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2008年9月 3日 (水)

ニュースを読む視点2(2008年8月版)

法曹人口問題が,水面下で動いている。報道では,鳩山邦夫氏に代わって法務大臣に就任した保岡興治氏が,たびたび,法科大学院の統廃合に言及している。中央教育審議会でも,法科大学院のあり方について厳しい意見が相次いだと報じられた。文科省が,法科大学院の教育水準を向上させるための新規事業予算5億円を計上したものの,自民党が了承しないという「異例の事態」が報じられた。「スローダウン」を求める日弁連の緊急提言に対して,法科大学院側はいろいろ反論しているが,世論を味方に付けることはできていない。

筆者の目の届く範囲でしがかニュースを見ていないから取りこぼしもあるだろうし,個々の報道に言及する余裕もない。われわれ一般の弁護士は大海に浮かんでくるあぶくを見て,海流の行く先を知るしか無いわけだが(つまり漂流しているということかって?そのとおりです),現時点で,筆者の見るところは,次の通りである。

第1に,法曹人口政策に関する制度設計が失敗だった,という認識は,あからさまに口に出さないにせよ,各界(政府・与野党・法務省・裁判所・日弁連など)の共通認識である。

第2に,何をもって失敗と見るか,については,「期待した質の法曹が養成できていない」という点で,やはり各界の認識は共通している。

第3に,現在,ボールは文科省・法科大学院にある。

さて,ここから先は見解が多少相違してくる。文科省・法科大学院側は,法曹の質が目的値を達成できない原因は教育体制が不十分なことにあるとして,その充実を図る対策を打ち出して,ボールを投げ返したい。しかし文科省外の多数は,低すぎる司法試験合格率が問題の本質だから,法科大学院を整理統廃合しなければ,法曹の質の問題は解決できないと考えている。自民党が文科省作成の予算案を突き返した理由はここにある。現在,この2者間でせめぎ合いの真最中である。

もちろん,法科大学院内部も一枚岩ではない。司法試験合格率上位校は,下位法科大学院など無くなれば良いと思っているし,下位校は,各校平等に定員を削減することで生き残りを画策している。

紆余曲折はあるにせよ,法科大学院の整理統廃合は避けられないと予想する。そうこうしている間に2010年になってしまうと思うが。肝心なのは,その次である。

問題が法曹の質にあるとして,その本質が低すぎる司法試験合格率に「のみ」あるならば,法科大学院が整理統廃合され,当初設計どおり78割の合格率を達成するだけで,問題は解決するはずだから,司法試験合格者数3000人は維持される。また,法科大学院数や定員数は文科省の管轄だが,司法試験合格者数は法務省の管轄である。だから,肝心なのは,法科大学院の整理統廃合後,又はこれを見越して,法務省が,司法試験合格者数減に踏み切るか否かである。もちろん,20103000人は閣議決定事項だから,法務省の独断で行うことはできない。だから,司法試験合格者数減に舵を切るためには,基本的に,閣議決定の変更が必要だ。

おそらく,当事者の思惑は2分される。保岡興治法務大臣に代表される勢力は,法科大学院は統廃合して総定員数は減少させるが,司法試験合格者数3000人は維持する (2010年は無理としても),という立場である。言い換えれば,司法試験合格者数3000人を維持するために,法科大学院を減らすという考えだ。文科省も,そのあたりを落としどころと考えている。

これに対して,法務官僚の一部に代表される勢力は,法科大学院を整理統廃合しても,法曹の質の問題は解決しないと予想している。既に大量の人材離れが発生しており,法科大学院に入ろうという優秀な学生が減っているからだ。この予想が支持を得たときが,閣議決定を覆し,司法試験合格者数を3000人から減らすタイミングである。もちろん,司法試験合格者数を(例えば15002000人に)減らせば,法科大学院側は,再び整理統廃合を迫られる。しかし,最初に一旦減らしておけば前例となるし,全体としての痛みも少ない。つまり,法科大学院の整理統廃合は,司法試験合格者を3000人からさらに減らすための橋頭堡という考え方である。だから,この勢力にとって大事なことは,減らすことそれ自体ではなく,「さらなる整理統廃合」につなげる減らし方だ。もっとも,法科大学院の内部分裂が,整理統廃合の障害になるかもしれない。その時は,法科大学院数減を待たず,司法試験合格者数減少を図る選択肢が登場する。いずれにせよ,このとき,法曹への夢を絶たれた若者の姿が報じられるだろう。これで潮目が変わる可能性がある。

まとめると,現状は,3000人を維持するために法科大学院を整理統廃合すべしとする海流と,3000人を打破する第一段階として法科大学院を整理統廃合すべしとする海流との衝突と認識される。衝突の結果,全体としてどちらに流れていくかは,筆者にはまだ分からない。ただ,「法曹の質の問題の本質は,低すぎる合格率にある」とする多数意見は,おそらく建前論に過ぎない。なぜなら,低すぎる合格率を解消する方法には,論理的には司法試験合格者数増(例えば年5000人にする)というやり方もあるのに,このような主張は全く登場しないからだ。そうだとすると,「3000人は上限」という共通認識があることになり,保岡法務大臣らの勢力は守勢に立つことになる。(小林)

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コメント

この2つの考え方があるということは、鋭い見方であると思いました。
法務官僚の一部に代表されるという立場に属する議員は、たとえばどのような方がおられるとお考えでしょうか。
イメージとしては、鳩山邦夫、与謝野など必要な規制はすべきとする
議員(いわゆる上げ潮派ではない。)や、河合元法務副大臣らといった
面々が浮かびますが・・・

投稿: a | 2008年9月 3日 (水) 20時45分

コメントありがとうございます。増員抑制に属する議員は鳩山氏をはじめ与野党に何人かいますが,これも文字通り同床異夢であり,誰をもって代表というべきか,は残念ながら分かりません。主として弁護士の台頭や訴訟社会を嫌う立場,司法書士や行政書士の利益を代表する立場,単に文科省や法科大学院が嫌いな人たち,などがいるようですが。。。

投稿: 小林正啓 | 2008年9月 3日 (水) 22時11分

先日、大野病院事件のエントリにコメントした「若手の弁護士」です。今回も大変興味深く拝見しました。

1点、司法試験合格者減少の際には「法曹への夢を絶たれた若者の姿が報じられる」とのことですが、むしろ、最近は「弁護士資格を得たにもかかわらず新人の働き口がない」、「ワーキングプア弁護士」といった報道が増えているように思います。そういった報道を契機に、「食えない弁護士が無駄に訴訟を起こしたら困る」、「日本はアメリカとは違うのだから弁護士がたくさんいても役に立たないだろう」といった、増員に批判的な声も上がるのではないか、という気もしますが、いかがでしょうか。

投稿: | 2008年9月 6日 (土) 04時19分

コメントありがとうございます。確かに,ご指摘のような報道を含め,様々な報道があると予想されます。ただ,「法科大学院構想編15」でも述べたとおり,教育機関の廃止で若者の夢が絶たれることは,大きな社会的損失でるため,ご指摘のような報道に較べ報道価値が高い,というのが私の意見です。

投稿: 小林正啓 | 2008年9月 6日 (土) 09時44分

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