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2008年8月30日 (土)

うなぎ蒲焼きの産地偽装問題について(4)

Ⅳ 偽装の手口

大阪市の株式会社魚秀や神港魚類株式会社などを舞台に行われたうなぎ蒲焼きの産地偽装事件は,うなぎの内外価格差や,価格差ほどの味の差がない,という事情を背景にして,JAS法の不備につけ込んだ,「里帰りうなぎ」という産地偽装の手法が横行していた。2007年になり,ヨーロッパと台湾が相次いでシラスうなぎの禁輸を宣言する中,中国産うなぎから禁止農薬が検出され,消費者の国産指向がいよいよ高まる中,輸入うなぎの大量在庫を抱えた国内のうなぎ業者は,何としてでも在庫をさばく必要に迫られた。これが,うなぎ蒲焼き産地偽装事件の直接の背景である。

新聞報道などを総合すると,魚秀・神港魚類などを舞台にした産地偽装問題の経緯は,次の通りである。

20077月,徳島魚市場が同年3月に輸入したうなぎから禁止薬物の代謝物が検出されたと報道された。徳島魚市場には返品が殺到し,その子会社である魚秀でも,風評被害を受けて大量の輸入うなぎが返品された(報道によれば,800トンに達した)。徳島魚市場の吉本隆一社長は,同社の社員でもある魚秀の中谷彰宏社長に対し「損をしてでもうなぎの在庫を売れ」と指示したという。

20081月,魚秀の従業員と神港魚類の担当課長が協議し,在庫をさばくために一色産に偽装することが決められる。担当課長は「今年の国産うなぎは高騰する」と役員会に提案し,大量の「国産うなぎ」買い付けの承認を得た。

200826日から318日にかけて,徳島魚市場の関連会社倉庫に,「中国産」うなぎ249トンが入庫され,27日から順次搬出された(もっとも,魚秀の中谷社長は入出庫記録を作成指示しないよう倉庫側に指示したと報道されている)。搬出された「中国産」うなぎは香川県高松市の運送会社「シコクセイカ高速」の倉庫内で,常時78人の手によって「一色産」のラベルと張り替えがなされたと見られている。この倉庫を手配したのは香川県高松市の大洋水産の役員(当時)であるが,同社の親会社であり地元の大手スーパーであるマルナカの中山芳彦社長は,会社ぐるみの関与を否定し,元役員の独断だったとしている。630日の朝日新聞によれば,中谷社長から相談を受けた「高知県南国市の水産加工会社役員」が,偽ラベルの手配を含め,偽装工作全般を仕切っていたという。

偽装されたうなぎの蒲焼きは,256トンが神港魚類に卸され,200834日から614までの間に,約49トン(39万匹)が販売された。

ところで,この時期は,うなぎの産地偽装業者が相次いで摘発されていた。そこで魚秀の中谷社長らは,製造者として架空の会社を表示するとともに,架空会社名義の産地証明書を偽造していた。また,架空会社が特定されないように,架空会社と神港魚類との間に中間流通業者2社を噛ませた(現物を扱わず,帳簿だけの取引を『帳合』というが,単品の帳合は異例であり,農林水産省はこの中間流通業者も偽装に気づいていたのではないかと疑っているという。なお,これらの中間流通業者に帳合を持ちかけたのは魚秀の『非常勤役員』であると報じられているが,これが,事件の黒幕となった高知県南国市の水産加工業者役員と同一人であるか否かは報道からは不明である)ほか,魚秀は神港魚類から一部(15トン)のうなぎを買い戻し,あたかも神港魚類の下流にいるかのように装った。これらの隠蔽工作は,他の偽装事案に比べ突出して手が込んでいた。

しかし,2008523日,「異常に安い一色産うなぎが流通している。ネットで調べたが一色フードという会社は見あたらない」という通報が農林省にあったほか,神港魚類に対しても告発の電話があり,手の込んだ偽装工作にしては,割とあっさりと露見してしまった。結局のところ,「モノ(中国産ウナギ)とカネと帳簿」が揃っている以上,いかに複雑なルートを通しても,一旦当局に疑いを持たれた以上,逃げようがないのである。

偽装が露見するまでの間に販売されたうなぎ蒲焼きの売り上げは73000万円。仕入れを差し引いた利益が約3億円であり,このうち1億円余りが,偽装工作を仕切った「高知県南国市の水産加工会社役員」から,偽装工作を請け負った「高松市の水産会社元専務」に支払われ,4000万円が中間流通業者に,1000万円が「謝礼」として神港魚類の担当課長に渡ったとされる。但し,神港魚類の担当課長は,「1000万円はお茶の袋に入っており,自宅に帰るまで現金と気付かなかった。謝礼ではなく口止め料だと思った」と弁解している。課長がいつ現金に気付いたかはともかく,1000万円の受け渡しが農林水産省が調査に乗り出した後であることからして,その趣旨は謝礼ではなく口止め料と見るべきだろう。

