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2008年6月24日 (火)

電子タグを利用した個人の位置情報等提供サービスの運用に関するガイドライン(3)

このガイドラインの要点となる3本柱の第二は,電子タグなどのユビキタス技術によって取得され流通するヒトの情報と権利との関係である。本ガイドラインでは,この部分に関する条文が最も多くなっている。しかし,内容としては,プライバシー情報や個人情報の流通に関する法令やガイドラインを集約したものであって,これらの法令やガイドラインに比べて,特に目新しい点があるわけではない。要するに,電子タグなどのユビキタス技術によって取得された情報は,その本人が予め承諾した範囲と,これに準じる合理的な範囲についてだけ,流通することが許されるし,事業者は,本人の予測を不当に裏切らないよう配慮しなければならない,ということが書いてある。

内容としては,次の3点に集約できると思う。第1点は,セキュリティである。電子タグに搭載できる情報量は近年飛躍的に増大しつつあるが,ヒトに装着する電子タグの場合,個人情報やプライバシー情報そのものを電子タグに記録することは,原則として許されない。電子タグには基本的に,装着されるヒトのIDのみが記録されており,このIDがサーバーに送信されることにより,サーバーに保存された個人情報やプライバシー情報が呼び出されるようにならなければいけない。また,記録されるIDそれ自体も暗号化される必要があるし,暗号化されるべき程度は,そのヒトの属性(例えば,○○小学校の生徒であるとか,○○百貨店の顧客会員であるとか)が分かる程度では足りない。将来的には,IDをシャッフルしてランダムに発行する第三者機関が必要になるかもしれない。

第2点としては,個人情報の抽象化である。「男性」「45歳」という情報は筆者の個人情報であり,筆者の意思に反して流通させることは許されないが,他方,これらの情報と筆者との結びつきを完全に断ってしまえば,もはや筆者の情報ではなく,統計情報として,自由な流通が許されるようになる。実は,ユビキタスネットワークの事業主も,個人情報そのものが欲しいわけではなく,統計情報が欲しいだけの場合も多い。そして,統計情報の自由流通を認めることは,マーケティングその他の領域において,莫大な経済効果をもたらす。そこで,情報と本人の関係を完全に断絶した統計情報については,本人の意思と関係なく自由な流通が認められると規定してある。

第3点としては,ネットワーク監視カメラの取得する本人の情報を「位置情報」「行為情報」と特定したことである。監視カメラの取得する情報の法的性質については,肖像権の問題と考えるのが一般的であるが,これは誤りであり,監視カメラの取得する情報の本質は「位置情報」と「行為情報」,つまり「いつ,どこで,誰が,何をしたか」である。そして,位置情報と行為情報を取得するという意味では,監視カメラと電子タグとの間に差異はない。そこで,監視カメラの取得した情報についても,電子タグシステムが取得した情報と同様の流通制限に服することが規定してある。

このガイドラインの要点となる3本柱の最後は,システム運用に対する社会の信頼を得るための方策である。

ユビキタスネットワークシステムが,社会に受け入れるためには,それが正当に運営されているという社会の信頼が不可欠である。従来これを担ってきたのは司法手続による事後救済であるが,ユビキタスネットワークシステムによるプライバシー権侵害の場合,本人が権利侵害に気づかない場合も多く,また,一つ一つの権利侵害は僅少であって,司法による事後救済になじまない場合も多い。そこで,本ガイドラインは,事業目的の公開や責任者と連絡先の明示,苦情処理システムの構築などの内部統制システムの構築を義務づけることを通じ,社会の信頼を確保しようとしている。

将来的には,第三者認証機関を設け,その認証を受けた事業者は,国民のプライバシー権に十分配慮したユビキタスネットワークシステムの運用を行っているとの信頼が付与される,というような仕組みが検討されなければならないと思う。(小林)

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