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2008年5月20日 (火)

日弁連はなぜ負けたのか? 法科大学院構想編(11)

日弁連が1998年(平成10年)からの司法試験合格者1000人と,その後1500人へ向けての検討を受け入れた199711月,自由民主党司法制度改革特別調査会において,ロースクール制度導入の検討が開始された。これは一見,1000人~1500人時代を前提にした法曹養成の問題のように見える。しかし,少し計算すれば分かることであるが,1500人を前提にする限り,ロースクール制度を日本に導入することは不可能である。

ロースクール構想は,合格者の高齢化や司法試験予備校の跋扈を弊害と考え,ロースクールで真面目に勉強すれば司法試験に合格する合格率,具体的には7~8割を想定していた。そこで,試験1回あたりの合格率7割,受験回数制限3回で,司法試験合格者数を年1500人と想定すると,ロースクール生の総定員数は1学年約1550人となる。これを各ロースクールに割り振るわけだが,平均100人とすれば16校,平均80人とすれば20校のロースクールが誕生する計算である。

しかし,各校平等80人~100人定員制は,現実問題としては成り立ち得ない。その理由は簡単で,東大,早稲田,中央,京大,慶應といった司法試験有力校が,そんな少数の定員には応じないからだ。これを証明するために,これら5校の1990年から1995年までの司法試験合格者数実績を,合格者数1500人に引き直してみると,次のとおりとなる。

東大   324人(304人)【300人】

早稲田  217人(223人)【300人】

京大   180人(211人)【200人】

慶應   145人(271人)【260人】

中央   139人(292人)【290人】

上記のうち,()内は平成19年度(合格者数合計1851人)の各大学法科大学院生(既習・未習合計)の出願者数であり,【】内は平成18年度の各大学法科大学院の定員数である。

東大の立場で言えば,「1997年(総合格者数746人)の東大の合格者が188人だから,総合格者数が倍になるなら,東大の合格者数も倍になる理屈である。だから,東大法科大学院の定員は最低でも300人は欲しい。」ということになる。司法試験合格者数は,法学部の格付の問題だから,東大の立場としては当然の要求だ。現に,総合格者数1851人の平成19年度における法科大学院生受験者数は304人,平成18年度の定員数は300人となっており,筆者の推論を裏付けている。

もちろん,これはとても単純な計算であり,少なくとも,次の2点を増減要素として考慮しなければならない。増加要素としては,総合格者数を750人から1500人に倍増した場合,東大出身の合格者数は倍増以上になるはずだ,という点がある。なぜなら,東大生の偏差値が高いからである。他方,減少要素としては,いかに東大が格付にこだわったとしても,法学部の定員数が415人であり,その全員が司法試験を受けるわけでは無かろうから(東大である以上国家公務員上級試験や外交官試験もある),余りに大人数の定員は欲しないだろう,という点が指摘できる。但しこの点は,法学部生の多い私立大学では,増加要素として作用する。いずれにしろ,東大としては法科大学院定員数300人を要求するであろうことは,容易に計算できることである。

同じ計算を上記の司法試験合格者数上位5校に当てはめてみると,この5校だけで,法科大学院生数の定員は1100名に達する。従って,下位校に配分できる法科大学院生数は合計450名しかない。しかも,一橋,大阪,東北,九州,名古屋,大阪市立,明治,関西,上智といった,「上位十校の常連」レベルの大学は,合格者総数1500人に引き直した場合,国立に50人,私立に100人を割り付けると,ロースクール生総定員数は2200人を超えるのだ。まして,これに北海道,金沢,横浜,首都大学東京,学習院,青山,日本,東海,立教,同志社,関西学院,などといった比較的有力な大学に30人ずつ定員を認めると,総定員数は2500人に達する。もちろんこれはとても控えめな試算である。これらのうち,500名以上の法学部学生を抱える私立大学が,定員30名で納得する筈はないのだが。

このように,ごく簡単で,しかも,とても控えめな計算をしただけで,東大,早稲田,中央,京都,慶應といった有力校が各200300人の定員を要求すること,その結果,合格者総数1500人を維持できなくなることは明白になる。逆に言うと,合格者総数1500人を前提にする限り,ロースクールは10校程度しか開校できない。

筆者にとってとても不思議なのは,なぜ日弁連が,当時,このような計算を試みなかったのか,ということだ。東大出身の弁護士だったら,母校がロースクールの定員80名で納得するはずがなく,最低300人を要求することは,容易に想像できたはずである。そうなれば,下位校にしわ寄せが行き,20校に1550人を配分するという制度設計が行き詰まることは簡単に分かったはずなのだ。

それでは,1500人では全然足りないとして,何人ならば,ロースクール制度の導入が可能になるのか。一つの参考として,早稲田大学のロースクール構想を見てみると,「短期的に見て10002000名の司法試験合格者を想定した議論と長期的に見て20003000名の合格者を想定した議論が必要であろう。」としている。この構想は2000年(平成12年)123日に公表されたものであるが,ロースクールの経営と国庫補助を第一に考える大学側からみれば,総定員数と自分の大学の定員数が最大関心事であったことは想像に難くない。法科大学院を運営する大学側から見れば,司法試験合格者数年3000人というのが,当面の目標であったことが窺える。

このように,大学にとっては,ロースクール構想と法曹人口問題は,当然のように結びつけて考えられていた。

しかし,翻って弁護士を見てみると,筆者の知る限り,1998年当時,ロースクール制度導入の是非を検討するに当たって,これが合格者数年1500人をはるかに超える法曹人口大幅増をもたらすかもしれない,という事実を指摘した弁護士は,主流派,反主流派を問わず,誰一人いない。とても不思議である。

1998年中に,そのような指摘をした弁護士がいたら教えてください。(小林)

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