魚秀の手取りは18000万円あった。それだけで見ればボロ儲けであるが,800トンの過剰在庫のうち49トンしか処分できず,立件されて全てを失う社長本人にしてみれば,全く割の合わない話である。

事件の謎,というより,事件報道の謎としては,偽装工作全般を仕切ったとされる「高知県南国氏の水産加工会社役員」の氏名も,会社名も,マスコミが明らかにしていない点がある。筆者の知る限り,事件発覚直後である2008628日や71日の各紙が,阪神百貨店は魚秀と役員が兼任している「高知県南国市の水産加工会社」のうなぎ蒲焼きを販売停止にしたと報道した際,同社の社名が報じられたが,これと「黒幕」の会社と同一会社か否かは不明なままである。しかし,マスコミが同社名や役員氏名を知らない訳ではない。2008724日の毎日放送「VOICE」で担当記者は,「中国ウナギ業界のドン」と呼ばれる中国畜産貿易紹介ウナギ部門理事長徐利明氏にインタビューを試みた際,「高知県南国市の水産加工会社役員」について,「彼は余りに大胆すぎます。偽装に関するウワサは,たしか聞いたことはありますね」という発言を引き出したり,この役員の自宅を訪れたりしている。それにもかかわらず,なぜこの役員と「高知県南国市の水産加工会社」名だけ匿名で通されているのか。記事からは弁護士が関与していることが窺われるが,そのせいなのか。それとも,別の力学が働いているからなのか。

現在,兵庫・徳島両県警が,不正競争防止法違反及び詐欺罪での立件に向けて,膨大な証拠の精査を行っているという。報道によれば,立件は数ヶ月後とのことであるが,この「高知県南国市の水産加工会社」もと役員を突破口に,どこまで事件の背景が明らかになるのか,注目される。根拠がないし,あってもブログには書けないが,うなぎ蒲焼きの偽装事件は,日本の暗部と繋がっている可能性がとても高いと思う。(小林)

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2008年8月26日 (火)

うなぎ蒲焼きの産地偽装問題について(3)

Ⅲ 偽装の背景3(続発した産地偽装)

大阪の株式会社魚秀と,神港魚類株式会社,その他数社が舞台となったとされるうなぎ蒲焼きの産地偽装事件は,20086月から7月にかけてマスコミを賑わしたので,まだ人々の記憶に新しい。しかし,事件の直前,多くのうなぎ業者の産地偽装が摘発されたことは,忘れ去られようとしている。

2006225日には,フジ活鰻産業(静岡市)高知支店の産地偽装について,同年411日には高知県土佐市の大熊の産地偽装について,それぞれ農林水産省が改善指示を行った。

2007年は,国産うなぎ価格の高騰要因がいくつも重なった。稚魚の不漁と,EUの稚魚輸出制限,台湾の禁輸措置が,日本に入ってくるシラスうなぎの絶対量を減少させ,これに,ハウス養育に必要な重油価格の高騰が追い打ちをかけた。しかも,改正食品衛生法に対応するための,中国うなぎ養殖場の設備が間に合わず,さらに,輸入した中国産のうなぎからたびたび禁止薬物が発見されたため,中国産うなぎの国内流通量が激減した。2007714日の新聞報道によれば,魚秀の親会社である徳島魚市場が同年3月に輸入した中国産うなぎ蒲焼きから,禁止薬物の代謝物が検出されたため,徳島魚市場が自主回収を始めた。この一連の事件により,国内のうなぎ業者は,輸入うなぎの大量在庫を抱えることになったと思われる。その中で,少なからざる業者がうなぎの産地偽装に手を染め,農林水産省がその摘発に乗り出した。

20079月,農林水産省は九州の十数業者に対し,台湾などから輸入した生きたうなぎを国産と偽り販売していたとして,大規模な立ち入り調査を行い,宮崎市の「原田穂積商店」と「石橋淡水」が県から厳重注意処分を受けた。また11月には,産地を確認せず「国産」との証明書を発行したさいたま市の「山商水産」,静岡市吉田町の「山政」と「マルニうなぎ加工」が,12月には,熊本県の「岩本水産」と「九州生鮮」が台湾産などのうなぎを国産と偽り,加工業者などに販売していたとして,県から厳重注意処分を受けた。20082月には,静岡市の「東海澱粉」が農林水産省から厳重注意処分を受けるとともに,従業員二人が不正競争防止法違反容疑で逮捕された。

