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2008年5月27日 (火)

ヤクルト本社に対する高裁判決の勝者は?

ヤクルト本社が平成5年から平成10年間での間に,投機性の高いデリバティブ取引によって533億円以上の損失を被った事件に関し,株主らが担当取締役もと副社長及び他の取締役と監査役を相手に起こした株主代表訴訟の高裁判決が,平成20521日,東京高等裁判所においてなされた。

マスコミは主に,「高裁も元副社長に67億円賠償命令」(讀賣),「2審も元副社長に賠償命令」(MSN産経ニュース),「二審もヤクルト元副社長に67億円命令」(TBS)という見出しで報道しているが,これは司法記者の不勉強によるミスリーディングと言うべきだろう。巨額の賠償金額を正面に出して読者の耳目を引こうとする浅はかなテクニックである。二審判決では,元副社長が負けたのではない。原告だった株主が負けたのだ。見出しは,「高裁も取締役の監督責任を否定」などとするのが正しい。

この裁判の経緯を振り返ってみると,平成1086日,ヤクルト現・前役員計6人に対して株主代表訴訟が提起されたのが始まりのようである。その後,どういう経緯か分からないが,他の取締役・監査役も被告に加えられ,40人以上が被告になった。このうち,39人の取締役と監査役については,裁判が分離され,平成13118日,これら39人の責任を否定する判決が出される。原告の株主らは控訴したが,東京高等裁判所は平成14215日,控訴を棄却した。要するに,これら39人については全然責任のないグループ,と裁判所が判断して,早めに裁判を終わらせたわけだ。

残りの取締役8人について,東京地方裁判所は平成161216日,元副社長にのみ67億円の損害賠償責任を認め,他の取締役の責任を否定した。これを不服として,原告の株主らが控訴したのが,冒頭の東京高裁判決である。

元副社長側が控訴したかは報道上不明だが,結果として一審判決と同じ金額が認められたに過ぎないから,少なくとも,一審以上の敗訴ではない。他方,原告株主の主目的は,他の取締役の責任を認めて貰うことにあったのだから,これを否定した東京高裁の判決は,明らかに原告(控訴人)株主の敗訴なのである。

ところで,一審判決が元副社長以外の取締役の監督責任を否定した理由のポイントは次のとおりである。デリバティブ取引はリスクの高い有価証券取引であり,会社は本来必要なリスク管理体制を採るべきであるが,デリバティブ取引については,損失発生当時,金融機関でさえ完備されたリスク管理体制が構築されていなかった事情を踏まえ,事業会社でしかなかったヤクルトが当時構築していた,結果的に不十分なリスク管理体制でも,当時の水準に照らす限りは相当なものであり,これをかいくぐった元副社長の取引を探知できなかったとしても,他の取締役の監督責任は問われない,とした点にある。(小林)

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