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2008年8月22日 (金)

うなぎ蒲焼きの産地偽装問題について(2)

現時点(2008812)で未解決の「うなぎ蒲焼きの産地偽装事件」であるが,この事件には,「多額の内外価格差」と,「その割には味の違いがない」という二つの背景があった。

しかし,これだけならめったに偽装は起きない。大概の人には「良心」というものが備わっているので,「偽装をすれば儲かる」と分かっていても,よほどのことがない限り,明白に「悪事」に属する産地偽装に手を染めることはない。

ところが,うなぎに関しては,良心を麻痺させたもう一つの事情があった。それが「里帰りうなぎ」である。

うなぎは,人工ふ化技術が無いため,シラスと呼ばれる稚魚を採捕して養殖する。シラスは繊細なので,稚魚のうちは,高い技術を持つ日本が適している。しかしある程度育てば,コストの安い台湾や中国でも養殖ができるから,日本からクロコと呼ばれるウナギの幼魚が輸出されてきた。そして日本は,うなぎの成魚を再輸入する。何十年も前から,日本はクロコを台湾や中国に輸出し,成魚になった「台湾産」や「中国産」のうなぎを輸入してきた。そして,その多くは「台湾産」や「中国産」として日本国内で販売された。もっとも一部の業者は,原産地名は最終加工地でよいとする改正前のJAS法規準を悪用し,中国産うなぎを静岡で焼いて「静岡産」とのラベルを貼って販売していたが。

しかし,2002年,原産地名は最終加工地ではなく生産地名とすべし,とJAS法の適用基準が改正される。すると,日本と中国・台湾の両方で育ったうなぎの場合,どちらが生産地になるのかという問題が発生する。なにしろ内外価格差が大きいから,国産になるか否かは大問題だ。

この点について,農林水産省は,「最も長く育った場所を原産地とする。」と,運用基準を定めた(この点報道によれば,JAS法や政令にその定めがあるように読めるが,筆者はその資料に接することができない。どうも単なる運用基準のような気がする)。この運用基準は,理屈としてはありうるところだが,うなぎに関していえば,「一匹いっぴき,日本と中国で何日育ったかなんて,分かるわけがない」という,適用上の限界があった。牛ならば,一頭毎に管理されているから,どの地域で何日育ったかを把握することもできよう。しかし,様々な産地のうなぎが,何千・何万匹と一つの池で育てられる状態では,一匹ずつの生育日数の把握は全く不可能である。

もとはといえば,食の安全と信頼を確保するため,消費者に適切な情報を提供するためのJAS法運用基準であったのに,それが不正の温床になったというのは,皮肉な話である。JAS法運用基準によれば,一日でも多く日本で育ったうなぎは国産と表示して良い。そして,そのうなぎが,日本と中国・台湾で,それぞれ何日育ったかは,誰にもわからない。そうだとすれば,書類上で辻褄が合ってさえいればよい。うなぎを扱う多くの業者が,そう考えたとしても,何の不思議もない。

「里帰りうなぎ」とは,文字だけを見ると,「日本から台湾・中国に行き,再び帰ってきたうなぎ」を意味する。そして,日本での生育期間の方が長いなら,国産と表示してもJAS法違反にならない。しかし,そのうなぎが本当に「里帰り」をしたうなぎなのか否か,まして,日本と台湾・中国のどちらの生育期間が長いのかは,誰にも分からない。

すなわち,「里帰りうなぎ」とは,JAS法運用基準の不備をついて,輸入したうなぎを国産と表示するために,業者の誰かが考え出したロジックである。しかし,その実体は,書類が揃っているというだけで,うなぎそのものは,台湾や中国で育ったものかもしれないのだ。輸入物とはいえ,特に台湾のうなぎの品質は国内産に匹敵しており,台湾で長く育ったうなぎを国産として販売したからといって,消費者のクレームも健康被害も発生しない。また,シラスうなぎの漁獲高は減少傾向にあり,しばしば不漁に見舞われるため,国内のうなぎ業者は常に生活の危機にさらされている。このような事情から,2002年ころ以降,国内の少なからざるうなぎ業者が,「里帰りうなぎ」を隠れ蓑にして,事実上の産地偽装に手を染めていった。

繰り返しになるが,このような産地偽装が横行した背景には,国産うなぎに対する過剰とも言える消費者の信頼があった。これは信頼を通り越して信仰と言っていいほどのものである。このような「信仰」が背景になって,経済学的または科学的に説明がつかないほどの価格差が発生したことが,偽装の遠因となった。とすれば,経済学や科学では説明のつかない価格差が存在する商品については,うなぎに限らず,偽装が発生する可能性があることになる。(小林)

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