2008618日,農林水産省は,「養殖うなぎの原産地表示の適正化について」と題するプレスリリースを行い,「複数国を経由し養殖されるうなぎの原産地に関しては,販売先に対し,経由した全ての養殖場所,養殖期間を伝達するよう周知を行った。

このとき問題となったのは,国産うなぎ生産量日本一とされる,愛知県一色町の「一色うなぎ漁業協同組合」の「産地偽装」であった。620日の産経新聞によれば,「一色漁協は,一色町で16ヶ月養殖したうなぎ約18万匹を徳島県の卸売業者から鹿児島県の輸出業者を使って台湾に輸出し,そのうなぎを輸入したとしていたが,台湾から輸入したうなぎは約26万匹に増えていた。しかも,農林水産省の調査では,一色産の幼魚が台湾の池に入ったことは確認できなかった。漁協の組合長は,「輸入業者から,書類が揃っているので『国産または一色産』と表示できると持ちかけられた」とか,「仲介業者が間違えた」とか,いかにも被害者であるかのような言い訳をしている。」と報じている。同日付の日本経済新聞によれば,一色漁協にうなぎの輸入を持ちかけたのは,上述したさいたま市の「山商水産」である。

ここで報じられた「徳島県の卸売業者」が誰を指すのかは不明である。しかし,大阪の魚秀とその親会社である徳島魚市場株式会社が,うなぎ蒲焼き産地偽装事件の舞台として世間の注目を集めるのは,わずか1週間後のことである。(小林)

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2008年8月22日 (金)

うなぎ蒲焼きの産地偽装問題について(2)

現時点(2008812)で未解決の「うなぎ蒲焼きの産地偽装事件」であるが,この事件には,「多額の内外価格差」と,「その割には味の違いがない」という二つの背景があった。

しかし,これだけならめったに偽装は起きない。大概の人には「良心」というものが備わっているので,「偽装をすれば儲かる」と分かっていても,よほどのことがない限り,明白に「悪事」に属する産地偽装に手を染めることはない。

ところが,うなぎに関しては,良心を麻痺させたもう一つの事情があった。それが「里帰りうなぎ」である。

うなぎは,人工ふ化技術が無いため,シラスと呼ばれる稚魚を採捕して養殖する。シラスは繊細なので,稚魚のうちは,高い技術を持つ日本が適している。しかしある程度育てば,コストの安い台湾や中国でも養殖ができるから,日本からクロコと呼ばれるウナギの幼魚が輸出されてきた。そして日本は,うなぎの成魚を再輸入する。何十年も前から,日本はクロコを台湾や中国に輸出し,成魚になった「台湾産」や「中国産」のうなぎを輸入してきた。そして,その多くは「台湾産」や「中国産」として日本国内で販売された。もっとも一部の業者は,原産地名は最終加工地でよいとする改正前のJAS法規準を悪用し,中国産うなぎを静岡で焼いて「静岡産」とのラベルを貼って販売していたが。

しかし,2002年,原産地名は最終加工地ではなく生産地名とすべし,とJAS法の適用基準が改正される。すると,日本と中国・台湾の両方で育ったうなぎの場合,どちらが生産地になるのかという問題が発生する。なにしろ内外価格差が大きいから,国産になるか否かは大問題だ。

この点について,農林水産省は,「最も長く育った場所を原産地とする。」と,運用基準を定めた(この点報道によれば,JAS法や政令にその定めがあるように読めるが,筆者はその資料に接することができない。どうも単なる運用基準のような気がする)。この運用基準は,理屈としてはありうるところだが,うなぎに関していえば,「一匹いっぴき,日本と中国で何日育ったかなんて,分かるわけがない」という,適用上の限界があった。牛ならば,一頭毎に管理されているから,どの地域で何日育ったかを把握することもできよう。しかし,様々な産地のうなぎが,何千・何万匹と一つの池で育てられる状態では,一匹ずつの生育日数の把握は全く不可能である。

もとはといえば,食の安全と信頼を確保するため,消費者に適切な情報を提供するためのJAS法運用基準であったのに,それが不正の温床になったというのは,皮肉な話である。JAS法運用基準によれば,一日でも多く日本で育ったうなぎは国産と表示して良い。そして,そのうなぎが,日本と中国・台湾で,それぞれ何日育ったかは,誰にもわからない。そうだとすれば,書類上で辻褄が合ってさえいればよい。うなぎを扱う多くの業者が,そう考えたとしても,何の不思議もない。

