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2008年7月10日 (木)

ニュースを読む視点

2008710日のasahi.comは,日弁連が司法試験合格者数年3000人の見直しに向け,従前の路線から方向転換する方針を固めたと報じた。法務省はこれを受け,近く省としての方向性をまとめる見通しとも報じ,司法制度改革の根本が大きく変わる可能性もあるとしている。記事全体としては,仕事が減ることを恐れる弁護士のエゴが背景にあるとして,司法制度改革に抵抗する日弁連を非難するトーンである。

この記事に対しては,弁護士の側からいろいろ反論も出るだろうが,言っても詮無いことだろう。マスコミの行動原理は,正しいか否かではない。報道価値のあるなしなのだ。

むしろこのニュースの読み方としては,「なぜ710日なのか?」という視点が重要である。なぜなら,先日のブログで紹介したとおり,日弁連執行部が報道された方針を会員にファックスしたのが71日であるから,10日の報道は遅い。他方,記事も認めるように,日弁連としての正式意思決定は来週(18日)だから,これを待って報道しても遅くない。つまり,日弁連のスケジュールに照らすと,この報道タイミングは,とても中途半端である。ではなぜ710日なのか。

これは相当の部分を想像と伝聞で補った筆者の仮説であるが,大阪の弁護士から見た一つの視点としてお読み頂きたい。

報道された日弁連の方針は,会員に公開されたのが71日であるが,それ以前から,マスコミには示唆されていた。これはそもそも,宮崎日弁連会長の選挙公約だから,それ自体は意外でも珍しくもない。3000人に反対した千葉県弁護士会の決議は報道価値ゼロとしてマスコミから黙殺されたし,同様の東北弁護士会連合会決議も地元紙1紙がベタ記事で報道しただけである。日弁連が同様の決議をすれば多少は報道価値もあろうが,地方単位会の決議に比べかなり「おとなしい」内容なので,大したことはない。だから,71日に日弁連執行部が方針を明らかにしても,マスコミは動かなかった。

マスコミが動かなかった理由は,もう一つある。それは,日弁連会長の「お膝元」である大阪弁護士会が,日弁連執行部案に比べてかなり踏み込んだ,日弁連から見てとても「過激な」弁護士会決議を提案する動きを示していたことだ。この動きが本格化すれば,マスコミ的にはとても面白い。俄然報道価値が上がる。大阪弁護士会の決議については,すでに予定稿が作成されていた。内容は知らないが,想像はつく。大阪という大単位会と日弁連との意思不統一を面白おかしく書いたものに相違ない。弁護士の「エゴ」に対する批判のトーンも,報道された記事より,ずっと強烈なものであったろう。記者は,予定稿発表のタイミングを,手ぐすね引いて待っていたに違いない。

ところが,大阪弁護士会の「過激な」動きは,「諸般の事情」で,いきなりトーンダウンした。大阪弁護士会執行部の作成した決議案は骨抜きにされ,日弁連執行部案と大差ないものになってしまった。そして,大阪弁護士会執行部が骨抜きになった決議案を事実上公開したのが,710日である。今後の展開は予断を許さないものの,当面,予定稿はボツである。そうなると,報道価値が多少あるのは日弁連執行部案だけとなる。このほか,サミットが終わってあまり大きなニュースもないという事情があったかもしれない。このような顛末で,asahi.comのニュースが報道されたと見る。

asahi.comのニュースも示唆するとおり,日弁連執行部方針は,法務省との綿密なすりあわせの結果,策定されたものとみてよい。日弁連が提言し,法務省がこれを受けて政策を示すという連係プレーである。もしこのとき,大阪弁護士会の「過激な」決議がなされ,これをマスコミが面白おかしく報道し,世論が弁護士批判に傾けば,日弁連と法務省の連携は破綻したであろう。法務省は知らぬ顔を決め込んで,3000人見直しなんてとんでもない,という態度を取る可能性はとても高かったと思う。法曹人口問題に関する限り,法務省は世論の動向にとても敏感である。つまり,大阪弁護士会の当初の「過激」な決議案は,3000人見直しの流れにブレーキをかける可能性が高かったと,筆者は思う。

法曹人口問題は,政治問題である。そして,政治とは,こういうものである。日弁連執行部の今回の動きがベストの選択なのか,筆者には分からない。しかし,少なくとも,会員の多数の意思だからというだけで,日弁連と相反する決議に走ろうとした大阪弁護士会に比べれば,政治的にましな選択であることは間違いない。(小林)

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