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2008年8月30日 (土)

うなぎ蒲焼きの産地偽装問題について(4)

Ⅳ 偽装の手口

大阪市の株式会社魚秀や神港魚類株式会社などを舞台に行われたうなぎ蒲焼きの産地偽装事件は,うなぎの内外価格差や,価格差ほどの味の差がない,という事情を背景にして,JAS法の不備につけ込んだ,「里帰りうなぎ」という産地偽装の手法が横行していた。2007年になり,ヨーロッパと台湾が相次いでシラスうなぎの禁輸を宣言する中,中国産うなぎから禁止農薬が検出され,消費者の国産指向がいよいよ高まる中,輸入うなぎの大量在庫を抱えた国内のうなぎ業者は,何としてでも在庫をさばく必要に迫られた。これが,うなぎ蒲焼き産地偽装事件の直接の背景である。

新聞報道などを総合すると,魚秀・神港魚類などを舞台にした産地偽装問題の経緯は,次の通りである。

20077月,徳島魚市場が同年3月に輸入したうなぎから禁止薬物の代謝物が検出されたと報道された。徳島魚市場には返品が殺到し,その子会社である魚秀でも,風評被害を受けて大量の輸入うなぎが返品された(報道によれば,800トンに達した)。徳島魚市場の吉本隆一社長は,同社の社員でもある魚秀の中谷彰宏社長に対し「損をしてでもうなぎの在庫を売れ」と指示したという。

20081月,魚秀の従業員と神港魚類の担当課長が協議し,在庫をさばくために一色産に偽装することが決められる。担当課長は「今年の国産うなぎは高騰する」と役員会に提案し,大量の「国産うなぎ」買い付けの承認を得た。

200826日から318日にかけて,徳島魚市場の関連会社倉庫に,「中国産」うなぎ249トンが入庫され,27日から順次搬出された(もっとも,魚秀の中谷社長は入出庫記録を作成指示しないよう倉庫側に指示したと報道されている)。搬出された「中国産」うなぎは香川県高松市の運送会社「シコクセイカ高速」の倉庫内で,常時78人の手によって「一色産」のラベルと張り替えがなされたと見られている。この倉庫を手配したのは香川県高松市の大洋水産の役員(当時)であるが,同社の親会社であり地元の大手スーパーであるマルナカの中山芳彦社長は,会社ぐるみの関与を否定し,元役員の独断だったとしている。630日の朝日新聞によれば,中谷社長から相談を受けた「高知県南国市の水産加工会社役員」が,偽ラベルの手配を含め,偽装工作全般を仕切っていたという。

偽装されたうなぎの蒲焼きは,256トンが神港魚類に卸され,200834日から614までの間に,約49トン(39万匹)が販売された。

ところで,この時期は,うなぎの産地偽装業者が相次いで摘発されていた。そこで魚秀の中谷社長らは,製造者として架空の会社を表示するとともに,架空会社名義の産地証明書を偽造していた。また,架空会社が特定されないように,架空会社と神港魚類との間に中間流通業者2社を噛ませた(現物を扱わず,帳簿だけの取引を『帳合』というが,単品の帳合は異例であり,農林水産省はこの中間流通業者も偽装に気づいていたのではないかと疑っているという。なお,これらの中間流通業者に帳合を持ちかけたのは魚秀の『非常勤役員』であると報じられているが,これが,事件の黒幕となった高知県南国市の水産加工業者役員と同一人であるか否かは報道からは不明である)ほか,魚秀は神港魚類から一部(15トン)のうなぎを買い戻し,あたかも神港魚類の下流にいるかのように装った。これらの隠蔽工作は,他の偽装事案に比べ突出して手が込んでいた。

しかし,2008523日,「異常に安い一色産うなぎが流通している。ネットで調べたが一色フードという会社は見あたらない」という通報が農林省にあったほか,神港魚類に対しても告発の電話があり,手の込んだ偽装工作にしては,割とあっさりと露見してしまった。結局のところ,「モノ(中国産ウナギ)とカネと帳簿」が揃っている以上,いかに複雑なルートを通しても,一旦当局に疑いを持たれた以上,逃げようがないのである。

偽装が露見するまでの間に販売されたうなぎ蒲焼きの売り上げは73000万円。仕入れを差し引いた利益が約3億円であり,このうち1億円余りが,偽装工作を仕切った「高知県南国市の水産加工会社役員」から,偽装工作を請け負った「高松市の水産会社元専務」に支払われ,4000万円が中間流通業者に,1000万円が「謝礼」として神港魚類の担当課長に渡ったとされる。但し,神港魚類の担当課長は,「1000万円はお茶の袋に入っており,自宅に帰るまで現金と気付かなかった。謝礼ではなく口止め料だと思った」と弁解している。課長がいつ現金に気付いたかはともかく,1000万円の受け渡しが農林水産省が調査に乗り出した後であることからして,その趣旨は謝礼ではなく口止め料と見るべきだろう。

魚秀の手取りは18000万円あった。それだけで見ればボロ儲けであるが,800トンの過剰在庫のうち49トンしか処分できず,立件されて全てを失う社長本人にしてみれば,全く割の合わない話である。

事件の謎,というより,事件報道の謎としては,偽装工作全般を仕切ったとされる「高知県南国氏の水産加工会社役員」の氏名も,会社名も,マスコミが明らかにしていない点がある。筆者の知る限り,事件発覚直後である2008628日や71日の各紙が,阪神百貨店は魚秀と役員が兼任している「高知県南国市の水産加工会社」のうなぎ蒲焼きを販売停止にしたと報道した際,同社の社名が報じられたが,これと「黒幕」の会社と同一会社か否かは不明なままである。しかし,マスコミが同社名や役員氏名を知らない訳ではない。2008724日の毎日放送「VOICE」で担当記者は,「中国ウナギ業界のドン」と呼ばれる中国畜産貿易紹介ウナギ部門理事長徐利明氏にインタビューを試みた際,「高知県南国市の水産加工会社役員」について,「彼は余りに大胆すぎます。偽装に関するウワサは,たしか聞いたことはありますね」という発言を引き出したり,この役員の自宅を訪れたりしている。それにもかかわらず,なぜこの役員と「高知県南国市の水産加工会社」名だけ匿名で通されているのか。記事からは弁護士が関与していることが窺われるが,そのせいなのか。それとも,別の力学が働いているからなのか。

現在,兵庫・徳島両県警が,不正競争防止法違反及び詐欺罪での立件に向けて,膨大な証拠の精査を行っているという。報道によれば,立件は数ヶ月後とのことであるが,この「高知県南国市の水産加工会社」もと役員を突破口に,どこまで事件の背景が明らかになるのか,注目される。根拠がないし,あってもブログには書けないが,うなぎ蒲焼きの偽装事件は,日本の暗部と繋がっている可能性がとても高いと思う。(小林)

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