「里帰りうなぎ」とは,文字だけを見ると,「日本から台湾・中国に行き,再び帰ってきたうなぎ」を意味する。そして,日本での生育期間の方が長いなら,国産と表示してもJAS法違反にならない。しかし,そのうなぎが本当に「里帰り」をしたうなぎなのか否か,まして,日本と台湾・中国のどちらの生育期間が長いのかは,誰にも分からない。

すなわち,「里帰りうなぎ」とは,JAS法運用基準の不備をついて,輸入したうなぎを国産と表示するために,業者の誰かが考え出したロジックである。しかし,その実体は,書類が揃っているというだけで,うなぎそのものは,台湾や中国で育ったものかもしれないのだ。輸入物とはいえ,特に台湾のうなぎの品質は国内産に匹敵しており,台湾で長く育ったうなぎを国産として販売したからといって,消費者のクレームも健康被害も発生しない。また,シラスうなぎの漁獲高は減少傾向にあり,しばしば不漁に見舞われるため,国内のうなぎ業者は常に生活の危機にさらされている。このような事情から,2002年ころ以降,国内の少なからざるうなぎ業者が,「里帰りうなぎ」を隠れ蓑にして,事実上の産地偽装に手を染めていった。

繰り返しになるが,このような産地偽装が横行した背景には,国産うなぎに対する過剰とも言える消費者の信頼があった。これは信頼を通り越して信仰と言っていいほどのものである。このような「信仰」が背景になって,経済学的または科学的に説明がつかないほどの価格差が発生したことが,偽装の遠因となった。とすれば,経済学や科学では説明のつかない価格差が存在する商品については,うなぎに限らず,偽装が発生する可能性があることになる。(小林)

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2008年8月20日 (水)

韓国の弁護士増

2008年8月19日の東亜日報WEBは,「不況に喘ぐ弁護士市場,薄利多売訴訟から受任料詐欺まで」と題して,次のように報じている。

2002年に5000人を越えた弁護士は,今年に入って2倍に増加したものの,事件数はソウル地方弁護士会規準で同期間40%増にとどまったことが原因で,弁護士一人あたりの受任数減や,大手事務所への事件集中が発生しているという。そのため,受任料詐欺や,集団訴訟が増加し,廃業に追い込まれる弁護士も少なくないという。ソウル中央地裁のある判事は,「弁護士が成功報酬を狙って、和解で終わる事件を無理やり正式裁判へと進める事例が多い」と指摘した。

弁護士業界の不況は韓国の裁判官事情にまで影響を及ぼしている。いざとなれば辞表をたたきつけて野に下る気骨のある裁判官が減り,官僚化しているという。

不正確かもしれないが,若干解説を加えると,韓国では日本より数年早く,司法試験合格者を年間1000人に増加させた。1994年現在の司法試験合格者数が約300人だったと言うから,合格者数はその3倍になったことになる。韓国の人口は約4800万人で,日本の3分の1だから,司法試験合格者数1000人というのは,日本の3000人に匹敵する。また,韓国では,弁護士会が訴訟件数を把握できる仕組みがあり(訴訟用の印紙を弁護士会が販売するということだったと思う),そのため,日本より事件数の正確な把握が可能である。

記事には裏付けがないし,東亜日報の立ち位置を筆者は知らない。また,韓国と日本との社会的経済的成熟度の違いという視点も必要だ。しかし,多少の「眉唾」を差し引いても,この記事が,日本の法曹界の未来(もしかして現状?)を示唆していることは間違いないと思う。(小林)

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2008年8月18日 (月)

うなぎ蒲焼きの産地偽装問題について(1)

農林水産省は2008625日,株式会社魚秀及び神港魚類株式会社に対し,「中国産うなぎ蒲焼きに,製造や販売の実体のない架空会社を表示し,愛知県三河一色産として販売していたことを確認」したとして,JAS法に基づく指示を行ったと報道発表した。

筆者は,東京海上日動リスクコンサルティング株式会社主催の「食品業界の信頼性向上セミナー」に講師として参加する関係上,ネタ集めのため,新聞報道を中心にこの事件を勉強してみたが,恐ろしく奥が深くて,泥縄では手に負えない。しかし,食の安全とコンプライアンスの問題を考えるとき,すなわち,食品偽装はなぜ無くならないのかを考えるとき,この事件を避けて通ることができない。

そこで,恥ずかしながら,現時点での到達点を示すため,この事件について筆者が理解したことを記しておくことにする。

Ⅰ 偽装の背景1(内外価格差と内外同品質)

