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2008年6月 5日 (木)

日弁連はなぜ負けたのか? 法科大学院構想編(15)

2000年(平成12年)11月1日の日弁連臨時総会決議の提案理由は,「国民が必要とする適正な法曹人口」を5万人と試算し,これを実現するために,司法試験合格者数は年3000人程度が必要としている。

5万人という法曹人口について,提案理由文は,諸要素を総合的に考慮した,ともっともらしい理屈を述べているが,これまで概観してきた経緯に照らせば,これが建前であったことは明白である。本音は,全国に法科大学院を設置し,その経営が成り立つ最低ラインとして,司法試験合格者数年3000人を受け入れることにあった。

ではなぜ,日弁連が全国に法科大学院を設置し,その必然的な結果として弁護士数が飛躍的に増大することを容認する選択を行ったのか。それは第1に,法曹一元を実現するためであり,第2に,いくつかの司法改革の施策を実現するためであった。

この二つの目的のうち,法曹一元構想が無惨な敗北に終わったことは既に述べた。確かに,弁護士の大幅増員は法曹一元実現の必要条件かもしれないが,弁護士が増えたからといって,法曹一元が実現するわけではない。「法曹一元を期する」と言う以上は,その手懸かりを確保しておかないといけなかったのに,中坊公平委員と当時の日弁連執行部には,この点の認識が,なぜか,ぽっかりと抜けていた。

つぎに,司法改革については,裁判員制度,被疑者国選弁護など,いくつかの施策が実現し,また実現されようとしている。これは日弁連が法科大学院構想を支持し,法曹人口大幅増員を受け入れた一つの成果といえる。問題は,これらの司法改革の施策が,法曹人口増の大幅増に見合うものであったといえるか否かであるが,法科大学院の問題を離れるので,別の機会に論じたい。

一方,日弁連が法科大学院構想を積極的に支持し,法曹人口の大幅増員を受け入れたことは,いくつかの重大な問題を日弁連に突きつけることになったと思う。

その第1は,1997年以前の日弁連の態度との断絶ぶりである。日弁連が「国民が必要とする適正な法曹人口」を5万人と認めたことは,1997年以前,司法試験合格者数年1000人にも抵抗していた日弁連が,国民の利益を考えていなかったと認めることである。これは同時に,かつて法曹人口増員論抵抗の理由として日弁連が唱えた「弁護士の経済的基盤の確保論は,既得権益にしがみついた弁護士の業界エゴでした。すいません。」と,日弁連が公式に認めたことをも意味する。

第2は,1997年,日弁連が法曹人口増を抑制する武器として用い,一定の成果を挙げた「法曹養成機関の予算的限界論」を,日弁連自らが放棄したことを意味する。私立大学はもちろん,独立行政法人となった旧国立大学が法曹養成を行う以上,予算的限界が消滅してしまったからだ。

第3は,法科大学院の設立によって,日弁連は「後戻りのできない選択」をしてしまったという点である。単に,「国民の必要とする適正な法曹人口」の試算を間違った,というだけなら,後になって「あのときの計算は間違いでした。すいません訂正します。」と言えばよい話であり,後戻りが可能である。しかし,一旦設立させた法科大学院は,容易なことでは潰すことができない。まして,法科大学院制度全体を消滅させることは,事実上不可能である。つまり,後戻りができないのである。現在,法曹人口増に反対する弁護士の中には,「弁護士に自由競争原理を導入したのだから,法科大学院にも自由競争原理を導入すべきだ。過剰な法科大学院は潰せばよい。」という勇ましい意見を言う人がいる。筆者も潰れた法科大学院の教員や従業員に同情するつもりはないが,学生についてはそうはいかない。民間英会話学校の倒産でさえ,生徒の去就が社会問題になることを想起して欲しい。教育機関の倒産によって,若者が夢を絶たれるという事態は,社会にとって大きな損失だから,法科大学院はおいそれと潰すことはできないのである。

もちろん,かつて法曹人口増に抵抗するために用いた武器を自ら放棄したからといって,日弁連執行部が,2000年当時,年3000人を超える増員を容認したわけではない。その証拠としては,建前にせよ,モデル国とされたフランスが,他の先進諸国中最も法曹人口の少ない国であったこと,司法試験合格者数年3000人という数字が,法科大学院の経営が成り立つ最低レベルであったことが挙げられる。しかし,かつて法曹人口増に抵抗するために武器を放棄した結果,2000年以降,法曹人口増に抵抗する武器は「国民が必要とする法曹の量と質を確保する」という,とても曖昧な概念のみとなってしまった。しかも,「国民が必要とする法曹の量」という概念は,実際のところ,算定不能である。したがって,今後法曹人口論を論じるとき,日弁連が武器として使えるのは,「法曹の質」という概念だけとなる。(小林)

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