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2008年7月 3日 (木)

「法曹人口問題に関する提言」の日弁連執行部の原案

2008年(平成20年)71日の日弁連ニュースによると,「法曹人口問題に関する日弁連の提言につき,理事会で執行部の原案が示された。引き続き各弁護士会での議論を受けて,7月の理事会でも議論を重ねた上で,内容が確定される予定である」とのことである。

そして,原案の内容は,「本年度司法試験の合否判定にあたっては,新しい法曹養成制度が未だ発展途上にあることに鑑み,司法改革全体の統一的かつ調和の取れた実現を期するため,2010年頃に合格者3000認定度にするという数値目標にとらわれること無く,法曹の質に十分配慮した慎重かつ厳格な審議がなされるべきである。」というものだ。

この原案の個別の内容については,筆者として多少の意見はあるが,全体としては,宮﨑誠日弁連会長の選挙公約である「スローダウン」の提言であり,それ自体,特に目新しいものではない。

むしろ,このニュースで注目すべきは,「理事会で執行部の原案が示された」という,未だ日弁連としての意見が生成途上の時点で,これが会内一般に公開された点である。もちろん,法曹人口問題は会員の最大関心事だから,執行部案の段階で公表することは,一般会員の側から見れば望ましいことである。しかし,執行部側から見て,あえてこの時期に執行部案を公表したことには,別な目的があるというべきだろう。

別な目的とは,法曹人口問題に関する各単位会の動向について,日弁連のコントロールが効かなくなってきているため,これを牽制,または減殺することである。現に,宮﨑日弁連会長のお膝元である大阪弁護士会では,上野勝会長が,奇しくも同じ71日,日弁連執行部提案よりも,3000人削減に向けてかなり踏み込んだ弁護士会総会決議案を常議員会に上程し,86日の臨時総会開催に向けて動き出している。3000人に明確に反対した千葉県弁護士会の決議は,世間から完全に黙殺されたが,全弁護士の1割強が所属する大阪弁護士会ほどの大規模単位会の決議となれば,それなりに世間の耳目を集めるだろう。

一般の国民には分かりにくいことであるが,日弁連と各単位会(たとえば,大阪弁護士会)は,組織的に上下関係や指揮命令関係にはない。日本中の弁護士は,日弁連と各単位会との両方に加入する義務があるが,日弁連と各単位会はそれぞれ独立であって,会社員にとっての「本社・支社」のような関係ではないのだ。だから,各単位会が日弁連とは異なる意見を表明しても,制度的には全然構わないのである。

しかし,制度的にはOKとは言っても,国政レベルの問題について,日弁連の意見と,各単位会の意見が異なることは,外部からは,とても奇妙なことに見えるだろう。それは,両方の意見の社会的インパクトを相殺することでもある。

だから,日弁連としては,なんとか各単位会に歩調を合わせて欲しいと考えるし,そのひとつの手段として,一般会員に対し,「日弁連執行部はこれだけ頑張っていますよ。だから,単位会であまり先走らないでくださいね」とアピールしているのだ。同時に,日弁連から見て「過激な」意見が単位会からでる前に,日弁連の意見を対外的に表明することによって,後から出てくる単位会の意見の社会的インパクト(報道価値)を減殺することを狙っている。

しかし他方,日弁連執行部が,一般会員に対してこのようなアピールをしなければならないということ自体,日弁連による各単位会へのコントロールが効かなくなってきていることを示唆している。都市と地方,ベテランと若手,大事務所と中小事務所,そして「勝ち組弁護士」と「負け組弁護士」といった,弁護士の世界の中での分裂が,ふたたび,日弁連の意思決定能力を失わせつつあることの証として,このニュースは受け取られるべきであろう。(小林)

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