日本人は,世界の食用うなぎの7割を消費している。このうなぎは,ほぼ99%が養殖だ。ところが,うなぎの卵を人工ふ化させる技術は実用化されていない。そのため,毎春,「シラスうなぎ」と呼ばれる稚魚を沿岸で採捕している。このことは,シラスうなぎの漁獲高が,うなぎの養殖量と市場供給量,ひいては,零細な鰻養殖業者の生活に直接影響することを意味する。しかも,シラスうなぎの漁獲高は近年減少しており,しばしば,漁獲量を巡る国際紛争に発展する。国際紛争の主たる当事者は,養殖を営む日本,中国,台湾3国のほか,シラスうなぎを中国に輸出するEUだ。

国際紛争の概要は,こうである。20076月,EUは資源保護の見地から,シラスうなぎの漁獲・輸出規制を2009年から2013年までに6割減少させるという大幅規制策を決定した。シラスうなぎの輸入量減少に困った台湾政府は,日本政府に対して輸出を要請したが,日本政府は,輸出貿易管理令上,シラスうなぎは輸出禁止とされているとして断った。これに対抗して台湾は,200710月,日本に対するシラスうなぎの輸出を禁止した。この一連の国際紛争は,国内産うなぎの価格高騰をもたらした。

国内産うなぎの価格が高騰する原因はもう一つある。2000年ころから,中国産うなぎから,しばしば,許容量を超える残留農薬が検出された。台湾産うなぎから残留農薬が検出されたこともあるが,報道数は中国産うなぎの方が多い。これは,台湾に比べ北方でうなぎを養殖する中国では,温室を使うため,うなぎの養殖密度が高いこと,漁獲量が安定しているが,病気に弱いヨーロッパうなぎを多く養殖するため,薬品への依存度が高いこと,が原因とされている。詳しくは,「ウナギをめぐる情勢変化とわが国への影響」(農中総研 調査と情報)を参照されたい。

一方,食品安全に対する意識の高まりを受け,20022月にJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)の新基準が適用され,うなぎの蒲焼きについて,原産地名を最終加工地ではなく原料生産地とすることが義務づけられた。つまり,それ以前は,中国産のうなぎを静岡で焼いてタレをつければ「静岡産」と表示してもJAS法違反にならなかったのである。

JAS法新基準が適用され,国内産と輸入物の表示が峻別されると,消費者は「多少高くても国内産を買う」という購買行動を見せた。その結果,うなぎ蒲焼きの内外価格差は広がっていった。禁止薬剤使用発覚を受け,2003年と2005年の二回にわたり,中国政府がうなぎの禁輸を行ったことも,消費者の国産への信頼と,うなぎの内外価格差を助長することとなった。

うなぎの内外価格差は,輸入物を国内産と表示すれば儲かる,という偽装の動機となる。しかし,うなぎ蒲焼き産地偽装問題の背景にあるのは,内外価格差だけではない。これと同等に重要なのは,「味が変わらないから偽装してもばれない」ということだった。

JAS法新基準が適用された当時から,「台湾産うなぎの方が安くて旨い」という評判はあった。日本に比べ温暖な台湾では,露地池養殖がなされており,ハウス養殖を行う日本よりコストが安く,しかもうなぎは広い池でのびのび育つので,味も良い。蒲焼き工場の機械も日本と同等になったため,消費者には,味の上での区別がつかなくなっていたのである(蒲焼きってタレの味で食べているようなものだし)。一連の事件報道が中休みとなった2008年7月,台湾政府は日本で台湾産ウナギの安さと安全性のキャンペーンを始めた。うなぎ偽装事件は,高いだけの国産うなぎに壊滅的な打撃を与えるかもしれない。

まとめると,うなぎには「内外価格差」が大きいことと,「味の差」がほとんど無いこと,という二つの特質があり,これが,うなぎ蒲焼き産地偽装事件の背景となったのである。

話は変わるが,筆者はこの問題を勉強するまで,「中国産うなぎの蒲焼き」は「中国産うなぎ・の蒲焼き」であって,日本で焼いていると思いこんでいた。「中国産うなぎの蒲焼き」が,実は「中国産・うなぎの蒲焼き」であり,中国で焼いたあとに冷凍していると知ったことは少なからずショックであった。なんでショックなんだ,という気もするが,スーパーで「中国産うなぎの蒲焼き」を買う気がかなり薄れたのは間違いない。(小林)

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2008年8月13日 (水)

