« 法曹人口増反対決議を行うことの無責任さ | トップページ | 品質管理と情報管理~不二家事件より(1) »

2008年6月11日 (水)

日弁連はなぜ負けたのか? 法科大学院構想編(16)

「法科大学院の初期設計ミスが露呈した」。20071123日の日本経済新聞はこのように論じた。曰く,「80以上もの乱立したロースクール卒業者の新司法試験合格率は最終的には二,三割とも言われ,高い授業料を払って三回しか受験資格のない学生たちは,(多彩で先進的な多くの科目を自由に履修するという法科大学院構想の理念どころか)ひたすら試験科目の勉強のみに熱中し,いまやロースクールは高級予備校化したとすら言われている」。

20076月には,慶應義塾大学法科大学院の植村栄治教授が,司法試験問題を学生に漏洩したと疑われ,司法試験考査委員を解任された。司法試験予備校は,法科大学院より格下かもしれないが,試験問題の不正入手はしていない。慶応義塾大学法科大学院は,「高級予備校と化した」どころか,低級予備校以下に堕落したというべきだろう。

法科大学院の「予備校化」と「不正行為」の背景となった「乱立」はなぜ発生したか。法科大学院側から見て最大の原因は,司法試験合格者数は年3000人にとどまらず,更に数千人規模で増加する,との見通しにあった。2002年(平成14年)7月,政府の総合規制改革会議は,司法試験合格者年3000人の早期実施と,それ以上の合格者増を中間答申している。司法試験合格者枠は,近い将来,5000人,6000人に増える,と法科大学院が予測する素地は確かに存在した。

政府与党が,関連する宗教団体の経営する大学への法科大学院設立を認めさせるために,認可基準を緩和したという,真偽不明の噂もある。

日弁連にも責任がある。日弁連の事実上の代表であった中坊公平委員は,司法制度改革審議会で,たびたび,年3000人というのはミニマムの数字であると発言している。また,2000年(平成12年)111日の臨時総会決議では,法科大学院に関し,「全国に適正配置する」ことを求めている。これは,法曹一元の理念に照らした場合,地元に密着した弁護士と,その弁護士の中から選任された裁判官が誕生する必要があるため,法科大学院を各地方都市に設立する必要が生じることによるものだ。司法試験合格率の高い大学は,大都市に集中しているから,地方都市に法科大学院を設立することは,必然的に,学生定員数の飛躍的増加(と合格率の低下)を招く。ここでも,法曹一元の理念が,法曹人口を大幅に増加させる理屈として登場している。

「法科大学院構想は日弁連とは無縁のところで進行したから関係ない」という意見を述べる弁護士もいる。しかし,上述の通り,日弁連は法科大学院構想の実現を積極的に支援し,実現させたのだから,その結果として生じた様々な問題に取り組む責任があると思う。

そして,日弁連として取り組むべき最も大きな問題は,法曹人口の大幅増員と法科大学院の設置,司法研修所における法曹教育比重の相対的低下が,それ以前の法曹と本質的に異なる法律家を生み出すのではないか,また,それにより,社会における法律家の存在意義が,それ以前と大きく変わってしまうのではないか,という点である。これはおそらく,今後の弁護士と日弁連のありかたを根本から変えることになると思う。もっとも,この点は,余りに大きな問題なので,別の機会に論じたい。

ともあれ,法科大学院構想に関して,日弁連は,この構想を通じて法曹一元を実現するという目的については敗北したが,いくつかの司法改革施策を実現させたという意味では,一定の成果を得た。しかし,そのために日弁連や個々の弁護士が払った,あるいはこれから払うことになる代償がどれだけのものになるのかは,未検証である。これは筆者の直感であるが,日弁連が積極的に支援し協力した法科大学院制度の設立は,将来,弁護士自治を相当程度失わせることになると思う。弁護士自治を失えば,弁護士会はただの業界団体になる。そうなれば,法科大学院制度を実現するために,日弁連は魂を売った,という歴史的評価を受けることになる。(小林)

以上で,「日弁連はなぜ負けたのか?法科大学院構想編」を終わります。

|

« 法曹人口増反対決議を行うことの無責任さ | トップページ | 品質管理と情報管理~不二家事件より(1) »

コメント

もっともらしいこと書いていらっしゃいますが、基本的人権の擁護と社会正義の実現の代理人数が増えたら弁護士先生方の活躍の場所も増えてよろしいのではないですか???
競争の原理にさらされるのがそんなに脅威ですか。

そもそも、法曹の質の低下が懸念されるほどの質の高さありましたか。。。
そもそも、なにをもって質と定義されているのか。。。

投稿: 法曹の担い手として | 2009年4月15日 (水) 15時57分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/192469/40838335

この記事へのトラックバック一覧です: 日弁連はなぜ負けたのか? 法科大学院構想編(16):

« 法曹人口増反対決議を行うことの無責任さ | トップページ | 品質管理と情報管理~不二家事件より(1) »