改編期によくある「激撮!万引き犯を追う」といった類のテレビ番組だ。これらの番組では,かならず,現行犯人の顔にモザイクがかかっている。これと比較すると,三浦和義氏の顔にモザイクをかけないでマスコミに提供したコンビニの行為は違法となるようにも思われる。

しかし他方,この事例では,三浦和義氏逮捕の報道と一体となって,万引きの様子が上映された筈だ。そして,犯罪の軽重を問わず,逮捕された被疑者の氏名や被疑事実をマスコミが報道することは,現在の社会通念上,違法とはされていない(もっとも,本当に適法と言いきってよいかは異論がありうるが,本稿では措く)。そうだとすれば,三浦和義氏逮捕の報道と一体として当該映像が使用される限りにおいては,これを使用したマスコミにも,提供して使用させたコンビニにも,法的責任はないと考えられる。損害の発生という視点から考えてみても,三浦和義氏の名誉は,万引きにより逮捕されたという報道によって毀損されたのであり,当該映像によって毀損されたのではないと言えるし,肖像権という視点からも,映像が犯罪報道と一体として用いられる場合,犯罪行為の映像について肖像権が主張できるものなのか,かなり疑問である。この点は,アダルトビデオ店内での松本人志氏の防犯カメラ映像を公開するのとは,全く異なる。アダルトビデオ店内に入ることは,犯罪でも違法でもないからだ。

以上により,コンビニに対する三浦和義社長の訴えについては,筆者は三浦和義氏敗訴に一票を投じる。

但し,将来の同種事件に関しては,留保を付けておきたい。というのは,裁判員制度が実施された後には,別の考慮がありうるからだ。犯罪の場面や,被疑者被告人の映像を報道することは,裁判員裁判の公正に不当な影響を与えるから許されなくなる,という主張は,マスコミの立場からは受け入れがたいだろうが,十分考慮に値すると思う。

次に,監視カメラシステム会社についてはどうか。こちらは,自社製品の販売促進目的で,三浦和義氏の「犯行場面」の映像をDVDにして配布したり,自社ホームページに掲載したりしたとのことだ。

コンビニの例と比較した場合,コンビニがマスコミに映像を提供した行為は,公益目的と言えないことはないが,販促用に映像を配布する行為は,明らかに私的な営利目的であって公益目的ではない。いかに犯罪行為であっても,それを営利目的に使用してよい,ということにはならないと考える。販促のためなら,モザイクをかけた映像で十分だからだ。システム会社は,「正義の灯火は絶やすわけにはいかないので徹底的に争う」とコメントしたそうだが,これは論点のすり替えだろう。

このように考えることも可能だ。監視カメラシステム会社は,多数の万引き犯映像があるはずなのに,なぜ,三浦和義氏の「犯行現場」の映像をモザイク無しで犯則に使用したのか。それは明らかに,「あの有名人の万引き現場を撮影したのは当社のシステムです!」と宣伝するためだろう。つまり,この会社は,三浦和義氏の知名度を無断で自らの営利活動に利用したわけである。したがって三浦和義氏には,この販促活動によって監視カメラシステム会社の得た利益の分け前にあずかる権利がある。これはパブリシティ権の考え方だ。

以上により,監視システム会社に対する訴えについては,三浦和義氏勝訴に一票である。(小林)

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