ICタグでいじめ兆候把握

2008813日の日本経済新聞朝刊は,「顧客管理システム開発などを手掛けるMR(福岡市、前田勝巳社長)は非接触ICタグを使った登下校管理システムを開発、9月から福岡県内の小学校で実証実験を始める。校門に設置したセンサーで児童の登下校を検知し保護者にメールで知らせるほか、一緒に帰宅しているグループの傾向を分析して、仲間はずれにされるなどいじめの兆候をとらえることも可能」と報じた。「実証実験は福岡県粕屋町の粕屋中央小学校で実施。すでに6割の保護者から参加申し込みを受けた」とのことである。

非接触ICタグで児童の登下校情報を管理するシステム自体は,すでに方々で実施されている。だから,記事の特徴は,このシステムを使って,「一緒に帰宅しているグループの傾向を分析して、仲間はずれにされるなどいじめの兆候をとらえることも可能」と宣伝している点にある。

しかし申込者が6割では,仲間はずれの兆候をとらえることなどできない。リアル社会では5人グループで下校しても,システム上では3人グループで下校したとしか認識できないのだから。また,保護者の考えでICタグを持たせてもらえないいじめられっ子がいたとして,この子どもがICタグを持ついじめられっ子に取り囲まれて下校しても,システム上は何ら異常は検知されない。また仮に,全児童にICタグを付けたところで,いじめを把握することは困難だと思う。例えば,いじめられっ子がいじめっ子数人に囲まれて一緒に下校すれば,システム上には何ら異常は感知されないのだから。

前田勝巳社長が想定している「仲間はずれの兆候」とは,次のようなものだろう。「先週まで,A子はBC子と3人グループで下校していたのに,今週から,B子C子はD子E子のグループで下校するようになり,A子は一人で下校している」というようなパターンをいじめの兆候として把握しようというのであろう。しかし,このようなパターンをシステム上把握するのは極めて困難である(何秒離れて通過したら,『一人で下校した』と把握するというのか。児童の行動は,例えば通勤途中のサラリーマン(一方向に向けて一定の速度で移動する)などに比べて極めていい加減であり,30秒離れて通過しても,実距離は数メートルに満たないことだって多い)うえ,そもそも,「仲間はずれの兆候」は,こんなにわかりやすいパターンで現れるものではない。

このようなシステム上の限界を知りながら「いじめの兆候が把握できる」と主張するMR社もどうかと思う。社長の前田勝巳氏は,自らもいじめられた経験があると言っているそうだが,同氏は,「このシステムがあれば自分はいじめられないで済んだ」と思っているのだろうか。

それよりも問題は,学校や保護者の間に,いじめの予防をICタグシステムに頼ろうとする傾向がかなり増してきている点だ。

もちろん,人間に電子首輪を付けるなんて!と主張するつもりはない。筆者自身,痴呆老人の徘徊防止のため,身体にICタグを埋め込むことも検討対象にしてはどうかと提案したこともある。しかし,ICタグシステムで人間の行動を管理・監視しようとするときには,それなりの覚悟が必要だ。このようなシステムでいじめを防止しようとする考えを持つ人たちは,人間性や,子どもという生き物に対して,とても浅はかな認識しか持っていないのではないかという気がする。いじめの兆候は,親や教師が,子どもの顔色や行動を観察し,子どもと真摯なコミュニケーションを取る中で発見するべきことである。もちろんそれには限界があるが,この限界を子どもとのコミュニケーションで解決しようと努力することそれ自体が,いじめ防止のために大事なのだと思う。教育は便利になれば良いというものではない。機械に頼ってはいけないこともあるのだ。

ICタグで児童の登下校を監視してもいじめの兆候が発見しきれないとすれば,このシステムは当然,学校中にセンサーを張り巡らせて,児童が休み時間に誰と遊んでいるか,給食を誰と食べているか,などを把握する方向に進化するだろう。そして,その進化は,ある種の人びとから支持喝采を受けるのだろう。なにより不気味なのは,このような支持喝采が,紛れもない善意から発生しているという点だ。

(参考)

http://kyushu.yomiuri.co.jp/keizai/detail/20080804-OYS1T00447.htm

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2008年8月 8日 (金)

大阪弁護士会8月6日臨時総会結果の分析

法曹人口問題に関し大阪弁護士会で開催された200886日臨時総会決議の投票結果は,次のとおりだった。

執行部案

反執行部案

賛成

1114

432

反対

422

1022

保留

19

48

執行部案は,反執行部案に,トリプルスコアに近い差を付けて勝ったから,圧勝である。

ただ,反執行部案には,提案者193名に加えて,約250名の賛成があった。また,この250名の中には,反執行部に委任状を提出せず,当日参加して自主的に反執行部案に賛成した「積み増し」分が,100名は含まれていたような印象であった。これに対して,執行部案支持者の中には,当日積み増し分はほとんどいなかったように見受けられた。全体として執行部案圧勝であるものの,浮動票は反執行部案を支持したと窺われる。

