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2008年6月 3日 (火)

久保利英明弁護士は,誰の代理人か

平成20年6月2日の日本経済新聞「法務インサイド」に,「法曹人口拡大を問う」と題して,鳩山法務大臣と久保利英明弁護士との対談が掲載された。

文意がやや分かりにくいのは,担当記者の文章力もあろうが,発言者の立場が不明確であることも原因のような気がする。

まず鳩山法務大臣だが,同大臣は当然,法務省の立場を代表している。そして,法務省の立場を一言で言うと,「文科省と日弁連が司法改革を駄目にした」というものだ。法務省にしてみれば,1997年(平成9年)までは法務省と最高裁と日弁連の法曹三者で,「ドラえもん」の男の子達のように仲良く喧嘩して(日弁連はもちろんのび太ですね),司法界を牛耳っていたのに,日弁連が突如文科省と結託し,法科大学院制度を創設した。文科省が教育改革問題で成功したことなど無いのに,日弁連は文科省の口車に乗せられた大馬鹿者で,案の定,法科大学院はこの体たらく,ということになる。このような観点から,記事の鳩山大臣の発言を注意深く読むと,人口問題というより,法科大学院教育の問題性を指摘していることが分かる。法務大臣が,「弁護士の質の高さは絶対に守りたい」と発言することには,とても大きな政治的含意がある。この発言を聞いた誰が「ムカッ」とするかを想像してみれば,それは明らかだ。

やや分かりにくいのは,久保利英明弁護士の立場だ。記事には,同弁護士はもと第二東京弁護士会会長であり,大宮法科大学院大学の創設に参画とある。同大学は,第二東京弁護士会と学校法人佐藤栄学園が提携して2004年(平成14年)に開学。佐藤栄学園理事長の佐藤栄太郎氏は埼玉県を中心に11の学校を運営する立志伝中の人物のようだが,被害者の会なるサイトもある。その佐藤栄太郎氏が,設立当初,「日本一の合格率を目指す」(2004年1月26日朝日新聞)と豪語した大宮法科大学院大学だが,2007年(平成19年)度司法試験合格者数は,出願者数62名に対して最終合格者数6名。合格率1割を切り,全国最低レベルである。しかも,「学力偏重は駄目」という佐藤理事長の言葉(上記朝日新聞)にもかかわらず,平成19年6月29日の各紙では,司法試験考査委員を兼ねる大宮法科大学院大学の弁護士兼教授が,自ら出題・採点した司法試験問題材料に演習し,採点基準を生徒に配布したと報じられ,慶應大学の入試問題漏洩疑惑事件と並び,「法科大学院の受験予備校化」として世間の非難を浴びた。法曹人口増の論客の一人であった宮澤節生教授も早稲田大学に移籍してしまった。平成20年の法科大学院志願者減少は,46大学に定員割れを生じたと報じられたが,大宮法科大学院大学は,間違いなく定員割れをした法科大学院の筆頭だろう。

このあたりを書き出すとキリがないから結論を急ごう。要するに大宮法科大学院大学は,司法試験合格者数の見直しが行われれば,真っ先に潰れる大学である。そして久保利英明弁護士は,大宮法科大学院大学の立場を代理しているのだ。久保利英明弁護士の発言は,少なくとも3000人の合格者を確保し,大宮法科大学院の延命を図るためのものと考えれば理解しやすい。「法曹人口5~6万人では足りない」「そのために法科大学院を作った」「法曹の質を高めるため,法科大学院では法曹倫理を教えている」という久保利弁護士に発言は,いずれも,大宮法科大学院の代理人としての弁論と考えれば,素直に理解できる。もちろん,理解することと賛同することは別問題だが。

筆者がこのようなことを久保利弁護士に直接申し上げたら,久保利弁護士は色をなして反論されるだろう。しかし,「大宮法科大学院大学の創設者」という歴史的事実は,一生,久保利弁護士に付いて離れることはない。

ところで,世間から見ると,「口八丁で黒を白と言いくるめる」と思われている我々弁護士だが,弁護士にだって,守らなければならないいくつかの約束がある。その代表は,「誰の利益のために行動しているかを明らかにする」というルールだ。また,「誰の味方かを誤解されるような紛争には関わらない」というルールもある。

久保利弁護士は,弁護士である以上,自分が大宮法科大学院大学の利益のために行動していることを,どの記事においても明確にするべきである。もしそうでないと言うなら,誤解を受けやすい自らの立場に鑑みて,法曹人口問題や法科大学院問題についての発言を控えるべきである。久保利弁護士は大変お忙しい身であり,日本を代表する法律実務家の一人であって,国家社会のために,ほかにして頂くべきことは沢山あるのだ。(小林)

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