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2008年6月 4日 (水)

エレベーター圧死事故 シンドラー社は立件されず?

平成20年6月2日の産経webによると,3日で事故から2年を迎える港区エレベーター圧死事故で,警視庁は,管理体制の不備が事故原因であるとして,保守管理業者の立件に向けた詰めの捜査をしている一方,製品の欠陥性は薄いとして,シンドラー社の立件は見送る方針であるという。記事によると,事故原因はブレーキパッドの摩耗であり,事故直前に点検をしながら摩耗を発見できなかった管理業者の責任しか51496ca8_2問えないとのことである。

この報道が事実であるとすれば,事故当初の報道とはずいぶん違う話だ。事故当初からずいぶん長い間,シンドラーバッシングとでも言うべき報道だったと記憶している。当時の新聞の見出しを列挙するだけでも,「シンドラー社捜索 コメントのみで沈黙守る社長ら」(平成18年6月8日日経朝刊),「圧死事故シンドラー社エレベーター 閉じ込めなどトラブル多発」(6月8日西日本讀賣朝刊),「シンドラー社エレベーター『明らかに欠陥商品』石原都知事が批判」と,事故原因特定前から,シンドラー社のエレベーターが原因と決まったような報道ぶりである。シンドラー社の主たる取引先であった公共団体でも,入札業者の指名停止が相次いだ。記者会見や遺族への弔問にあらわれた日本法人社長の容貌が,何となくナチの残党っぽい感じであったこともあってか(失礼!),感情的な反発がとても強かったと記憶する。

事故の1ヶ月後ころから,事故原因はブレーキパッドの摩耗にあり,事故直前の点検作業で摩耗に気づかなかった管理会社に責任があるという方向に収束していくが,世論も遺族もこれを許さなかった。遺族は度々,警視庁と東京地検に対して,シンドラー社の立件を要求しており,事故後2年経ってもまだ起訴がなされていない状況にある。今日に至っても,エレベーターやエスカレーターの事故があると「またシンドラー社」と報道され,「シンドラー・エレベーター」は極めて知名度が高くなっているが,他方,事故当時の管理会社の名前は,誰も思い出せない。

この凄まじいバッシングの中で,シンドラー社は法的責任を否定し,謝罪を拒否し続けた。遺族への情報提供も,捜査中を理由に拒み続けた。2006年(平成18年)12月に日本法人社長が辞任するが,その理由も「日本社会の信頼を失った道義的責任を取る」というもので,法的責任はないとの見解を貫き通した。

この事件は,シンドラー社や報道機関や関係者に,とても重い課題を残していると思う。まずシンドラー社に関しては,結果的に法的責任がなかったとして,一切謝罪しないという対応に問題がなかったのか,問題がなかったとしても,日本で円満に商売を継続するためには謝っておいた方がよかったのではないか,という問題がある。おそらく,スイス人の経営陣には,責任の所在も明確にならないうちに謝るなどということは,考えもつかないことだったのだろう。他方日本人の感覚からすれば,法的責任の有無とは別に,事故後すぐに頭を下げていれば,これほどのバッシングは起きなかったことになる。毒入り餃子事件でも感じることだが,製品事故の当事者が国境をまたぐ場合の対応は,とても難しい。

報道機関についても,大いに問題がある。シンドラー社製エレベーターに対する批判報道の大半は,「閉じこめ」に関するものであり,「圧死」事故とは全く異なる形態であったにもかかわらず,報道機関は故意にこれを混同し,閉じこめ事故が多いなら,圧死事故にも法的責任がある,との論調で報道し続けた。しかし,シンドラー社は,「閉じこめ」は安全装置が働いた結果であるから,同社製エレベーターが安全であることの証明でこそあれ,事故ではないという対応を取り,これがさらなる反発を招いた。

また,有識者の多くは,この事故の背景にはエレベーター製造会社と保守管理業者が分離し,情報の共有が行われなくなったことにある,と訳知り顔で解説するだけであった。それはその通りかもしれないが,それだけでは同種事故の防止にはほど遠い。

経済産業省は,六本木ヒルズ森タワーの自動回転ドア事故のときは6ヶ月でガイドラインを策定したが,エレベーターの監督官庁である国土交通省は,事故後検討委員会を立ち上げたものの,その後ガイドラインを策定したとの報に接しない。

事故から2年。何かよい方に変わったことがあるのだろうか。(小林)

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