大阪弁護士会所属弁護士は現在3200名を超えているのに対して,投票したのは委任状出席も含めて約1500名であり,執行部案支持票は全体の3分の1に過ぎない。この事実をどう解釈するかは問題となりうる。会派の統制力が落ちたという見方もあろうが,夏休み中だったからかもしれないし,執行部支持者側も,圧勝が予想される中で,票集めに不熱心だったかもしれない。なんともいえない。

反執行部派が善戦したとの見方もあろうが,筆者は惨敗したと考える。なぜなら,反執行部派が拠り所とした会員アンケートからすれば,約1000名の回答者のうち約8割が,反執行部案を支持してもおかしくないからだ。1500票に換算すれば1200票である。つまり,反執行部派は,1200票取れてもおかしくないところ,その3分の1しか取れなかったのだ。

その原因について,「会派の統制があった」とか,「事実上の記名投票では会員の真意は表明されない」とか,「執行部が迷走したせいで,若手弁護士が白けてしまった」という分析もありうる。しかし反執行部派は,外に原因を求める前に,なぜ自分たちが支持されないのかを内に問うべきである。会内の支持を獲得する政治力も無くて,どうして社会の支持を得られるというのだろう。

マスコミの反応はどうだろうか。臨時総会当日,12個あった記者席は全部埋まっていたが,筆者の知る限り,日経,朝日,毎日がそれぞれベタ記事で事実関係を報道したのみである。記者各氏にしてみれば,ほぼトリプルスコアでは,記事にもならない,「つまんないの」というところだろう。

筆者自身は執行部案を支持したし,マスコミの反応が無いという予想は当たったが,「つまんないの」という点では,記者各氏と同じ感想である。(小林)

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2008年8月 6日 (水)

大阪弁護士会8月6日臨時総会決議について(3)

8月6日の大阪弁護士会総会に上程される,法曹人口問題に関する執行部案,反執行部案は,実はいずれも執行部が起草したものである。執行部が日和って提案を差し替えたことに怒った若手弁護士のグループが,ボツにされた当初案を再上呈したのが,反執行部案だ。当事者は皆大まじめだが,傍から見れば喜劇に近い。しかも,争いのレベルはとても低い。

今回の総会でどちらの案が支持されるにせよ(司法改革推進派は本心では両案否決を望んでおり,その動きもあると側聞するが,その場合でも)それは現執行部に対する不信任投票として以上の政治的意味は持たないだろう。執行部が総辞職でもすれば別だが,マスコミもさほど注目しないと予想する。報道価値があるのは,すなわち面白いのは,「内紛」「分裂」という状態であって,その結末ではないからだ。

しかし,政治的な意味が全然無いわけでもない。今回,反執行部案を支持したのが「若手」グループであり,しかも,その若手が,実はすでに「弁護士大増員時代」の申し子であるという事実は,今までの弁護士会決議を「既得権益を守るギルド社会のエゴ」というステレオタイプで理解し,弁護士会内の分裂を,博物館もののイデオロギー対立と理解してきたマスコミに,新鮮な視点を与えるかもしれない。

筆者は,弁護士会内における法曹人口問題の本質は,左右対立ではなく上下対立,すなわち世代間の対立であると指摘してきた。筆者は,今回執行部が迷走する以前には,世代間融和の契機になるかと一縷の期待を持っていたのだが,結果は,禍根を将来に先送りするという最悪の展開となった。

先輩の弁護士たちは,弁護士会内における法曹人口問題が,世代間対立の問題であることを,本当に理解しているのだろうか。そして,世代間の対立は,いつか必ず若い方が勝つということも。会費格安の第二大阪弁護士会ができたり,弁護士に定年制が導入されるという話も,あながち冗談ではなくなっていると思うのだが。(小林)

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大阪弁護士会8月6日臨時総会決議について(2)

8月6日の大阪弁護士会臨時総会に上程される,法曹人口問題に関する二つの案は,いずれも大阪弁護士会執行部が起草したものである。しかも2案の間は,たったの2週間である。どちらかを選べと言われる一般会員にとっては,とても迷惑な話だ。「そのくらい自分で決めろよ,何のため選挙までして会長になったんだ」という声が聞こえてきそうである。

