« ガシャポン誤飲 製造物責任 | トップページ | 三浦和義氏,防犯カメラ映像流用を提訴 »

2008年5月22日 (木)

法科大学院志願者減少

文部科学省は,平成20519日,法科大学院入学者選抜実施状況の概要を発表した。報道によると,法科大学院の入学志願者・入学者とも,4年連続して,前年を下回った。また,定員割れ校は10校増えて,全74校中46校に達した。社会人入学者の減少も著しい。

このニュースにコメントする弁護士は多いだろう。一つの意見を紹介すると,坂野真一弁護士は,「法律家を目指す方が減少し、優秀な方を法曹界に導くことが難しくなってきた傾向が顕著に表れ始めた」として,法科大学院の認可が多すぎたことやその運用を厳しく批判している。

筆者も坂野弁護士の見解に結論として反対はしないが,今回のニュースから上記結論を導いてはいけないと思う。論理的に飛躍がある。

法科大学院の入学志願者が減少している,という事実から導けるのは,「法科大学院制度開始後の法曹志望者が減った」という結論でしかない。もちろん,その分法曹の魅力が減った,という見方もできるが,それも,新制度開始後の相対評価でしかない。

法科大学院制度の導入によって,一時的に法曹の魅力が増したが,年を経るにつれその熱気が薄れ,落ち着いてきた,という見方だってできる。法科大学院制度導入時に比べて,相対的に法曹の魅力は減ったが,それでも,旧制度よりは上だ,という見方だって可能だ。可能だけれども,これらの見方も,坂野弁護士の見解と同様の論理飛躍がある。つまり,このニュースだけからでは,さまざまな見方が可能であり,かつ,どの見方にも説得力がない。新旧制度の比較ができないのである。問題はここにある。

もし,このニュースに基づいて,新旧制度における「法曹の魅力」が比較できる客観的な資料を作成しようと思うなら,新旧司法試験制度(法科大学院入試制度を含む)を実数で比較しないと駄目である。ところが,この実数の算出がとても難しい。

このニュースによれば,法科大学院の志願者総数は4万人弱であり,法科大学院入学のための競争率は平均6.8倍だ。しかし調べてみると,司法試験合格率が5割を超える上位校の競争率は10倍以上ある。大雑把に計算すると,法科大学院上位校の競争率10倍,司法試験競争率2倍の積として,総合競争率は20倍,合格率5パーセントという数字を一応出すことが可能だ。

一方筆者が受験していたころの旧司法試験は,択一式試験の出願者数25000人,最終合格者数500人として合格率2パーセントとなる。1500人の時代に引き直せば合格率6パーセントとなり,法科大学院制度導入後の合格率と大差ない。

しかしこの計算は,実は,次の数点において,とてもいい加減な要素を含んでおり,一概に比較することができない。

まず,法科大学院の志願者総数は4万人弱と述べたが,これは延べ数であり,実数ではない。つまり,滑り止めに数校をかけもち受験している人が相当数いる。だから,法科大学院上位校の競争率を10倍と書いたが,上位校3校を掛け持ち受験している受験生から見れば,実競争率は3.3倍でしかない。3校のどれかに入れば,司法試験合格率(5割)は変わらないから,この計算で行くと,競争率は3.3×26.6倍(合格率にして15パーセント)となる。

他方,旧試験の場合,掛け持ち受験はありえないから,受験生総数25000人は実数である。しかし,新制度と比較するには,最低次の2点を考慮しないといけない。第1点は,この25000人には,ハナから受かる実力も考えもない人が相当数含まれているという点である。具体的には,法学部の卒業記念で受験する人と,何年受験しても択一にさえ受からない人である。筆者の実感として,このような人はとても沢山いた。東北大学法学部1学年270人のうち,4分の1は「卒業記念」で司法試験を受けていたように思う。もちろん,新制度上でも遊びで法科大学院を受験する人はいるのかもしれないが,受験料が高いので,その数は旧制度よりずっと少ないだろう。第2点は,旧試験の場合,滞留人数が新試験より相当多い,という点である。つまり,この25000人には,2年目,3年目はおろか,7年目,8年目もかなり含まれていた(しかも,これら「歴戦の強者」の中に,いつ受かってもおかしくない実力者が相当数いた)が,法科大学院生の7割以上を占める学生からの入学者の場合,2年目はいても3年目以上は事実上いない。新試験の場合,相応の実力者でも,最大2回受験に失敗すれば,競争から完全に脱落する仕組みになっている。その意味で,旧試験の受験者から3年目以上の滞留者を除かないと,新制度と比較することができないし,旧制度の受験者から滞留者を除外すると,旧試験上でも合格率は飛躍的に増加すると思われる。

以上を要するに,もし,旧試験の時代と新試験の時代とで,法曹の魅力が増えたのか減ったのかを,志願者数の推移から比較しようとするならば,旧試験では志願者数に「遊び受験」と「滞留」の要素を加味して修正を加えることと,新試験では法科大学院受験生の延べ数ではなく実数を調べることが必要となる。

正直言って,このような作業が実際に可能であるとは思われない。そうすると,新旧制度の優劣を,志願者数の推移から判断することは不可能となる。

しつこく繰り返すが,筆者は,結論としては,坂野弁護士の見解は間違っていない,と「直感的に」は思う。しかし,坂野弁護士の見解は「論理的」ではない。だから,これでは,同じ直感を持つ人の同意は得られても,立場の違う人を説得することができない。

法曹人口の問題は,とても急を要する問題である。でも,急ぐからこそ慎重に検討するべき問題でもある。急いで,慎重に。これは,とても難しい。(小林)

|

« ガシャポン誤飲 製造物責任 | トップページ | 三浦和義氏,防犯カメラ映像流用を提訴 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/192469/41284827

この記事へのトラックバック一覧です: 法科大学院志願者減少:

« ガシャポン誤飲 製造物責任 | トップページ | 三浦和義氏,防犯カメラ映像流用を提訴 »