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2008年6月 9日 (月)

法曹人口増反対決議を行うことの無責任さ

現在,大阪弁護士会として,法曹人口増の反対決議を行う動きがある。急激な法曹人口増による過当競争は,弁護士の質の低下をもたらすとともに経済的基盤を揺るがし,社会正義と人権の擁護という弁護士の社会的使命を果たせなくなるというのがその理由だ。推進者は,会員弁護士の総意ならやるべきだ,と血気盛んだが,筆者は,これはとても無責任な決議だと思う。

だからといって,本稿では「そんなことをしたら司法改革が頓挫する」などというおエライさん的な筋論を言うつもりはない。法曹人口増の反対決議は,別の意味で,とても無責任である。

無責任であることを,証明してみよう。

法曹人口増反対決議の最大の問題点は,決議したからといって翌年の司法試験合格者が減るわけではない,という点だ。つまり,弁護士会に司法試験合格者数を決定する権限がないので,この決議をしても効果がないのである。

推進者も,もちろんこれは分かっている。だからといって声を上げないのでは何も解決しない,現に過当競争にさらされ,弁護士の経済的基盤が脅かされているのだ。単位会から声を上げ,全国的に結集して,法曹人口増員反対に向けた大きなうねりを作り出そう!というのが彼らの主張である。増員反対は弁護士エゴとの批判があるが,弁護士が過当競争を免れて経済的基盤と質を確保し,ボランティアの公益活動と人権活動に打ち込む余裕ができるのだから,結果的には市民の利益になるという。

なるほど,とても美しい主張だ。

しかし,この主張が支持されるためには,これより優れた別の選択肢が存在しないことが前提だ。効果がある選択肢と,効果が無い選択肢とがある場合に,わざわざ効果が無い選択肢を選んでおいて,美しい主張を唱えても,それは茶番である。そこで問題は,法曹人口増反対決議より効果のある別の選択肢は無いのか?ということになる。

実は,あるのだ。それは要するに,新人弁護士の登録に対して,参入障壁を作ればよいのである。

具体的方法は色々あろう。数年間は新規登録を一切認めないという方法もあるし,登録料を一挙に10倍にする方法もある(登録料を出すのは裕福な勤務先事務所だから,この金を恵まれない弁護士に還元することで,弁護士の経済基盤を確保することができる)。こういったやり方が過激すぎるというのであれば,登録申請者には法科大学院と司法試験の成績を提出させ,一定以上の成績を収めたものでなければ登録を認めない,としてもよい(これなら質の維持が可能だ)。ほかにもやり方があろう。大事なことは,法曹人口増を抑制する効果のある,別の選択肢が存在する,ということだ。

この方法を導入すれば,過当競争が回避でき,弁護士の質と経済基盤が確保され,人権活動への障害も無くなる。さらに,新規登録を断られた新人弁護士が弁護士過疎地に行けば,過疎解消にも役立つ。効果があるうえ,一挙両得の素晴らしいアイデアである。難点といえば,大阪限りということだけだ。これは,大阪弁護士会の決議である以上,やむをえない。そこで,大阪を皮切りに,全国の弁護士会で参入障壁を作ればよい。最終的には全国レベルの大きなうねりを作り出し,法曹人口増の阻止が実現できる。

参入障壁なんか作ったら,それこそ弁護士のエゴだと言われないか?との批判がありうる。この批判に対しては,法曹人口増反対決議推進者の主張を,そっくりそのまま申し上げて反論としたい。参入障壁を作られて困るのは,登録を希望した新人と,これを採用しようとする裕福な法律事務所だけである。弁護士の質が維持され,経済的基盤の確立された既存の弁護士が公益活動と人権擁護に一生懸命働くのだから,大阪府民はちっとも困らない。だから,新人弁護士の参入障壁を作るのは,弁護士のエゴでは全然無い。

そんなに急いでやらなくても,という批判に対しても,法曹人口増反対決議推進者の主張をそのままお返しする。若い弁護士は,いま,経済的に困っているのだ。何年たったら実現するか分からない法曹人口増反対決議をしている暇など無いはずである。

だから,効果が無くて悠長な法曹人口増反対決議は,とても無責任である。

いくらなんでもそんな過激な,冗談でしょう,って?どうだろう。(小林)

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コメント

強制加入団体でそのような参入規制をすれば100%違憲と思いますが。それを承知で書かれているのかもしれませんが・・・
まだ登録していない私の個人的立場で言うと、登録に際して1000万円の保証金を積み立てることを義務としても一向に構いませんけども。。。

投稿: | 2008年8月 2日 (土) 13時49分

これ、独禁法違反ですよ。事業者団体による事業者の数の制限にあたります。日弁連は広告規制と報酬規制で二度公取委に裁かれたのに、まだこんなこと考えておられるんですね。

そろそろ米国型の、特にニューヨーク州のように弁護士会任意加入の州のような制度を導入する時期に来ているようですね。

投稿: nami | 2009年11月23日 (月) 17時11分

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