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2008年7月15日 (火)

ダスキン事件を振り返る(3)

次に,問題の肉まんが全て売れてしまった後に事実を知った(とされる)11人の取締役はどうか。これらの取締役に対しても,株主代表訴訟が提起され,1審の大阪地裁(平成121222日判決)では元専務一人に5億円余の損害賠償を命じ,のこり10名の取締役については責任を否定した。これに対して2審の大阪高裁(平成18610日判決)は,11人の取締役全員に損害賠償を命じた。その金額は,2名に5億円余,9名に2億円余であった。

この11人の取締役の法的責任に関する最大のポイントは,彼らが事実を知った(とされる)時点で,既に無認可添加物が使用された肉まんは完売され,消費者の胃の中に収まっていて回収は不可能であり,かつ,当該添加物の使用は形式的には食品衛生法違反であるが実質的には危険性はなく,1300万個も販売されたのに健康被害は1件も起きていない,という点である。このような状況において,事後に事実を知った役員は,法律の観点から見た場合,どうするべきであったのだろうか。

高裁判決の認定によれば,これら11人のうち幹部二人は,事実を知った後,「事実を公表すれば消費者の非難は免れず信頼を損ねると判断し,積極的には公表しない」という方針を決定し,取締役会でこれを聞いた残りの取締役は,特に異議を唱えず黙認した。高裁判決は,この対応について,2億円ないし5億円の損害賠償責任を認めたわけである。

2006年(平成18年)828日の日本経済新聞によれば,原告株主側弁護団長の中山巌雄弁護士は,「企業が不祥事を自ら『公表する義務』を認めた画期的な判決」と評価し,記事自身,「不祥事を公表する義務」が取締役にあるとの論調である。

しかしこれはミスリードであろう。該当部分の判決文は,次のとおりである。「(事実が明らかになれば,ダスキンは消費者の信頼を失い,マスコミにたたかれ,企業存亡の危機をもたらすことは当時十分に予想されたのだから),そのような事態を回避するために,そして,現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度にとどめる方策を積極的に検討することこそが,このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが(9人の取締役は),そのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく,『自ら積極的には公表しない』などというあいまいで,成り行き任せの方針を,手続的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは,到底,『経営判断』というに値しないものというしかない。」

厳しい言い回しではあるが,この判決は,中山弁護団長が言うような「不祥事公表の義務」を認めてはいない。「不祥事を公表するか否かを含めて,対策を積極的かつ十分に検討する義務」を認めているだけである。つまり,幹部取締役の決めた方針だからと,批判的な検討を放棄することは,取締役の会社に対する善管注意義務違反であり,厳しい法的非難に値すると言っているのだ。平たく言えば,しゃんしゃん取締役会は駄目ですよ,と言っているのであり,それ自体,至極まともなことであって,驚くに値しない。深読みをすれば,取締役が不祥事公表のメリットデメリットをあらゆる観点からきちんと検討し,その結果,公表しない方がよい,という結論に達した場合には,仮に結果として事実が漏洩し,会社に莫大な損害が発生したとしても,取締役は法的責任を負わない,とも読み取れる。もっと意地悪な深読みをすれば,軽々に不祥事を公表して,莫大な損失を会社に与えたときには,取締役は損害賠償責任を負う場合があるという論理的帰結さえ,ありうる。つまり,この判決のポイントは,「不祥事を公表したか否か」ではなく,「不祥事を公表するか否かを十分に検討したか否か」なのである。

この点に関し,上記記事は,大阪弁護士会の山口利昭弁護士のコメントとして,「『不祥事を公表しない経営判断は許されない』との司法判断を役員は重く受け止める必要がある」と警告していると紹介するが,この記事も同様にミスリードであるし,何より山口弁護士のブログを見る限り,同弁護士はこうは言っていない。(小林)

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