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2008年8月13日 (水)

ICタグでいじめ兆候把握

2008813日の日本経済新聞朝刊は,「顧客管理システム開発などを手掛けるMR(福岡市、前田勝巳社長)は非接触ICタグを使った登下校管理システムを開発、9月から福岡県内の小学校で実証実験を始める。校門に設置したセンサーで児童の登下校を検知し保護者にメールで知らせるほか、一緒に帰宅しているグループの傾向を分析して、仲間はずれにされるなどいじめの兆候をとらえることも可能」と報じた。「実証実験は福岡県粕屋町の粕屋中央小学校で実施。すでに6割の保護者から参加申し込みを受けた」とのことである。

非接触ICタグで児童の登下校情報を管理するシステム自体は,すでに方々で実施されている。だから,記事の特徴は,このシステムを使って,「一緒に帰宅しているグループの傾向を分析して、仲間はずれにされるなどいじめの兆候をとらえることも可能」と宣伝している点にある。

しかし申込者が6割では,仲間はずれの兆候をとらえることなどできない。リアル社会では5人グループで下校しても,システム上では3人グループで下校したとしか認識できないのだから。また,保護者の考えでICタグを持たせてもらえないいじめられっ子がいたとして,この子どもがICタグを持ついじめられっ子に取り囲まれて下校しても,システム上は何ら異常は検知されない。また仮に,全児童にICタグを付けたところで,いじめを把握することは困難だと思う。例えば,いじめられっ子がいじめっ子数人に囲まれて一緒に下校すれば,システム上には何ら異常は感知されないのだから。

前田勝巳社長が想定している「仲間はずれの兆候」とは,次のようなものだろう。「先週まで,A子はBC子と3人グループで下校していたのに,今週から,B子C子はD子E子のグループで下校するようになり,A子は一人で下校している」というようなパターンをいじめの兆候として把握しようというのであろう。しかし,このようなパターンをシステム上把握するのは極めて困難である(何秒離れて通過したら,『一人で下校した』と把握するというのか。児童の行動は,例えば通勤途中のサラリーマン(一方向に向けて一定の速度で移動する)などに比べて極めていい加減であり,30秒離れて通過しても,実距離は数メートルに満たないことだって多い)うえ,そもそも,「仲間はずれの兆候」は,こんなにわかりやすいパターンで現れるものではない。

このようなシステム上の限界を知りながら「いじめの兆候が把握できる」と主張するMR社もどうかと思う。社長の前田勝巳氏は,自らもいじめられた経験があると言っているそうだが,同氏は,「このシステムがあれば自分はいじめられないで済んだ」と思っているのだろうか。

それよりも問題は,学校や保護者の間に,いじめの予防をICタグシステムに頼ろうとする傾向がかなり増してきている点だ。

もちろん,人間に電子首輪を付けるなんて!と主張するつもりはない。筆者自身,痴呆老人の徘徊防止のため,身体にICタグを埋め込むことも検討対象にしてはどうかと提案したこともある。しかし,ICタグシステムで人間の行動を管理・監視しようとするときには,それなりの覚悟が必要だ。このようなシステムでいじめを防止しようとする考えを持つ人たちは,人間性や,子どもという生き物に対して,とても浅はかな認識しか持っていないのではないかという気がする。いじめの兆候は,親や教師が,子どもの顔色や行動を観察し,子どもと真摯なコミュニケーションを取る中で発見するべきことである。もちろんそれには限界があるが,この限界を子どもとのコミュニケーションで解決しようと努力することそれ自体が,いじめ防止のために大事なのだと思う。教育は便利になれば良いというものではない。機械に頼ってはいけないこともあるのだ。

ICタグで児童の登下校を監視してもいじめの兆候が発見しきれないとすれば,このシステムは当然,学校中にセンサーを張り巡らせて,児童が休み時間に誰と遊んでいるか,給食を誰と食べているか,などを把握する方向に進化するだろう。そして,その進化は,ある種の人びとから支持喝采を受けるのだろう。なにより不気味なのは,このような支持喝采が,紛れもない善意から発生しているという点だ。

(参考)

http://kyushu.yomiuri.co.jp/keizai/detail/20080804-OYS1T00447.htm

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