なぜこんなみっともないことになったのかは,かなり正確に報道されているように思う。要するに執行部は,当初案が常議員会で否決されると分かり,あわてて提案を差し替えたのである。これを「梯子を外された」と怒ったグループが,ボツにされた当初案を再上程した。たしかに,当て馬にされれば怒って当然だ。だが,全体としてみたとき,これはとても恥ずかしい事態である。

執行部は,当初案が常議員会の圧倒的多数で否決されることを予見できなかった点で,政治的見通しの無さを露呈し,当初案から見れば骨抜きに等しい差替案の策定に応じた点で,政治的信念の欠如を露呈した(筆者が当初案に賛成できないことは以前述べたとおりであるが,それと政治的信念の有無は別問題である)。議決のあとどうするかという戦略的視点など,この迷走ぶりからは窺う術もない。我々にとってとても恥ずかしいのは,3000余名の弁護士を擁する大阪弁護士会の執行部にして,政治的にはとても未熟であることが,内外に明らかになってしまった点にある。

日弁連との駆け引きにおいても,大阪弁護士会執行部はとても稚拙だった。当初案が上程された7月1日,日弁連執行部は「法曹人口問題に関する緊急提言」の原案を公表して機先を制し,ついで18日,その成案を公表した。その後に大阪弁護士会が総会決議をしても遅い。ボールはすでに弁護士会の手を離れているのだ。本日配信された「日弁連ニュース」が裁判員制度の特集号外であり,法曹人口問題に何一つ触れられていないことをみても,大阪弁護士会の動向は,すでに過去のものになったことを示している。

他方,未熟さという点では,当初案支持グループの主張も五十歩百歩である。当初案こそ会員アンケートの多数意見を反映しているから,総会では当初案が採択されるべしと言うが,アンケートが民主的なら総会決議は不要だ。民主的政治意思決定の本質は話し合いであり,これを経ていないアンケート結果には,参考資料以上の価値はない。「会派の締め付け」だろうが何だろうが,政治意思決定に向けた大人同士の話し合いがなされたなら,アンケートよりよほど民主的である。当初案支持グループには,このあたりの配慮が足りない。

もう1点,当初案支持グループにも,「当初案を決議してどうするのか」という戦略的視点が完全に欠けてしまっている。これは執行部の迷走に付き合わされた経緯からしてやむをえないとも言えるが,まるで,決議自体が最終目標であるかのように矮小化してしまったのはいただけない。(小林)

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大阪弁護士会8月6日臨時総会決議について(1)

8月6日の大阪弁護士会総会が,マスコミに多少注目されている。そのためか,当ブログにもアクセスが多い。この1週間,あえて更新しなかったが,委任状争奪戦も終わったことであるし,可能な限り両案に中立を保ちつつ,私見を述べたい。

総会で諮られるのは,法曹人口問題に関する大阪弁護士会執行部案と,反執行部案である。しかし,本件ではとても特徴的なことだが,執行部案と反執行部案は,どちらも大阪弁護士会執行部が作成した点で共通している。言い換えれば,反執行部案は,執行部が作成した当初案であり,執行部が当初案を引っ込めて2週間後に再提出した差替案が,執行部案なのだ。だから,「執行部案」「反執行部案」という言い方は不適当だと思う。そこで以下,「当初案(=反執行部案)」「差替案(=執行部案)」と呼ぶことにする。

どちらも執行部が作成したという点で同じだとすると,違いは何か。趣旨(内容)の違いとして大きいのは,次の3点だろう。

第1点は,当初案は,「2010年の司法試験合格者3000人」という閣議決定事項の「減少」を求めているのに対して,差替案は「見直し」を求めている点。

第2点は,2008年度の司法試験合格者数に関し,当初案は「前年度より大幅な減少(提案理由とあわせれば1500人程度と読める)」を求めているのに対して,差替案は「前年度より増やさない」ことを求めている点。

第3点は,2009年度以降の司法試験合格者数に関し,当初案は第2点と同様であるのに対して,差替案は触れていない点。

「当初案と差替案の違いなんてあるのか?」という意見もある。しかし,常議員会は当初案を大差で否決し(賛成3,反対多数),差替案を大差で可決した(賛成45,反対2,留保1)。この票差だけの違いがあることは間違いない。

繰り返しになるが,この2案は両方とも,大阪弁護士会会長以下執行部が,2週間の間に起草したものだ。立場の違う2者の作成した2案をめぐって争いが起きているというならともかく,同一人が作った2案を巡って,マスコミから「まっぷたつ」や「内紛」と言われる分裂状態が発生していることになる。

これは,組織として,本当に恥ずかしいことだ。(小林)

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